憤懣
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望夢と高橋が自室にてささやかな祝勝会を上げてから程なくして、二回目の戦闘シミュレーションが行われた。
次こそはみんなを従えて完全勝利を目論む望夢であったが、彼の意気込みとは裏腹に他のメンバーは彼の指示に従わず、結果は散々なものとなった。
前回唯一モウリョウを撃破したチームとして、他の隊員たちにも一目置かれていたのが、今回は逆に望夢のチームだけが一体もモウリョウを倒せず全滅した。
そのあまりの不甲斐なさに、望夢はどうにかその場は堪えたものの、自室にて高橋と二人きりになった時、とうとう我慢できずに愚痴をこぼした。
「何だよ、今日のシミュレーションは。酷いったらありゃしない!」
「確かに、前回のに比べたら酷いもんだったな」
高橋は自分のベッドの上であぐらをかきながら、望夢の話に相槌を打つ。訓練で実銃を打てるようになってからも、相変わらず毎日モデルガンのメンテナンスをしている。どうやら本物とコレクションは別物らしい。
「あの時弓矢がぼくの指示を聞いていれば、薙刀がむざむざやられることはなかったんだ。それに――」
堰が切れたように止まらない望夢の愚痴を、高橋は最初は手を動かしながら相槌を打っていた。
だが、望夢の頭と話が徐々に加熱していくにつれ、相槌を打つのとモデルガンのメンテをする手が止まった。
「なあ、高橋もそう思うだろ?」
「う~ん……」
同意を求める望夢の声に、高橋は眉間に深い皺を刻みながら唸り声を上げる。彼がこんな渋い顔で喉を唸らすのは、分解掃除したモデルガンの組み直しが思い通りに行かない時ぐらいだ。
「そうだなあ……」
高橋はグリスで汚れた手をウエスで拭き取ると、体を回して望夢と正対する。
「確かに、お前の愚痴はもっともだ。あの時ああしてれば、こうしてれば――今から思えば、正解だったのは全てお前の方だ」
「だろう――」
賛同を得て勢いづきそうになる望夢を、高橋は片手を上げて制する。
「しかしな、いくらお前の指示が正しかったとは言え、誰もお前には従わないと思う」
「どうして? ぼくの方が正しいのに」
「本当にわからないか……」
きょとんとする望夢の顔を見て、高橋は溜息のように鼻から大きく息を吐くと、これで話は終わったとばかりに体を回してベッドの上のモデルガンに向き合い、メンテナンスの続きを始めた。
「なんだよそれ……」
不満げに呟く望夢の声を、モデルガンが立てるプラスチックのこすれる音が掻き消した。




