指がもげるまで撃て
*
それから望夢は、指の皮がめくれるまで特訓を続けた。
その甲斐あってか、次の実弾射撃訓練では、どうにか的の中に弾を集められるようになった。
そうして望夢は、扱う銃火器が変わるごとに、高橋にモデルガンを借りて特訓を繰り返した。
そんなある日の座学の時間。
「いてて……」
望夢がタッチペンを持ちにくそうにしていると、
「どうした」
隣の席の高橋がこっそり声をかけてきた。
「うん、ちょっと指が痛くてペンが持てなくて」
「突き指でもしたのか?」
「いや、そうじゃなくて」
そう言って高橋に右手を見せると、彼は「うおっ」と奇妙な声を上げて周囲の視線を集めた。当然教官の耳にも入った。
「どうした高橋。何か質問か?」
「いえ、何でもありません」
「そうか。座学中に奇妙な声を上げるなよ」
「失礼しました~」
高橋は愛想笑いを浮かべて教官の説教をやり過ごすと、こそこそと声をひそめて望夢に話しかける。
「何だよその指は?」
望夢は右手の人差指の皮が破れるのも構わず引き金を引き続けた結果、指の皮が角質化して立派なトリガーだこができていた。
「まるで歴戦の兵士か殺し屋の指だな」
「そんないいものじゃないよ。皮が突っ張って上手く曲がらないから、箸もろくに持てなくて困ってるんだよ」
「つーか、そんなになるまで無茶するなよ。ちょっとは加減しろ馬鹿」
「加減なんてしてたら、いつまで経っても落ちこぼれから抜け出せないんだよ。これでもまだ足りないぐらいだ」
望夢には、モウリョウを倒すためならば利き腕の人差し指ぐらい失ってもいい覚悟がある。だが彼の心意気に反して、射撃の成績は芳しくなかった。
射撃の成績は、新しい銃を渡される初回から採点されている。ガク引きの癖がある望夢の成績は、特訓で克服するまでの間ずっと低空飛行をすることになる。
加えて発射の反動に慣れるのにも他人より時間がかかる。その結果、人並みに的に当たるようになる頃には訓練が終わり、次の銃へと移行してしまう。そしてまた同じことの繰り返しだ。
こうして望夢は順調に、銃火器クラスの中で落ちこぼれの地位を確立していったのであった。




