エピローグ
入学式の翌朝。校門前には風紀委員たちが服装チェックに立っている。目を光らせている風紀委員の中に、一際周囲の視線をひきつけている男がいる。
「きゃー、本郷先輩だ!」
「朝からラッキー!」
通り過ぎる女子生徒が、浮き足立っている様子が見て取れた。そんな中を、楓は俯き加減で歩いていく。すると、
「そこの女子」
本郷が声をかけてくる。周囲に女子は大勢いるが、おそらくこれは楓を指しているのだろう。何故なら、本郷と目が合ったからだ。
楓が立ち止まると、本郷が寄ってくる。
「ネクタイが曲がってますよ?」
「……そうですかね?」
いつも通りのネクタイだと、楓は首もとを弄りつつも首を傾げる。
その様子を眺めていた本郷が、小さく笑った。
「挨拶の口実ですよ、せっかく朝から顔を見たんですから」
小声でささやく本郷に、楓も微笑んだ。
「ふふ、ネクタイ、気をつけます委員長」
「そうしてください」
精一杯のしかめっ面を作った本郷が、なごり惜しそうに視線を外した。
――巽さんと会ってから、もう一年か
この一年にいろいろありすぎで、早かったような、遅かったような不思議な気持ちになる。
新年にあった楓の誘拐事件の後一時期、両親や本郷、果ては石神様までもが楓に過保護になった。正直窮屈に思わなかったというのは嘘になるが、それでもみんなが心配しているということは理解できたので、しばらくはみんなの言うとおりに、楓は過保護にされていた。
しかしそれも、何事もなく楓が毎日を過ごすうちに、緩やかなものになっていった。楓がまたさらわれるかもしれないという恐怖が、消えはしないだろうが、徐々に落ち着いてきたのだろう。
楓もヘッドフォンをしないで歩く道のりを、平然と歩けるようになるまで苦労した。だが人間は慣れる生き物で、石の声を気にせずに歩けるようになってきた。もっと早くこうしていればよかったと思うが、きっと今がヘッドフォンをとるタイミングだったのだ、と本郷に言われた。
「楓ちゃん、おはよう!」
後ろから声をかけられ振り返ると、橋本姉妹が歩いてきた。
「寧々ちゃんに莉奈先輩、おはよう」
楓が挨拶を返すと、二人は両方から肩を組んできた。
「楓よ、今年も郷土歴史研究会の新規メンバー獲得に精を出すぞ」
「そう!歓迎のためのオカルトスポットも調べてあるんだから!」
莉奈のやる気はわかるが、寧々のやる気は楓としては遠慮したい。
二人と一緒に歩きながら、、楓は去年俯いて通った校門を振り返った。
――今年も、楽しくなりそう
顔を上げた楓は、笑顔で進んでいった。




