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石神様の仰ることは  作者: 黒辺あゆみ
第三話 郷土歴史研究会

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その2

今週末の活動が決まったところで、国語科準備室に顔を見せた人物がいた。

「みんなやってるわね」

そう言って顔を出した新井先生は、室内に入ると楓の正面に座った。

「先生、今年も無事に同好会が認められそうです」

莉奈が喜びの報告を新井先生に行う。

「まあおめでとう。じゃあこれは、私からのお祝いね」

新井先生が、国語科準備室にある小型冷蔵庫から、冷えたプリンを取り出した。数は五つ。


「みんなで食べましょう」

「わーい!」

寧々が喜んでプリンを受け取り、みんなに回す。

「おや、僕の分もあるのですか」

「ふふ、もちろんよ。副部長さん」

莉奈に邪険にされた経緯もあり、本郷は自分のプリンが用意されているのが意外だったらしい。莉奈のあの態度は、やはり楓のためのちょっとした牽制だったのだろう。なんと言ってもセクハラ事件から、三日しか経っていないのだ。

「石守さんには改めまして、顧問の新井よ、よろしくね」

「はいっ、こちらこそ」

改めて自己紹介をしてくれた新井先生に、楓は小さく頭を下げる。


「それで、どこに行くことになったの?」

新井先生が、先ほどまでの話し合いの結果を聞いてきた。

「公園にある古墳はどうかと、話をしていたところです」

新井先生の質問に、本郷が答えた。

「そして、帰りにみんなでお好み焼きを食べる!」

寧々が手を上げて発言した。

「まあ、いいプランね」

新井先生が、賛成するように手を叩く。これで、週末の活動は古墳巡りで決定のようだ。


 弁当を食べ終わった後、みんなでプリンを食べる。楓はプリンを口に入れながら、ちらりと本郷を見た。本郷が静かにプリンを食べる姿は、似合っているような、アンバランスなような、奇妙な感じがする。それにしても。

「意外だ……」

「何がですか?」

本郷が楓の呟きを拾ってしまったようで、こちらに視線を向ける。

 聞こえるとは思っていなかった楓は、見られると恥ずかしくなって頬を赤く染める。しかし、本郷にもういちど催促されるように尋ねられ、渋々口を開く。

「本郷先輩は、なんていうかもっと、大きいというか、有名な部活に入っているかと思って」

「ああ、それですか」

本郷は苦笑する。そして隠すことではないと説明してくれた。


「中学までは弓道をやっていたのですよ。しかし高校入学を期にこちらに引っ越してから、やっていません」

どうやら本郷は元々弓道部だったらしい。それを聞くと納得できる。きっと中学時代、弓道着が似合う美少年だったのだろう。

「弓道部に、誘われはしたのだろう?」

莉奈が本郷に問いかけると、微かに頷いた。

「けれど、もう大会などに身を削るのは疲れまして。高校ではのんびりと過ごそうと決めていたんです」

そう答える本郷は、後悔しているような表情ではなかった。

「しかし弓道に嫌気が差したわけでもありません。近くに弓道場があるとは聞いているので、一度行ってみようと思いはするのですがね」

本郷の言葉に、楓は「あ」と声を上げた。


「……それ、たぶんうちの神社です」

楓が教えると、本郷が驚いたように楓を見た。

「そうなのですか?」

本郷に楓は頷く。

「まあ偶然ね!でも神社といえば、破魔矢ですものね。弓道とは縁があるのかしらね」

新井先生が訳知り顔で頷いている。

「そうみたいですね。祖父も父も、弓道をやってましたから」

「……あの神社に、そんな場所があったんですか?」

本郷は石守神社の小さな境内を思い返しているようだ。

「気付かなくても無理はありません。神社の敷地の一番奥ですから」

「そうですか。一度、伺ってみたいですね」

「はい、ぜひどうぞ」

本郷のそれは社交辞令だろうが、楓はそう答えておいた。



それから毎日、楓は昼食を国語科準備室で食べるようになった。莉奈や寧々と一緒に昼食を食べるのは、ことのほか楽しいものである。本郷は昼休みには、風紀委員や生徒会の集まりに顔を出さなくてはならないらしい。けれどもたまに顔を出したりする。

 そんな本郷に対して莉奈は、

「正義の鉄槌を下してやったので、これで楓の敵はとったぞ」

と自信満々に言っていた。彼女は一体何をしたのだろうか。

 だがあれ以来楓の前で、本郷の副音声が主音声と入れ替わることはなかった。石神様が霊石の念を減らしてくれたことが効いているのかもしれない。なので楓はだんだんと、本郷の前で身構える必要がなくなっていた。主音声の本郷は基本紳士的であるので、楓としては警戒を続けるのも心苦しくなってくるのだ。


 楓は今日も橋本姉妹と一緒に弁当を食べていた。

「寧々ちゃん、クラスで食べなくていいの?」

いつも誘いに来てくれる寧々に、楓は疑問を投げかけた。

 楓はクラスで一緒に昼食を食べる友人などいない。けれども寧々みたいに明るい生徒ならば、クラスの仲のよい友人が待っていたりしないのだろうか。

 楓の疑問に、寧々は笑っていた。

「私ねー、集団で群れるって苦手なの。中学までいじめられっ子だったし」

あっけらかんとした口調で話す寧々に、楓が逆に驚いた。

「そうなの!?」

こんなに明るくて可愛らしいのに、人は見かけに寄らないものだ。


「そんなひどいものじゃなかったんだけどね。なんていうか、人に言わせれば、私って空気が読めないらしいのね」

元々人付き合いの少ない楓は、空気を読むということの感覚がわからない。だがそれが、寧々のいじめの原因だという。

「寧々は決してデリカシーがないわけじゃない。だが、寧々のペースで付き合えない人間からすると、気が利かないという言葉が出てくるわけだ」

妹を慰めるように、莉奈が寧々の頭を撫でる。気が利かないというのも、個人の感覚によって左右されるものではないか、と楓は首を傾げる。

「あー、そういう楓ちゃんって、私好きだなぁ」

いじめる側の感覚を、いまいち理解ができていない楓を、寧々がぎゅっと抱きしめてきた。

「だったら無理に集団に属しておく必要もなかろう。そう思って、部活に誘ったのだ」

「それに私、オカルトものが大好きだしね!」

「……そうなんだ」

どうやら寧々は、楓と間逆の趣味らしい。


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