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The All Online ~アイテム「だいじなもの」を活用して、レベル1のままVRMMO世界を満喫します~  作者: 浅磯航河


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第18話 チートの疑い

 案内された部屋はこじんまりとした場所で。机と椅子二脚ぐらいしかない薄暗い部屋だった。


 バタン。ガチャリ。


 俺の後から入室してきたフェイラさんはなぜだろう。後ろ手にこの部屋の鍵を閉めていた。


「ごめんなさいね。情報の漏洩を防ぐために、念のため鍵を掛けさせてもらっているの」


「は、はぁ、そうなんですか」


 密室、二人きり。しかも相手はあのフェイラさんだ。机を挟んで俺の向かいに座った彼女は、全 TAOのNPC。それにプレイヤーも含めた中でもかなりの美人アバターである。


 ブロンドヘアーの毛先は緩やかにウェーブしており、それはまるでいいとこのお嬢様を連想させる。ギルドの制服に身を包んだその体は、宿屋のメルンさんには及ばないものの、まるでモデルのようにメリハリの効いたボディをしている。男としてどうしてもそういう部分に目が行ってしまうのは、どうか許してほしい。


 ガタンッ。


 何も言わずに立ち上がったフェイラさんは机に両手を付いて体を前傾させた。そして俺の方へとその端正な顔を近付ける。うわ。睫毛長っ。目ぇ大きいっ。アイドルやモデルをやっている女性と間近で見つめ合うというのはこういう感じなのだろうか。あぁ、VR万歳だ。


「え、ちょ、フェイラさん?!」


 俺の動揺をよそにして、どんどん距離を詰めて来るフェイラさん。


 ゴクリ……。


 思わず。喉が鳴ってしまった。だって、このままじゃ顔同士がぶつかってしまい、それは危険だ。その場合、どこか柔らかい場所をクッションにする必要があるわけで。そして、顔にある柔らかい場所と言ったら。


 彼女の唇が目に入る。桃色のリップが光るその唇はもぎたての果実のように瑞々しく、スライムのように弾力があって。まずい。心臓がバクバク言ってるのがわかる。体調不良と間違われて強制ログアウトされないよな?


 しかし。


 その艶やかな唇が俺の唇と…………触れることはなかった。


「……えっ?」


 唇を逸れてフェイラさんが止まったのは、ちょうど俺の耳の前。


 彼女の吐息が耳朶をくすぐる。その生々しい温かさが俺の体を強張らせる。いったいナニをされるのか見当もつかない中、彼女が囁いたのは―――。




「 ち ぃ と ♡ 」 




「…………えっ?」


 吐息混じりのそれは、予想もしていなかった言葉であり。


「あなた、チートしていますよね?」


 そんな、甘い期待を裏切る一言だった。






「チート行為をなさってますよね? プレイヤーネーム、リン様?」


 再び着席した彼女が俺にそう言い放った。


 チートというのは簡単に言えばゲームを改造する行為である。所持金を増やしたり、ステータスを異常な数値に増やしたり。オンラインゲームにおいては昔から非常に根の深い問題である。


 個人でチートを楽しむだけでなく、RMT(リアルマネートレード。現実のお金でゲーム内のお金やアイテムを売買する行為)と絡んでいる場合もある。世の中にあるほぼ全てのゲームで禁止事項となっており、なんでもありのTAOでもゲームバランスを崩しかねないチート行為は禁止されている。もっとも、あまりにもTAOのセキュリティは強固であり、誰もチートに成功していないのが実情だけれど。


 フェイラさんは笑顔は崩していないものの、その表情は有無を言わせない迫力に満ちていた。冗談で口にしたことではないということが理解できる。というか、NPCがチートという言葉を使ってくるものなのか? もしかしてNPCの中でも運営に近い権限を持ったキャラクターなんだろうか。


「そんな! チートなんかしてないですよ!」


「えぇー? ほぉんとですかぁー?」


 あっ、あっ、フェイラさんの半目やばい。ゾクゾクする。俺M気質だったのかな? ……って、それはおいといて!


 完全に疑われている。よく考えれば、今俺がいるこの部屋もどこかおかしい。入り口の扉には鍵が掛けられ外に声が漏れないようにできている。部屋にあるのは机と椅子だけ。床や壁はよく見れば、赤黒い染みが至る所にこびりついている。尋問、拷問という言葉が頭にちらついて離れない。


「あなたが達成なさった実績なんですけど。実はアレ。かなーり難易度の高い実績でして」


「そうなんですか?」


 確かに他の実績と比べて難しい条件だなとは思っていた。ただでさえ確率の低いクリティカル攻撃を十回連続だ。相当な低確率であることは間違いない。


「一段階目の十回連続でしたら一人だけ。あまり詳しくは言えませんが、中央都市グラドリアの方で活動している方が。闘技場のランキングで言うと第五位に入っていらっしゃるプレイヤーさんが達成されています」


 十分詳しかった。というか特定が可能なぐらいだ。


「第五位……」


 気になるワードがいくつか出てきたが。まずは中央都市グラドリアだ。レベル10を超えた者だけが入ることを許された街であり、TAOの売りである「なんでも」が実現できる場所だ。武器や防具、アクセサリーの制作が解禁されるのはもちろん、ありとあらゆる種類の店が何百と軒を連ねている。


 フルダイブ型VRを装着しているプレイヤーは、実際にその店に行ったかのような体験ができる。ゲーム内のレストランで注文した料理は香ばしく良い匂いがして、口に入れれば、塩味、甘味など五味全てを味わうことができる。


 意外なことに、TAO内に出店している現実リアルの店というのは結構数が多い。ファーストフードから下町の食堂、更には老舗の料亭、三ツ星レストランまで。食べればその店の味が体験できる。


 若干の課金は必要になってしまうが、それでも現実より破格の値段で体験できるとあって利用するプレイヤーは多い。そして現実リアルでもその店へ足を運ぶプレイヤーが一定数いるため、店側にとってもこの上ない宣伝になっているのである。




 次に闘技場だが、その存在だけは前から知っていた。それというのもTAOの公式ページにプレイヤーランキングというものが載っているからだ。


 闘技場というのはプレイヤー同士でその戦力を競い合う場所であり、中央都市グラドリアにあるコロシアムという施設で行われている。上位に入ったプレイヤーは報酬のアイテムを受け取ることができると同時に、公式ページにて表彰されて名前が掲載される。


 彼らの多くは最新のアップデートで行けるエリアを全て踏破し、なおかつレベルはそのバージョンで許される上限近くに。武器、防具なども最上位のもので揃えている。つまり、ランキングとは廃人の証明である。


 そのランキングの五位ともなれば廃人中の廃人だ。きっと常時ログインしている類のやつだろう。クリティカル特化の効果を持った廃装備で固めれば、十回連続のクリティカル攻撃も可能になるということか。




この作品を読んでくださる方が徐々に増えてきているようで。

ありがとうございます!

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