第16話 クリティカル! クリティカル!! クリティカル!!! 実績達成!!!!
「ねぇねぇ、次はリンさんが戦ってみてくださいよ!」
「そうだな。せっかく武器を進化させてもらったことだし。試してみるか」
スライム、か。レベルが1になってしまってからは、結局一回も倒せていない。初心者の剣では攻撃が当たってもピンピンしていたが、進化した初心者の剣+では果たして……。
スライムの飛び掛かり攻撃を避けた後、初心者の剣+を振るう。
キィンッ!
「ピギッ?!」
スライムに攻撃が当たった瞬間。通常の攻撃時に発生する鈍い音ではなく少し甲高い音が響いた。クリティカルが出た証だ。ダメージはなんと3だった。1しかダメージが出なかった時と比べ、雲泥の差である。
それなりのダメージを与えられたおかげか、スライムを大きくノックバックさせることに成功した。その隙を逃さず、俺は続けて攻撃する。
シュインッ! キィンッッ!!
「ギギ……ィ……」
ダメージは3。続く攻撃で4。合計で11という致死量ダメージを叩きこまれたスライムは倒れ、地面に溶けていった。
「……み、見たか? ついにスライムを倒せたぞ……! うぉっ、うぅ……!」
「大人の男の人ってこんな声で泣くんすねー……まぁ、おめでとっす!」
荒ぶる俺のテンションに若干引き気味のアオイだったが、最終的には祝福してくれたようだ。
しかし、この「初心者の剣+」。本当にクリティカルしか出ない。。今までもクリティカル自体は発生したことがある。ただ、それも僅か数回のみ。一か月プレイしてきて数回だ。それほどクリティカルというのは本来発生し辛いものなのだ。
クリティカルが出ると、与えられるダメージが二倍になる。あとは攻撃が弾かれないという効果もあるらしい。自分の攻撃が常時クリティカルになるのはチートと言われても言い訳できない効果である。もっとも、俺のレベルは1固定であるためステータスが低く、そのため与えられるダメージもたかが知れているのだが。
「ふっ! はっ!」
「いい調子っすね! あたしも……っと!」
キィンッ! シュバァァ! ドォォンッ!!
普通にモンスターが倒せるというのは、なんてありがたいことなんだろう。武器はもちろんだが、防具の方も初心者装備によって最低限の防御力は確保できている。スライム相手なら、油断しなければまずやられることはない。
クリティカル特有の爽快な効果音と斬り応えに夢中になった俺は、アオイと共にしばらくスライムを狩り続けた。
ピコン!
「……なんだ?」
夢中でスライムを倒している中で。突然、俺の視界に実績達成というシステムメッセージが表示された。
「どうかしたんすか?」
向こうでスライムを叩き潰していたアオイが、動きを止めた俺の方へと駆け寄ってきた。
「いや、なんか実績がどうとかいうメッセージが……」
「あぁ、あれっすね。いつの間にか達成してるやつ」
アオイは心当たりがあるようだったが俺は初めて見るメッセージだった。
実績と言えばゲームには付き物と言えるやり込み要素だ。依頼を受けて達成すれば報酬が貰えるクエストとは違い、定められた項目を満たせば自動的に達成されるのが実績だ。ゲームによっては報酬が貰えることもあるこのシステムが、TAOにも存在しているとは知らなかった。
「アオイのはどんな実績だったんだ?」
「んーなんだったかな。確か、『オーバーキルを何回か発生させた』みたいなやつっすよ。確か攻撃力が上がるアクセサリーが貰えました」
「なるほどなぁ、俺が見たことない実績なわけだ。……というか、いいなそのアクセサリー」
例えば俺が使っていた鉄の長剣は、威力はあるもののどちらかといえば手数重視だ。オーバーキルなんて、それこそクリティカルの時ぐらいしか発生したことはない。ハンマーや大剣など重量級の武器を使うプレイヤー専用の実績なのかもしれない。
「それで? リンさんの実績はどういうやつだったんすか?」
「ええと、俺のは……『クリティカル攻撃をモンスターに10回連続で当てる』だそうだ。この間殴ったアオイのサンドバッグ君はアイテム扱いでモンスターじゃなかったもんな」
「うわっ、エグっ! エグすぎっ! なんすかその実績! 誰が達成できるんすか!」
「俺が達成したんですけど」
言われてみればその通りだ。確率が百分の一とも言われており、滅多に出ないはずのクリティカル攻撃を十回連続だなんて。正攻法で達成できる実績とはとても思えない。
「そっ、それでっ? 報酬は何が貰えるんすか??」
「まぁまぁ、そう急ぐなよ。ええと……俺のもアクセサリーみたいだぞ」
実績画面から報酬を確認すると、それは「幸運のブレスレット」というアクセサリーだった。
アクセサリーとは。武器や防具といった装備の一種であり、プレイヤーを強化してくれるアイテムである。ステータスの増加はもちろん、防具には付与されていないような特殊な効果を持っているものもある。他の装備アイテムよりも入手する機会が少なくなっており、高額で取引される傾向にあるのだ。
「効果は……なんだこれ。『運勢が程よく上がります』だってよ」
「程よくって……また曖昧っすねぇ」
TAOには「運」や「ラック」といった要素がない。他のゲームではクリティカル率やブロック率などに関していることの多い能力値だが、「プレイヤーの行動次第で運勢が良くもなるし悪くもなる」という理由から、能力値としては存在していないのである。
しかし、この「幸運のブレスレット」を見てみると。能力値として存在していないのだから何%上昇するみたいな具体的な数字は書いていないものの、確かに運勢が上がると書いてある。もしかしたら表面上のステータス以外にも隠されたステータスというものが存在しているのかもしれない。
「まぁ、上がる分には全然構わないけどな。それと、この実績にはどうやら続きがあるみたいだ」
「ウチのオーバーキルと同じで連続したタイプの実績っすね。次はクリティカル何回になってます?」
「五十回だな。よし……狩るか」
「……普通のプレイヤーにはまず無理な回数っすけどね。ゴーゴーっす!」
それから数十匹のスライムを斬り続けた結果。
ピコン!
「お、きたきた。五十回達成だ」
「いや~あっという間でしたね。流石確定クリティカル。見る方も爽快っすね」
「クリティカルって無駄にカッコいいエフェクト出るから強そうに見えるよな。さて、五十回目の報酬は……『強運のアンクレット』か」
今度は強運ときたか。効果は「運勢がそれなりに上がります」だった。一つ目にもらった報酬よりも美容に運勢が高いような感じがする。
「微妙に装着する体の場所を変えてるのが細かいっすね。手首の次は足首っすか。アクセサリー枠も充実しているとは……中々やるっすね、TAO」
「アオイは細かい部分に気が付くよな。……どうやらまだあるみたいだぞ?」
『モンスターにクリティカル攻撃を50回連続で当てる』という実績を達成したあとに表示されたのは、またしても同じ内容の実績だった。異なるのはその回数。とうとう三ケタの大台に乗ってしまったのだ。要求されているのは、なんと百回連続のクリティカルである。
「ここまでくると、キリの良いところまでーって感じっすね。ウチ、向こうの方からモンスターを集めてきますね!」
「助かるよ。ありがとな、アオイ」
「(*‵・ω・)b」
森の奥へと消えたアオイは、しばらくしてからその姿を現した。……その後ろに両手ではの指では数えきれないほどのスライムを連れて。
ところで。MMORPGのような多人数が同時に参加するゲームの用語にトレインというものがある。倒しきれなかったりわざとだったり、何らかの理由でモンスターを引き連れている行為のことだ。
「集めてきたっすよー! はい、どうぞ。ウチからの愛の贈り物っす♡」
「ばかやろっ……ちょっ、多いって……アオイィィィィ!」
「てへっ☆」
そして、そんなトレインしたモンスターたちを、他人のプレイヤーに押し付ける行為をMPK(Monster Player Kill)と言う。モンスターを利用した間接的なPKというわけだ。目の前で行なわれているのはまさしくソレだった。
TAOではPKもMPKも禁止されてはいない。というより禁止されていることなんて、ほぼほぼない。強いて言えばチート行為や現実での犯罪に誘導するような行為だ。ただ、リリースから一か月経った今でも、このゲームでのチートに成功したという話は聞いたことがない。強固なセキュリティに守られているからこそ、安心して自由に遊ぶことができるのだ。
ゲーム内のメッセージ表記のみ、1や10などの算用数字を使っています。




