第15話 初めての共同作業(狩)
フレンド機能のチュートリアルは続く。
「次は『フレンドをパーティを組んでみる』、か」
パーティ。それは特定の相手と一緒に行動する際に行なわれるものである。パーティを組むことにより様々なメリットが存在するのだ。
例としては、自分の持っているスキルの効果をパーティメンバーにも拡大できたり、モンスターを戦う時に戦略的な行動が可能になったり。「ダンジョン」と呼ばれるモンスターの巣窟には、パーティを組んでいなければ入場することができないものもあるらしい。
アオイの方を注視し続けると、いくつかの項目が彼女のアバターの周りに表示された。
「対戦」、「トレード」、「情報を見る」、などなど。その中の一つに「パーティを組む」という項目があったのでそれを選んでみた。
「あっ! 申請来たっすよ! 承諾しますね。ぽちー」
アオイの方に俺からのパーティ結成の申請がいったようだ。彼女が前方に手をかざすと「パーティが結成されました」というシステム表示が出た。これでクエストクリアだ。
「フレンド機能のチュートリアルもこれで終わりかな」
「これで一狩り行けるっすね!」
「久しぶりに聞いたなそれ。……ん?」
クエスト欄を確認してみると、最上段に表示され続けていたフレンド関連クエストがその姿を消していた。その代わり、クエスト欄の一番下に「フレンドと???する」という項目が表示されていた。
(なんだろう、???って)
おそらく、まだ実装されていないのだろう。TAOがリリースされてから、まだ一か月。今後、フレンド機能に追加される、未実装なものがあるのかもしれない。とりあえずクエスト欄の一番上に居座られることはなくなったのでよしとしよう。
正式にパーティを組んだ俺たちは、ファイゼンの街近くにある狩場へと来ていた。別にモンスターのドロップ品が欲しいというわけではないのだが、せっかくパーティを組んだことだし一緒に狩ってみようということになったのだ。お互いの動きを確認したいというのもあった。
「えーと、経験値の分配はどうしま……あっ」
そう言いかけて、彼女も途中で気付いたらしい。
「……そっちに全振りでいいよ」
パーティを組むメリットの一つに経験値の増加というものがある。モンスターを倒した時の経験値がソロプレイの時よりも僅かながら増加するのだ。パーティメンバーの数によってその値は変動し、二人の場合は10%の増加になる。
その増加した分の経験値はパーティメンバー内で自由に割り振り可能である。一人に集約させてレベリングさせるもよし、平等に全員で分配するもよしというわけだ。
ただ、俺たちのパーティにおいては経験値を分配する理由がない。
俺は「だいじなものコピー」というスキルを選択したばかりにレベルが1に固定され、それ以上一切上がらない状態なのだ。経験値を取得しても無駄になるだけなので、彼女の方に割り振った方がいい。
「これでウチの取得経験値が110%……なんか申し訳ないっすね」
「気にしないでくれ。そっちのレベルが上がれば俺も助かる」
「リンさん……(*´・ω・‵*)」
アオイのレべルが上がれば行けるようになる場所も増えるだろう。そしてそこで「だいじなもの」アイテムを入手できれば俺の戦力増強が見込める……かもしれない。レベル増加によるステータスアップも装備によるステータスアップも望めない俺は、唯一「だいじなもの」に賭けるしかないのだ。
「あっ、スライム! よぉし! それじゃウチからいくっすよ~?」
アオイの武器はハンマーだった。長い柄。そして大きな槌部分を備えたハンマーを大きく振り被る。溜めのモーションを三秒ほど続けた後。彼女はスライム目掛けてそれを振り下ろした。
「そぉう、れっ!」
ドオォォォン!
スライムの体、その半分近くを削り取ったハンマーは、その勢いのまま地面を揺るがせた。辺りに響く轟音。近くに生えている木に止まっていた鳥たちが、一斉に空へと羽ばたいた。
ダメージ数値は35。ファイゼン周辺に生息しているスライムのHPは個体差はあるものの大体10前後だ。明らかなオーバーキルである。
「凄い威力だな」
最弱のモンスターとはいえ一撃だ。見た目も、もちろんダメージも申し分ない。
「でしょ? ただ、今回は上手くいったっすけど、命中しないことも多いんですよねぇ」
確かにあの溜め時間は、かなり長く感じた。普段の生活で三秒と言われれば、それは短いと思う人が多いだろう。だがゲームで、しかも戦闘における三秒というのは正直長すぎる部類だ。素早いモンスター相手には当てることが難しいだろうし、上級者向けの武器ともいえる。
「武器を変えるというのは考えなかったのか?」
「それが……ウチの『アイテム進化』スキル。装備できる武器がハンマーに固定されるみたいで」
「まじかよ」
なんだろう。スキルというのは必ずデメリットが付いてくるものなのか。
俺のレベルが1から上がらないことよりはマシかもしれないが、攻撃の隙が大きいハンマーに武器が固定されるというのは結構痛い。かなりのデメリットだ。
アオイの「アイテム進化」というスキルは、その性質からいってハンマーを振るって行なう鍛冶のようなイメージが確かにある。だが、実際にスキルを発動させる時、そのハンマーは必要ないのだ。装備できる武器種が固定される不便さというのは俺でも容易に想像できるものだった。
かたやレベル1。
かたやハンマー固定。
デコボココンビ。




