第12話 パーティ結成
新しい武器に目を輝かせる彼女につられて、俺も武器の方に視線を落とす。
「初心者の剣+」
確かに凄い武器であり、この剣があればしばらくはなんとかなりそうだ。確定クリティカルの効果を上手く使えば、以前のようにスライム一匹も倒せないということはなくなるだろう。
あぁ、でも。その後がどうなるかだなぁ。レベルが1に固定されてしまった俺は、次の街へ行く基準であるレベル10を達成できない。なんでもありのTAOのことだから、多分他の方法もあるとは思う。でも、それには相応の強さが必要になる気がする。この剣だけでどこまで行けるのか、正直不安が残る。
俺のスキルは「だいじなものコピー」。通常のプレイでは一人一つしか入手できないはずのだいじなものアイテム。それをコピーして増やすことができるという、一風、いやかなり変わったスキルだ。
増やせるのはいい。ただ、それをどう活用するかが前々からの懸念点だったのだが……。
たった今、その答えが見つかった気がする。
俺が顔を上げると、同じタイミングで顔を上げたらしい彼女と目が合った。
「なぁ」
「あの」
お互いの声が重なる。
(あぁ、これは……)
昨日も感じたこの感覚。彼女の歩む道と俺の行くべき道がまるで交差しているような。
「ふふっ、せーので言わないっすか?」
「あ、あぁ……そうしようか」
はにかみながらそう言った彼女は、少しだけ照れ臭そうで。その顔を見ていたこっちまで恥ずかしくなってしまった。
「よかったら、俺とパーティを組まないか?」
「ウチとパーティ組まないっすか?」
一言一句同じ言葉ではない。だけど確かに同じ意味を持つ言葉がお互いの耳に届いた。
「俺とパーティーを組んでもいいと思った理由を聞いてもいいか?」
「あはは、なんか面接みたいっすね。……このゲームって色々凄いじゃないっすか。特にグラフィック関連が」
「確かにな」
VRゲームとしては最高峰のグラフィックだ。流石、国内屈指の企業が開発に関わっているだけある。現実と遜色ない、もしくはそれ以上の世界がこのTAOには広がっている。
「TAOの服装備って一部ですけど、現実の有名ブランドが監修してるらしくてですね」
「有名っていうと……あの、香水を寝間着代わりにするトコとかか?」
服やファッションに疎い自分ではそれぐらいの知識しか絞り出せなかった。
「まぁそんな感じっす。他にも色々なメーカーが参戦してるみたいで」
「マジか……」
ゲームデザイナーではなく現実のファッションデザイナーが関わっているということか。たかが一ゲームに。普通なら考えられないことだが、それだけTAOの影響が世界的に大きいということかもしれない。メーカー側もいい宣伝になるのだろう。
「……実はウチもデザインの勉強をしてたりして。VRならそういう服も全方向から見放題だし、自分のデザインの参考にできればなーって」
「おぉ……」
こんな目的でTAOをプレイしている人もいるんだと純粋に驚かされた。単純にゲームを楽しみたい俺とはえらい違いだ。
「ただ、そういう服を見るためにはファイゼンじゃなくて大きな街へ行かないといけないし、それなりにレベル上げしなくちゃいけないし、お金もいるしで。そろそろパーティーを組まなきゃ進めないなーって思ったところだったっす」
「なるほどなぁ。あれ? じゃあ別に俺じゃなくてもよくないか?」
レベル上げしたい、お金を稼ぎたいというのはプレイヤーの大半が考えることであり、同レベル帯のパーティーメンバーを募集している人はそれこそごまんといる。俺より強いプレイヤーは沢山いるはずなんだ。
「それはそうなんすけど。……やっぱりこれが決め手っすね」
「これって……『初心者の剣+』?」
俺が手に持っている初心者の剣+の方に目をやった彼女は、その柄の辺りを指差した。
「ほら、この部分。こんな細かく葉っぱとか木の幹が描かれているじゃないっすか。こんな装備、TAOじゃ他に見た事がないっす」
「どれどれ……本当だ」
言われて初めて気が付いた。剣の柄に当たる部分には、植物と木の実が光り輝いている絵が描かれていた。素人の俺が見てもわかる。緻密かつ繊細で質の高いデザインだった。
余談だがその描かれている木の実というのは栗だった。栗が光っていた。栗がテカっていた。栗、テカる。クリ、テカル。……いや、まさかな。いくら確定クリティカルの武器だからってそんなデザインにしたってことはないよな?
「お兄さんとパーティーを組んでいればデザイン性の高い装備に出会えて、そこからインスピレーションが得られそうだからっていうのがもう一つの理由っすね」
「そういうことか」
彼女の考えはおそらく正しい。初心者の剣一本とってもわかる通り、俺の「だいじなものコピー」には可能性がある。それは同様に彼女の「アイテム進化」にも。能力値はもちろんのこと、デザイン性が上がるアイテム、装備というのはまだまだあるに違いない。
「はいっ! 今度はこっちの番っすよ? なんでお兄さんはウチとパーティーを組みたくなったんすか? やっぱりウチの爆裂ボディに我慢できなくなっちゃいました???」
なんでコイツは自分のカラダを自慢したがるんだ。悩殺だの爆裂だの。そんなに自信があるっていうのか。
「いやいや違うから。大体、鎧を着てるから見えないし。それに所詮アバターだからなぁ。リアルとは違うだろ?」
「んー、それはまぁ……そうっすね」
(なんだ……何か言いかけたのか?)
俺のように、キャラメイク時にリアルの自分を投影できるスキャンモードを使うプレイヤーというのは極少数だ。ゼロに等しいかもしれない。なりたい自分になれるというのがゲームの魅力の一つであり、そう願ってキャラを作成する人の方が圧倒的に多数なのだ。
「正直に言うとさ。俺は手詰まりだったんだよ。なんせスライムにさえ勝てなくなっちまって」
「スライム一匹倒せない男の人って……」
「やめろぉ! 俺は本気で悩んでたんだから!」
「冗~談っすよ。ごめんなさいっす」
本気で言ったわけではないのだろう。全く悪意の籠っていない笑みで謝られた。
「……俺のスキルのデメリットでさ。レベルが1になって、さらに一切上がらなくなってしまったんだ」
「えっ、うそっ、レベルが……?」
彼女の顔が深刻そうなものに変わった。
「そうなんだよ。装備って大抵レベル制限があるから、レベル1じゃほとんどのものが装備できないだろ? レベルアップによるステータス上昇も望めないし。つまり、俺はこれ以上強くなれないはずだったんだ」
「……お兄さん、恨みでも買ってるんじゃないっすか。TAOの運営とかに」
「縁起でもないことを言うのはやめてくれ」
運営と俺は何の縁もゆかりもないはずだ。ただの一プレイヤーだし。本業の方もゲーム関係とは程遠い業種だし、関係がないと信じたい。……ないよな?
「俺に残されたのは自分のスキルだけだった。だけどその肝心のスキルも、だいじなものアイテムを増やせるだけで悩みの解決には導いてくれなかったんだ」
「そうしてウチと出会ったと」
「そういうこと」
やっと合点がいったという顔で彼女が頷いた。
「よーく考えたらベストマッチすぎるっすね。お兄さんがだいじなものアイテムを増やして、ウチが進化させる」
「そして俺はそのアイテムで強くなれるってわけだ。そっちは市場に出回っていないような進化させたレアアイテムを見てデザインを学ぶことができると」
どちらかといえば俺の利点の方が大きいとは思う。ただ、彼女もそれを理解していながらパーティーを組むことを了承してくれたのだろう。俗な話ではあるが、大枚をはたいて手に入れたフルダイブ型VRデバイスを無駄にせずに済みそうだ。
「そういえば言ってなかったな。俺はリンって言うんだ」
漢字とカタカナの違いはあるが本名である。顔や体型と同じく、より没入感を高めるために本名を登録したのだ。本当はセキュリティだのプライバシーだの問題があるのかもしれないが、バレて困るほどのプライバシーなど持ち合わせていないので別段問題はないだろう。
「ウチはアオイっす! これからよろしくっす、リンさん!」
「あぁ、よろしくな、アオイ」
レアスキル。もとい死にスキルを引いてしまった不遇な者同士。
そんな二人の冒険がここから始まったのである。
―――――――――――――――――
プレイヤー:リン
レベル:1
次のレベルまで:──
能力値
HP:10/10
MP:100/100
筋力:1
知力:1
耐久:1
器用:1
敏捷:1
スキル
・だいじなものコピー スキルレベル:1
装備
武器:初心者の剣+【クリティカル(極)】
頭:初心者の帽子
体上:初心者のシャツ
体下:初心者のズボン
足:初心者の靴
アクセサリー:なし
セット効果:「初心者」経験値追加10%(レベル5まで)
所持金:3281ジオル
―――――――――――――――――
いつも読んでいただきありがとうございます。
仲間が加わり、リンたちの冒険がやっと始まりました!
これからどんな「だいじなもの」に出会っていくのでしょうか。お楽しみに。
よろしければ、評価やブクマ、感想などいただければ幸いです。
私のモチベ維持のためにもお願いします!




