子育ての辛さを身を持って知りやがれ
小百合さんのお母さんに誘われて、僕は小百合さんの部屋で待つことになった。
子供を育てるとはどのような大変な事かを身をもって知るべきだと、僕のお母さんと同じ事を小百合さんのお母さんは言っていた。
僕は今、小百合さんの部屋で待っている。
以前にも入った事があるが、どうして女の子ってこんな良い匂いがする部屋にいるんだろうと不思議に思ってしまう。
僕は小百合さんの部屋にあるベットに腰を付けて目を閉じて黙っていた。
小百合さんの事が心配だった。
もしかしたら、小百合さん、やけを起こしてあの子と心中してしまうんじゃないかと思った。
いやいや、それは考えすぎだ。いくら分からず屋の小百合さんでもそんな事をしたら大変な事になってしまうと分かっているだろう。
でも心配は募るばかりで、僕はじっとはしていられなかったので、僕は小百合さんの部屋を出て、お母さんに挨拶をして、小百合さんを探しに行こうとしたところ。
「どこに行くの純君」
「いや小百合さんは大丈夫かと思って心配でやっぱり探してきます」
「そんな事をしなくてもあの小百合は身をもって知ることになるよ。だからそんなことをする必要はないよ」
「でも僕は心配だから探しに行きます」
「まあ、止めはしないけれど、とにかくあの小百合はちゃんと身をもって知ることだから」
身をもって知ることか、じゃあ、あの赤ん坊はどうなってしまうのだろう?
施設につれて行くと僕のお母さんと小百合さんのお母さんも同じ事を言っている。
それはいくら何でも残酷な事なんじゃないかと思ったが、考えてみれば、僕達に出来ることは何もない。ましてや育てる事も、養う事も出来はしない。
小百合さんに取って子供が出来る事はとても嬉しいことなのだろう。
僕達は子供がコウノトリが連れて来ることを信じた僕は恥ずかしさを知った。
これでも思わぬ収穫なのかもしれない。
もし施設に預ける事になれば、光さんの施設を紹介したいと思っていたが、それは無理な相談なのかもしれない。
それよりも小百合さんを探さないといけない。
僕は小百合さんが行く心当たりのあるところへと探し回った。
図書館にもいなかった。英明塾にもいなかった。
じゃあ、どこにいるんだと思って、僕達の秘密基地にいるんじゃないかと思った。
秘密基地に行ってみると、案の定小百合さんは僕達の秘密基地の廃バスの中に座っていた。
「小百合さん。どこにいたんだよ。探したんだよ」
「何よ純君、大きなお世話よ」
「やっぱり小百合さん。その子を警察に届けようよ。それかもし良かったら、光さんの施設で何とかして貰えるかもしれないよ」
「何よ、警察とか施設とか、そんなにこの子が私に育てられる事が出来ないと言うの?」
「考えて見なよ。僕達の力ではその子を育てられる事は出来ないよ」
「じゃあ、この子はどうなるの?親の愛情を知らないまま育っていくの?そんなの考えられないよ」
「でも剛君達も孤児じゃん。それでも光さんの愛情を受けながら育っているよ」
「・・・」
僕の説得が通じたのか?小百合さんは黙り込む。続けて僕は。
「世の中にはかわいそうな人はいっぱいいるよ。この世の中の人がすべて救われる事のないんだよ」
「でもせめてこの子だけでも私は救いたい」
「どうやって?」
「私働く」
「働くかって言うと、僕達の年齢からして、働けるはずがないじゃん」
「私も亜希子お母さんの様に翻訳家の仕事を探してみるよ」
「何を言っているの小百合さん。僕のお母さんがやっている翻訳家の仕事を舐めてるでしょ」
「舐めて何ていないよ。最近ではテレワークなんかでお金を稼ぐ人がいるじゃん」
「それも出来ないよ。僕達は所詮大人達の愛情を受けなければ生きていけないんだよ」
すると子供は泣き出してしまった。
「どうしたのかな?うららちゃん。おむつ?」
するとお母さんが来て、お母さんは小百合さんの事を威圧的な目で見て、その頬を叩いた。
「何をするのよ!」
「あなたが名付けた、うららちゃんが泣いているじゃない」
「そんなのすぐに泣き止みますよ」
そう言って、小百合さんはうららちゃんを抱きしめてあやしている。
でもどうした事か、うららちゃんはどうやっても泣き止まない。
「どうして?さっきまで笑っていたのに、いったいどうすれば良いの?」
「ちょっと貸しなさい」
そう言ってお母さんがうららちゃんを奪って、背中をさすり、うららちゃんは、口から小さなゲップをしたのだった。
そうしてうららちゃんは泣き止んだ。
「小百合ちゃんさあ、これで良く分かったでしょ。あなたはまだ子供で母親になるにはままごとぐらいの事だと言うことを」
すると今度は小百合さんが大きな声を上げて泣いてしまった。
本当にお母さんと小百合さんのお母さんの言うとおりだ。
僕達はまだ十歳だ。それに半人前にも満たない十歳だ。
小百合さんは自分のやったことに凄くショックを受けている。
でもこれで良かったのかもしれない。
僕が小百合さんに出来ることは、抱きしめる事ぐらいにしか出来ない。
だから僕はそんな泣いている小百合さんを抱きしめている。
すると小百合さんは自分のしたことが分かったのか抱きしめ返して来た。
「小百合さん。これで分かったでしょ。僕達にはこの子を養う事なんてできないんだよ」
「じゃあ、どうすれば、良いの?警察の所に行って施設に預けちゃうの?」
「施設にだってそんなに悪い所じゃないじゃん。それに剛君達はあのようにすくすくと育っているよ」
「じゃあ、とりあえず光さんのところに行って、頼む訳にもいかないでしょ」
「それは光さんに相談してみないと分からないけれど、すべての施設がそんなに悪い所じゃないよ」
そんな話をしていると、秘密基地に剛君達が現れた。
「よう、小百合ちゃんに純君、亜希子お母さんに話は聞いたよ。その子の事を光さんに頼んでみるよ」
「「本当に!」」
僕と小百合さんの言葉がハモった。
そこであっ君が、
「光さんならきっとその子を引き取ってくれると思うよ。俺達の施設、そう言った赤ん坊はいないけれど、光さんなら面倒を見てくれるよ」
「でも私はこの子を拾って来たから」
そこで明が、
「小百合、あんたはウチらと違って、結構頭の切れる人間だと思ったのに、仲間がいることを忘れてその子を一人で育てるつもりだったなんて、本当に剛よりも頭が悪いよ」
「何だよ明、それは言いすぎなんじゃないか?」
「私はモットーな事を言ったまでよ。剛は単細胞だけれども、かなりの頑張り屋でもあるんだから、そこに私は惚れているのよ」
「単細胞で悪かったな。でもお前が俺に頑張り屋なんて褒めるなんて、何か良いことでもあったのかよ」
「別に何もないわよ。私に褒められるだけでも、光栄に思う事ね」
「お前何様のつもりだよ」
「何様でも人様でもないわ。明様よ」
二人のやりとりを見て、僕達はどっと笑ってしまった。
小百合さんも光さんの施設に行くことに賛成しているみたいだ。それでいて、この子の将来は約束されたのかもしれない。
これでこの子供の件も解決したのかもしれない。
でも光さん本当にこの赤ん坊を預かってくれるのか心配だった。
早速僕達は僕と小百合さんが名付けたうららちゃんを剛君達の施設の施設長の光さんに頼みに行くことになった。
そして光さんの所に行って、どうやら引き受けてくれるみたいだ。
小百合さんはそんな光さんに感謝をして僕達ぐらいの体型の光さんを抱きしめるのだった。




