ナンバーワンにならなくてもいい、もともと特別なオンリーワン
少林寺拳法を後にして僕達はそれぞれの家に帰ることになった。
「じゃあ、小百合さん。また明日」
「うん。またね」
そう言って僕は自分の家に戻った時は午後九時を示していた。
「ただいま」
と言うと、ドタドタと玄関までやってくるお母さんが僕の頬にキスをしてくる。
「ちょっとお母さん。僕にそんなキスはしないでよ」
「何を言ってるのよ。私と純君の唯一のスキンシップなんだから」
「そんなスキンシップいらないよ」
「まあ、とにかくご飯が出来ているから、とりあえず食事にしましょう」
食事は僕の大好きなとんかつだった。
「凄いとんかつじゃん」
「今日は奮発して作っちゃった」
「それじゃあ、いただきます」
そう言って両手を合わせて言った。
「こらこら純君。その前に手を洗ってきなさい」
「はーい」
そう言って僕はお母さんの言うとおり手を洗いに行った。
そして改めていただきますと言って僕はとんかつに手を出すのであった。
とんかつもそうだけれどもお母さんの作る料理は本当においしい。
お母さんは僕がおいしそうに食べている姿を頬杖をつきながら見ていた。
そんな風に見つめられると何か恥ずかしくなってきて、
「何?お母さん?」
「そんな風に食べてくれるのは純君や小百合ちゃんだけだから嬉しいだけだよ」
ふとその時思った。
「お母さん」
「なあに純君」
「もし僕が死んでしまったらどうする?」
「何、突然そんな事を聞くの?」
お母さんは涙を流しながら僕に訴えて来た。
「お母さん、そんなに泣かなくても」
「泣くに決まっているじゃない。どうしたの純君、どうしてそんな事を聞くの?」
「いや、何となく聞いてみただけ」
「純君、そんな事を聞かないの!」
そう言って僕はお母さんに叱られてしまった。
その時思ったんだ。僕は僕だけの物じゃないと。
僕の命は僕の物でもあるが、お母さんや小百合さんや剛君達の物でもある。僕はかけがえのない人達に愛されていることを知る。
それは本当に嬉しいことだと僕は思っている。
僕は一人じゃない。一人じゃないんだ。
そう言いながら僕はとんかつを食べ終えて、「ご馳走様」と言った。
「そう言えば純君、麻美ちゃんの小説を書き終わったので読ませて貰ったよ」
「そうなの?で、面白かったの?」
「うん。面白かったよ、瑞々しい文章に恋の物語であったよ。とても四年生が書いたような小説ではないと思ったわ」
そうか、僕と小百合さんと麻美ちゃんは勝負をしているのであった。とにかく僕の小説はそろそろ仕上がる時だった。
麻美ちゃんや小百合さんに負けたくない。
そう思いながら僕は部屋に戻り小説を書くのだった。
何だろう。いつもと調子が違う。なぜか麻美ちゃんの小説が面白いと聞いて、もっと面白い小説を書こうとすると書けなかった。
どうしてしまったのだろう。いつもなら無限の想像力で今まで書いてきたのに書けなかった。
僕の小説はクライマックスを迎えている。それなのに書けないなんて。
面白い物を書こうとすると書けなくなってしまっていた。
そうだ。一度深呼吸をしよう。とにかく面白い物を書きたかったらいつものように楽しく書けば良いじゃないかと僕はそう思って書いた。
そうだ。楽しく自信があってこれは面白いと言う思いを込めて書けば良いのだ。
そう思いながら書いていると、クライマックスはどうしようと考えてしまい、僕はどのようなクライマックスを書けば良いのか考えさせられてしまう。
そうだ。クライマックスはハッピーエンドにしようじゃないかと考え始めた。
やっぱりハッピーエンドが一番だと思って僕は書き始めた。
そうだ。何事もハッピーエンドで終わらせれば良い。
どんなハッピーエンドにするかは僕にとってはそれは愚問であった。
ハッピーエンドはハッピーであり、とてもグッドな感じがする。
そう思って僕は小説を描いた。
そこで気がついたのだが、小説とは競い合う物じゃないと思う。
だから僕がお母さんに小説を見せても面白いとは言わないかもしれない。
でも小説とは面白い物じゃないといけない気がして僕だけが出来る面白さを追求していけば良いと思っている。
とにかく小説の締め切りは明日だ。まるで僕が小説を書いて、プロの小説家になったような感じがした。
本当に面白い小説を書くなら、とにかく楽しんで本当にこれは面白いんだと思えば、無限の想像力が増してきて、本当に面白い小説が描けそうになってくる。
そうだ。テンションをマックスにして書けば良い小説が書けるに違いない。
僕の夢はもし出来るのなら、保父さん兼小説家って言うのはどうだろうと思っている。
そんな事よりももっと小説が書けるようにしたい。
こんな夢のような事が出来たのはお母さんが子供になってしまったからだ。
耳を澄ましていると僕の部屋までお母さんがパソコンのキーを叩く音が聞こえてくる。
お母さんも僕を食べさせて、それに少林寺拳法を習わす為に必死になって働いてくれている。
それだけでも僕は恩にきる。
お母さん、今は大変だけれどもいつか僕も大人になったらお母さんを養えるようにしてあげるからね。
と心の中で呟いて小説に没頭する。
★
気がつけば朝だった。
僕は机に突っ伏して眠っていたそうだ。
あれ僕の原稿用紙が見つからないぞ。
そう思っていると、横でお母さんが僕の小説を見ていた。
「ちょっと、お母・・・」
そう言えば今日が締め切りだっけ。
お母さんは穏やかな笑顔で僕の小説を見ている。
「どうお母さん、僕の小説は?」
「とても良い感じに出来上がっているわよ」
「一つここで聞きたいんだけれども」
「何、純君」
「誰が一番だなんて関係ないよね」
「純君も成長したわね、お母さん嬉しいよ」
僕は成長したのか?そうだよね、誰が一番だなんて一概には言えないもんね。きっと小百合さんの小説も競い合う為にやっている事じゃないかもしれない。
もし僕が本当に小説家を目指すなら、楽しいだけじゃない試される時もあるだろう。その時までには本当に面白い物を書いて書いて書きまくってやると躍起になっている。
朝ご飯は自分で食べようとしていると、お母さんが台所までやってきて、お母さんが料理を作ってくれた。
メニューは目玉焼きにトーストにサラダだった。
僕はトーストに目玉焼きをのせて食べるのが良いと思っている。
そんな時である。玄関のチャイムの音がして、出てみると、小百合さんがランドセルを背負って僕の家までやってきた。
「小百合さん、おはよう」
「おはよう純君」
「あら、小百合ちゃん、今日も家の純君を迎えに来たのね」
「はい。それと」
ランドセルから大量の原稿用紙を手渡した。
「今日が締め切りだと言っていたので是非亜希子お母さんに見て貰いたいと思いまして」
「そう。じゃあ、後で読まさせていただくわ」
そのやりとりを見て僕は思った。お母さん大丈夫なのかなと。
あれほどの原稿用紙を終わらせるのは多少無理があるかもしれない。
でもお母さんは小百合さんの原稿用紙に目を通すのかもしれない。
それで学校に行く時間になり僕は小百合さんと学校に行く事にした。
小百合さんは学校に行く途中で語り合った。
「純君、この勝負、私の勝ちだね」
「・・・」
僕は勝ちも負けるもないと思っていた。
その事を小百合さんに伝えようとしたがどうもタイミングが合わず言えなかった。
きっと小百合さんも面白い小説を書いたのだと思っている。
だってあんなに目を蘭々にして書いていたのだから当然だと思っている。
そして学校が終わり僕は帰り、小百合さんは家にランドセルを置いて僕の家にやってきた。
小百合さんはドキドキしていたと思っている。
きっと僕と麻美ちゃんと小百合さんの小説がどれが面白いか判定を待っているのだろう。




