バスケの女神様
小百合さんが僕の家に泊まり、小百合さんのお母さんが家にやってきて、娘がやっかいになっていないか確かめに来た。
それで僕のお母さんとお話しすることになって、大人の話は長くなりそうだから、僕と小百合さんは剛君達施設の子供達が集まるバスケットコートへやってきた。
「今日は亜希子お母さんは来ていないの?」
剛君がつまらなそうに言う。
「ちょっと大人の話をしていてね」
「何?大人の話って」
「大人の話は大人の話だよ。長くなるみたいだから、僕達で剛君のところにやってきた」
「何だ、亜希子お母さんが来ないと始まらないのに、バスケの練習」
「今日は僕と小百合さんが相手してあげるよ」
「だってお前等、亜希子お母さんみたいにバスケうまくないだろ」
剛君のその言葉を聞いた僕と小百合さんはカチンときて、
「じゃあ、僕達と試合をしようよ」
「上等じゃねえかよ」
僕と小百合さんと麻美ちゃんのチームと剛君、あっ君、明のチームで試合をする事になった。凛ちゃんは審判をやって貰う事になった。
「あなた達、私の足を引っ張らないでね」
と麻美ちゃんが言う。
「言ってくれるじゃない、麻美、私達だって学校のポートボールで活躍しているんだから」
「バスケとポートボールじゃ訳が違うよ」
「それじゃあ、試合始めるよ」
凛ちゃんが言う。
凛ちゃんがバスケットボールを持ち、僕が麻美ちゃんと小百合さんよりも大きいので、先取ボールを取るのは僕か相手チームである剛君になった。
剛君は僕の目を威圧的に見てくる。僕も負けずとその目を反らさずに見る。
剛君の威圧的な目は少林寺拳法をしている主将に比べれば大したことはない。
そうだ。試合とは戦いだ。僕達は負けるわけにはいかない。
そして試合が始まり、凛ちゃんが高くボールを投げて剛君が上手に先取した。
伊達にお母さん相手にいつも特訓して貰っている事だけはあると僕は思った。
僕は剛君に突破されて、小百合さんが、ゴールの前で立ち塞がる。
「行かせないよ。剛君」
「俺はマジでBリーグで活躍する事を夢見ているから、負けられないんだよ」
と言って、小百合さんを突破して、次に麻美ちゃんがデフェンスに入る。
「行かせないよ剛、私はあんなちんちくりん達とは違うことを教えてあげる」
「お前もちんちくりんだよ」
そう言って、麻美ちゃんを突破してゴールを決めた。
「やめだやめだ。やっぱり亜希子お母さんが来ないと話にならないよ」
生意気を言ってくれる剛君だった。
悔しいが僕達では剛君には敵わない。さすがはバスケの神様みたいな存在のお母さんじゃないと話にならないかもしれない。
それにしても本当に悔しい。剛君にあんな事を言われて僕は本当に悔しくて悔しくて涙がこぼれ落ちそうになった。
そんな時である。お母さんがママチャリを漕いでやって来た。
すると僕達の試合を放棄して、剛君とあっ君はお母さんのところへ行ってしまった。
「待っていたよ。亜希子お母さん。今日も俺達に指導してくださいよ」
剛君が言う。
「あんな弱い奴らと試合なんてやってられないよ」
あっ君が言う。
「何、あなた達試合をしていたの?それにあっ君、あんな弱い奴らって言う言葉に聞き捨てならないわね」
お母さんは少々ご立腹の様だ。
「私はあんな奴ら何て酷い言い方をする人達にバスケを教えているわけじゃないんだよ。そんな傲慢な人にバスケなんて教えられないよ」
「すみません。亜希子お母さん。俺達、もっとバスケが上達したくてもっと亜希子お母さんの様な人にバスケを教えていただきたいんです」
「その、気持ちは分かるけれども、とりあえず、純君達の試合を放棄するなんて言語道断、絶対にしてはいけないことだよ」
「分かりましたよ、ちゃんと試合をします」
試合は続行することになった。
その前に剛君は僕と小百合さんと麻美ちゃんに謝ってきた。
「ゴメン。俺達が悪かったよ。とにかく試合続けようぜ」
剛君は改まった口調で言った。
今は2ー0であっ君と剛君が優勢である。
僕達は負けるだろうな。
今度は僕達がオフェンスに回った。
僕がドリブルをしてあっ君の前に立つと、突破出来そうな自信はなかった。するとあっ君は、
「純君、デフェンスされているときは相手の目を見るんだよ」
そう言えばお母さんもそんな事を言っていた気がする。
あっ君にボールを取られそうになったとき、僕は相手のあっ君の視線を見つめて視野が広がり、そして走ってきた小百合さんが「純君、パス」走りながら言うので僕は小百合さんにパスを渡した。
パスを受け取った小百合さんはそのままゴールしたまで行ってシュートを決めた。
するとボールはバスケットゴールに吸い込まれるように入っていった。
これで2-2だけれども、あっ君も剛君も明も何か手加減をしているような気がした。そう思った僕は、
「ねえ、君達手加減していない」
「していると言えばしているな、俺達はいつも亜希子お母さんを相手にプロを目指しているからな」
確かに剛君の言っている事は理にかなっている。
でも手加減されると何かつまらない様な感じがした。
「三人共本気で来てよ、いつもお母さんにバスケをして、腕を磨いている姿を僕達にも見せてよ」
「じゃあ、分かったよ本気で行くよ」
★
三人は本気でかかってきてすぐに十点先取されてしまった。
「どうだい!?俺達の本気、満更でもないだろう。これはお前の亜希子お母さんが伝授してくれた技でもあるのだからな、お前の亜希子お母さんにはいつも感謝しているよ・・・亜希子お母さん。俺達が悪かったよ。純君に悪く言ってさあ」
「分かれば良いわよ。とにかく私のプレイをちゃんとやっているわね」
「今日も厚と俺と明にご教授いただけないでしょうか?」
「良いわよ」
とお母さんは剛君達の事を許してくれたみたいだ。
僕と小百合さんと麻美ちゃんは三人に教えるバスケを見ていた。
今お母さんがオフェンスで剛君とあっ君がデフェンスに回っている。
「今日は行けるかな?」
「とにかくかかって来てくださいよ。亜希子お母さん」
剛君が言う。
剛君とあっ君は構える。
剛君もあっ君も必死だ。
そして審判の凛ちゃんが号令の笛を鳴らす。
するとあっ君も剛君もお母さんに立ち塞がり、ボールを手にしようと必死だ。二人には隙がいっさい感じられない。
そしてお母さんは神業の様に二人を抜いて、ゴールしたに辿り着き、点を入れられてしまった。
お母さんは本当にバスケの選手になれば良いんじゃないかと思い始めた。
お母さん言っていたっけ勝負の世界は甘くないと。
本当にお母さんがやるバスケは神業だ。
あんな動きをされたら二人ともとれないじゃないか。
お母さんはバスケットボールを片手でくるくる回しながら、余裕の表情でいた。
お母さんにバスケを教わるからにはあれだけ強くなれるんだろうな。
でも僕と小百合さんの夢はバスケの選手になることじゃなくて、小説家か、保父さんの夢を見ている。
剛君もあっ君も明も夢に向かうにはお母さんの力が必要だとも思っている。
僕もお母さんが必要だ。
もし僕にお母さんがいなければ、剛君達と同じように孤児となってしまう。
そう思うと僕は剛君達よりも恵まれている環境に過ごしている。
それに小百合さんも恵まれてる方だ。
今日小百合さんのお母さんに会って僕は安心したんだからな。
お母さんって凄いなあ、特に僕のお母さんは母子家庭にも関わらずに弱音をいっさい吐かなかった。いつもお母さんは僕の顔を見るとすぐに笑顔を見せてくれる。でもホッペにチューだけはされたくないと思っている。
そんな所を施設の五人の誰かに見られたら、笑われてしまう。
現に小百合さんには見られてしまったんだよな。




