19話 アームズ
ゆっくりと空から地面へと降り立つナイトメア。速度を落としてゆっくりとしたペースで歩いている、鉱山都市はもう目と鼻の先。
「んっ~さらさら」
大分慣れたのか、ナイトメアの背中でくつろぎながら撫で撫でと鬣を撫で回し、頬を摺りつけているティア。
「本当ニオモシロイ娘ヨナ?」
「んぅ?面白い?」
小さくうなづくナイトメア。
「我ニ怯エヌ。空ヲ飛ンデナオダ」
「うん、楽しかったよ?」
にこっと微笑むと、ナイトメアがため息をつく。
「ソレガオモシロイトイウノダ」
「ふにゅ?それはそうと、名前は~?ナイトメアって種族名だよね?」
無邪気に首をかしげ、ナイトメアにじゃれついている様は、幼子が馬に乗ってはしゃいでるようにしかみえない。
「名カ。フム、任セル」
任せる!?任せるって名前を付けろってことかな?国お……いあ、なんかイメージまんまな気がするから駄目な気がする。
スカーレットは子猫につかっちゃったし………
「じゃぁ、黒い帝王みたいだから!黒帝で!」
…………………
「クハハハ、オモシロイオモシロイナ。ヨカロウ。今日ヨリ我名ハ黒帝ダ」
「うんうん」
――いいのかそれで!!!思わず突っ込んじゃったよ。
んーー、けどナイトメアって本に載ってるのってこんなに大きくないし、上位種でも限られたのしか空飛べないって聞いたような?まぁいっか?
街へ着くと、黒帝は用があれば呼ぶが良いと言い残して空を駆けて行った。
夕方なのに、会談をすぐに行うらしく、街へ着くと同時に帝国の軍人さんが迎えにでてきた。なんで着いたのわかったんだろう?
迎えの人が宿を取ってくれていて、正式な私の服を中に用意しましたって言ってたけど、これかな?
長櫃のような木箱を開けると、黒い服が入っている。軍服だよね?黒なんだ?そういえば帝国の一定以上の位にある軍人さんはパーソナルカラーがあるんだっけ?
で、司令官や隊長の色にあわせて部隊の制服の色も決まるらしいけど。
服を広げてみる。おぉぉぉ!かっこいい!
いあ、ちょっとまって?これってどうなんだろう?詳しく無い僕でもなんとなくわかる。というかググッてみればいいんだよね。
うん、細部の意匠は違うけれど、どこをどう見ても某国の親衛隊の軍服だよね………いいの!?ねぇ?!異世界だからいいのかな?かっこいいけどさ。
こういうのってなんだかんだで、燃えるよねぇ。あぁ、こういう所は男なんだなぁって思う。
よかった、ちゃんとズボンだ。ミニスカートだったら責任者を呼び出しているところだよ!
うん、ふふふ、かっこいい!鏡の前でポーズを決めてみる。
おっと、軍帽もちゃんと被らないとだめだよね。ぅーーん髪の毛纏めないとだめかな?帽子に髪の毛が押されて耳が隠れちゃう。
……………ところでさ?これってサイズちょうどぴったり身体に合ってるんだけど、サイズいつ計られたんだろう???
気にしちゃ負けな感じかな??
よしっ!行こうか!!!
部屋からでると待機していた軍人さん(私の部下になるらしい?)に、息をするのも忘れるほど見つめられてしまった。変じゃないと思うんだけど……。
会談場所へ向かうまでも、すれ違う街の人がこっちを振り返っては動きを止める。うーーん?おかしいかな???背筋を伸ばして、こぅキリっ!って感じにしてるんだけど。
うぅ、段々自信無くなってきた。帰っちゃだめかな?
ちらりと少し後ろに着いて来る部下を見る。なんか手に小さな水晶を持ってる???なんだろう???
(ハァハァ、報奨にティア様の部下への転属希望を出してよかったああああああ!普段のほわほわとのギャップでたまらんですよ?!大絶賛録画中です!)
なんかすごく、異様な気配と視線を感じるんだけど。それだけこの人は強いのかな?上官として見定められてるのかな?
がんばらないと………。
「こちらになります」
3Mはある意匠の凝った巨大な鋼鉄の両開きのドア、ぇ?これ開けるの?ムリムリムリ!!!
ギギギと軋むような音を立てて目の前でドアが開いていく。
内側からドアを低くのは、150cmぐらいのあごひげの長い、なんていうんだろう?ちっちゃな黒ひげのサンタクロース?金属鎧を着込んでいる。
ってドワーフだ!!ドワーフだよ!渋かわいい!?
キラキラとした眼差しで見つめられて、思わず戸惑う門番のドワーフ2名。
「立ち話もなんだ、席につかれるがよい」
声のする方をみると、やはりドワーフが腰をかけている。その横には、細いドワーフとは違う、メガネをかけたチョビ髭のおじいちゃん?
あぁ、なんかそれも可愛い気がする。持って帰っちゃだめかな????
ゴホンっと咳払いが聞こえる。あ、そうだ。ごめんなさい。
「帝国大公が娘、ティーティアと申します。大公家の名代としてこの場に参りました」
小さく敬礼してから、空いている椅子に腰を降ろす。丸テーブルなのは上座とかを無くすためかな?
「儂はドワーフのアイゼンヴァルトじゃ」
「わしゃ、ノームのヴァルトアーヴじゃよ」
おぉ、エルフや獣人は見たことがあるけど、ドワーフとノームは初めてだ。ぅーん、なんかこう凄く甘えたい感じがする。
「早速で申し訳ないですが、私はこちらへ到着したばかりで詳しい状況などを知りません、聞かせていただいても?」
うん、こんな態度でいいよね?スイッチの切り替えは得意なんだよね~ギルマスしてたお陰かな?
「まずはコレを見てくれぬか」
羊皮紙を1枚手渡される、鉱山の見取り図かな?
「岩盤の関係で曲がりくねったりはしておるが、基本は一本道で左右にそれぞれ坑道を掘っておる。全長は1キロほどじゃ」
アイゼンさんが、長いヒゲを撫でながら説明してくれる。
「問題の箇所は、その最深部、少し大きなホールになっておる。恐らくはそこで掘り当てた物が原因じゃの」
「掘り当てた物とは?」
「わからぬ、未知の金属ではないかと思うのじゃがな。そこでだ」
「あれは、恐らく魔竜の卵ですな。その血か加護かを求めて魔物が集まったのでしょう」
小さなメガネをくいっとあげながら、アーヴさんが説明を引き継ぐ。
「それで、卵を破壊もしくは撤去すれば良いということかな?」
「だが、そう簡単ではないのじゃ。坑道という閉鎖空間。ましてや敵は魔物じゃ、冒険者や帝国の軍人が何度か行ったが………の」
ふぅっと小さくため息を吐いて言葉を濁される、全滅したのか。
「我らの兵器を持っても、あの魔物の密度はやぶれぬ」
ん?兵器?兵器がある???
「兵器とは??」
「これじゃ」
ゴトリと音を立てて机に置かれるクロスボウ。へ?クロスボウ?!思わず手に取ってみる。
「クロスボウ?あったんだ?長弓や単弓なら冒険者達がよく持ってたけど……クロスボウは図書館でも本に無かったような?」
「クロスボウ?それは機械式可動弓じゃよ。我らノームの技術の結晶じゃ!」
ノーム?そっか、なるほど。そういえば図書館の本で読んだっけ。
――ノーム
魔法に頼らず歯車などの機械と呼ばれる物を使い文明を築いている風変わりな種族。
魔法を超える物だと言っているが、そのレベルは低く、笑いものにされているとかなんとか。
その最もたるものとして、彼らの街にある10Mの巨大なノームの像で、内部には歯車などが多数見受けられる。
そして彼らの種族は口を揃えて言う。800年前、この巨大な護神像が動きノームの街を魔物の軍団より守ったのだと。
――
「うん、歯車で板バネを巻きあげて、固定して……なるほど、このレバーが安全装置で、こっちがトリガーなんだね」
小さく息を飲む音が聞こえる。
「お、おぬし!それが分かるのか?!いや、ここに入ってきた時もそうじゃった、なぜ我らノームを笑わぬ!?」
「へ?どうして??こんな簡単な構造。分からないほうがおかしいでしょ?それにそもそも、コレを実用化してるのは凄いことだと思うけど」
たしか、弓から簡易のクロスボウになって、そもそも初期のクロスボウをここまで実用化させるだけで100年以上かかってたよね?
これにはアイゼンのほうも息を飲んだ。人間というのは亜人等に対し無意識に差別意識を持ったりもする。それが無かったばかりか、一目みただけでこの機械弓の原理を言い当てたのだ。
自分ですら、設計図を見ただけでは把握できず、実物を見、分解してようやく原理を理解したのにだ。
「それでは、これは!?これはどうじゃ?!それに、我らが守護像のことも笑わぬのか?いや、わかるのか?!」
ガタンっと椅子から立ち上がったアーヴが、懐からいくつもの書類をこちらに差し出してくる。
それには水車の原理や設計図が描かれており、最後に出された大きな紙には、ノームの護神像の解析図が描かれていた。
「おーー、すごいね、これ!けどこれ、ここを変えたほうが??」
「なんじゃと!?確かに、連動させれば一気にできるが!」
「それにさ、魔法は取り入れないの??ここ、負荷が高いから歯車と軸に強化のエンチャントかければ……」
「あ、けどクロスボウがあるってことはさ、こういうのは?」
紙にさらさらと設計図を書きこんでいく。
「ほうほう、これは?なるほど、ここがこうなって、なんじゃこれは?バネ?ほう、この形で????」
ハーフエルフとドワーフ、そしてノームというなんともおかしな組み合わせの3人が、設計図を机の上に広げ、時間も忘れて語り合っていた。
説明をはしょってしまいましたが、ノームは好奇心と探究心が強く、機械に大して凄まじい情熱を持っていますが
魔法等には及ぶはずもなく、クロスボウにはエンチャントした弓のほうが、魔法のほうが威力が!と。護神像が動いたなどゴーレムで十分ではないか!などと笑いモノにされています。




