第17話 原作とは違う貴女
セレスティアとマリーが共犯かもしれない。
パトリック王子を陥れるためにリュベル侯爵家とギャザウェル男爵家が手を組み、《魅了の魔石》を使って王子をわざと暴走させた。
思えばマリーは王子の信仰する聖教会の女神、ヴェラリスと同じ───珍しいピンク色の髪をしている。
パトリック王子がもしヴェラリス聖教の信徒であれば、そういった点も魅了させやすくするための要素なのかもしれない。
───でも、それは本当なのだろうか。
セレスティアとマリーがもし共犯だとしたら、どうして最初から《魅了の魔石》を使わなかったのだろうかと色々な疑問が湧いてくる。
胸をすくう違和感にもやもやしながら、私は何かを見落としているような気がしてならなかった。
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そんな中で、私はいつも通りマリーと共にいた。
中庭を見渡せる2階の渡り廊下の窓枠にもたれ、私達はぼんやりと暇をつぶす。
最近では暇さえあればこうして一緒にいるのが増えていた。
貴族の基本的な教養やマナーを教えるという名目で一緒にいたけれど、こうして何もなくとも隣にいることが多くなってきたのだ。
もちろんマリーに対して疑惑は強まっており、警戒は解けないが………。
隣にいる彼女を見れば、窓を開けて、ぼうと空を見上げている。
日向ぼっこしているのだろうか。
その姿にほんの少しだけ気が緩む。
(前世の学生時代を思い出すな………)
中学生の頃、前世の親友とこうやってのんびり暇をつぶしていたのを思い出す。
廊下の窓を開けて、授業の話とか、アニメとか漫画の話とか………お腹すいたとか、眠いとか。
本当に他愛のない話をしていた。
するとその時、マリーがぽつりとつぶやいた。
「エニスー」
「ん?」
「……………エニスってさ。私のこと、色々調べてるんでしょう?」
彼女のその言葉に思わず固まってしまう。
何も言えぬまま、石のように硬直していればマリーはそんな私にクスリと笑った。
「分かるよ。去年の騒動について色々調べてるのかなって何となく察するって」
「ご、ごめん」
咄嗟のことで思わずそう謝ってしまう。
するとマリーは「ううん」と首を振った。
「何となくだけど、去年の騒動の調査はきっとまだ続いているんだろうなって思っていたの。私が身に付けていたお母さんのブローチも回収されたままだし、きっとそのブローチに何かあったのかなって」
「それは………」
「きっと母のブローチに、良くない呪いでもかけられていたんでしょ」
そう言って苦笑するマリーに言葉が出てこない。
しかし彼女は私を気にすることなく、肩をすくめた。
「おかしいと思ってたんだよね。だっていきなり男の子達が私に惚れだしたんだもの。別に私、男の子に好かれるような性格でもないしさ。よく考えてみれば、呪いとか魔術で操られていたって言われた方が納得できるよ」
そして彼女は何とでもないように言った。
「───それで、私が疑われている。そうなんでしょ?エニス」
空を見上げながら、どこか晴れやかな様子のマリーに口ごもってしまう。
するとその時、マリーはくるりと私の方に身体を向けて、手を伸ばしてきた。
───もしかして、秘密裏に調査をする私を殺すつもりなのだろうか。
辺りには誰もいないし、グレイもマリーの監視を私に任せているためここにはいない。
窓から突き落とす算段かと身体が強張る。
しかしそんな私の思惑とは違い、マリーはそっと抱き着いてきた。
「…………マリー?」
どうしたんだろう。
不思議に思っておそるおそる声をかければ、マリーは小さな声でつぶやいた。
「…………エニス、ありがとう。私、本当に馬鹿で子供だから、面倒見るのすごく大変だったでしょ」
それに息が詰まってしまった。
「このまま何の証拠もなければ、私はきっと処罰される。だって実際ブローチを持っていたのは私なんだもの。
魔術師みたいな人に魔法を使われながら色々聞かれたけど………それで『身に覚えがない』って言ったって、私の無実を裏付ける証拠がなければどうしようもないわよね」
マリーの言葉に押し黙ってしまう。
そして彼女は私から身体を離した。
「調査がいつ終わるか分からないけど、処罰が決定される前にエニスに言っておこうって」
それから彼女は制服のスカートをつまみ、ゆっくりと一礼する。
「───エニス・ハボット子爵令嬢。この度は数々のご教示を賜り、心より感謝申し上げます。このご厚情、決して忘れることはございません」
見事なカーテシーだった。
何て返せば良いのか分からず、途方に暮れてしまう。
そんな呆然とする私にマリーがくすくす笑った。
そして話を変えるかのように口を開く。
「私のお母さんが昔言ってたの。自分を一度でも助けてくれた人は絶対に大事にしなさいって」
「…………マリーのお母様が?」
「そうよ。あとは友達は大事にしなさいって。…………私、エニスのこと友達だと思ってて───あ!私が勝手に思ってるだけだから!」
照れたように早口で話すマリーに立ち尽くしてしまう。
この子は一体、何なんだろう。
それも演技なのだろうか。
それとも本心なのだろうか。
演技だとして、ここまでのことができる少女が安易に《魅了の魔石》に手を出すだろうか。
私の中で、どうしても彼女を信じたいという気持ちが沸き上がるのは必然だった。
セレスティアとマリーは共犯の可能性が高いけれど、この胸の中にある違和感はいつまでも拭いきれない。
するとその時、マリーは大きく溜め息を吐いた。
「あーあ、編入した時はこんなことになるとは思わなかったなあ。セレスティアとも最初は仲良くなれると思ったのに」
「……………セレスティア様と?」
「ええ。私が悪目立ちしてパトリック王子に目を付けられてた時、彼のことを避けていたのよ。
だって向こうは婚約者がいるし王子なのよ?でもセレスティアが『どうして仲良くしようとしないのか』って。『お願いだから無視しないであげて』って言ってきたの」
王子と仲良くしようだなんて思えるはずないのにね。
そう言っておどけたように話すマリーをじっと見つめる。
そういえばセレスティアもマリーと仲良くなれるかもしれないと話していた。
原作とは違う流れとはいえ、この世界だとセレスティアもマリーに対して多少優しくなるのかもしれない。
(ここはもう、きっとパラレルワールドみたいな世界なんだ。だからきっと、彼女達の性格は原作とは違う)
彼女達が私と同じ『転生者』でもない限り、きっとそうなのだろう。
「……………マリー、貴方は本当に『転生者』じゃないの?」
「てんせいしゃ?何それ」
再びそう聞いてみれば、マリーはきょとんとした顔をする。
だよね。そうだよね。
本気で何も分かっていなさそうな顔に「何でもない」と首を振った。
しかしその時、マリーはぽつりとこぼす。
「でもセレスティアに同じことを言われたわ。─────貴女も『転生者』なの?って」
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