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第16話 どうしても違和感が消えない




 パトリック王子との面会を終えたグレイに、いつもの旧校舎の教室に集まるよう呼ばれた。

 そこで合流して早々、彼に気になっていたことを尋ねる。

 

「パトリック殿下が聖教会の信徒なのはご存知ですか?」

 

 もしかしたら私が単に知らなかっただけで、他の人達は把握しているのかもしれない。


 しかしそんな私の予想に反し、グレイは静かに口を開いた。


「…………どうしてそう思ったんだ」

「え?」

 

 グレイのその言葉には「内密に」とガラハッド会長から言われているため答えられない。

 代わりに私は別の返答で誤魔化した。

 

「私はその場にいなかったのですが、去年の婚約破棄騒動でパトリック殿下はマリーを『真実の愛』と仰っていたのですよね?聖教会の教えと同じなので、もしかしたら………と思いまして」

「…………そうか。一度調査機関に確認を取るようにしよう」

 

 これが今回の事件でどう関わるかは分からないけれど、もしパトリック王子が異教徒であれば、それを良く思わない人もいるのではないだろうか。


 そしてグレイは話を変える。


「パトリック殿下との面会だが、問題なく行うことができた。《魅了の魔石》による精神干渉の影響で具合が悪そうにしていらっしゃったが、会話に支障はないようだった」


 グレイの言葉にほっと安堵する。

 そして彼は続けた。

 

「去年の夏、学園主催の舞踏会でギャザウェル嬢が踊る時、確かに殿下は彼女のショールを預かったそうだ。

 だが、その時はちょうど多くの生徒が挨拶に来ていて、かなり混雑していたらしい。人目を避けてブローチを付け替えるのは、まず無理だろうな」

「…………そうなんですね」


 物理的に不可能ならば、パトリック王子による容疑の線は消える。


「そもそも、パトリック殿下がマリーのブローチを《魅了の魔石》と付け替える理由はありませんよね。もしあるとしたら………自ら廃嫡を望むくらいしか」

「自分を廃嫡させたいと?」

 

 グレイが怪訝そうに尋ねてくる。

 それに私は「ただの憶測にすぎませんが」と前置きして答えた。

 

「パトリック殿下が聖教会の信徒であった場合………聖教会の教えは『真実の愛』ですよね?仮に殿下がマリーを心から愛していたとしたら、セレスティア様との政略結婚なんて受け入れられないんじゃないでしょうか」


 ただ一人の人間を生涯の伴侶として決める聖教会の教えと合わないのではないだろうか。

 

「一夫多妻制に否定的なら、マリーを側妃とするより自ら失脚した方がいいと考える可能性もあります。………それで、意図的にスキャンダルを引き起こして───」

「それはないな」

 

 しかしそれはグレイによって即座に否定され、思わず苦笑してしまう。

 自分で言っていてあれだが、正直私もこの線はないと思っていたため大人しく頷く。


「ギャザウェル嬢を巻き込む必要はない。彼女を陥れずに自ら廃嫡するよう仕向ける方法なんていくらでもあるだろう」

「そうですよね。私もそう思います」

 

 けれど、そしたら誰がマリーのブローチを《魅了の魔石》と付け替えたんだろう。

 

 パトリック王子を除けば、ブローチを付け替えるチャンスがあったのはセレスティアとアーサーの二人。

 そしてマリー本人がやったという可能性も残っている。

 

(でもマリーは魔術による精神干渉でも自白しなかったんだよね)

 

 何かトリックでもあるのだろうか。

 それとも犯行はセレスティアかアーサー、どちらかの仕業であろうか。


 そう考えを巡らせていると、グレイが小さく眉間にしわを寄せ低い声でこぼした。


「……………調査機関からある情報を手に入れた」

「情報?」

 

 反射的に返せば、グレイは私のすぐそばまで歩み寄って小声で囁く。

 

「今回の騒動に関わっている生徒達の生家を調べたところ、リュベル侯爵家とギャザウェル男爵家───つまりセレスティア嬢とマリー嬢の生家の間で、過去に密談があったそうだ」

「……え?」

「一昨年あたりに頻繁に行われていたらしい。そして去年、マリー・ギャザウェルが転入し、騒動が起きた。何か引っかからないか?」


 それに思わず言葉を失ってしまう。



 つまり………マリーとセレスティアの共犯───ということになるんじゃないだろうか。

 

 

 リュベル侯爵家が何らかの理由で、セレスティアを第一王子に嫁がせたくなかった。

 そしてギャザウェル男爵家と取引し、平民だったマリーを引き取って学園に転入させる。

 あとはマリーのブローチを、リュベル公爵家が用意した《魅了の魔石》に付け替えれば良いだけなのだから。

 

「それから、手荷物検査を行った衛兵や会場の給仕達。彼らはすべて白だったそうだ。今後調査機関はリュベル侯爵家とギャザウェル男爵家を中心に調査を進める方針らしい」


 そう言ってグレイが深く息を吐く。


 しかしふと思う。

 ならば何故セレスティアの生家───リュベル侯爵家は最初からマリーに《魅了の魔石》のブローチを付けさせなかったのだろうと。

 

(中々魔石を管理している地下の間から《魅了の魔石》を手に入れられなかったという事情もあるかもしれないけど………)

 

 またそうだとしたらマリーが転入早々、どうしてパトリック王子に近寄らなかったのかというのも気になる。


 それに、マリーに行われた魔術による精神干渉で何故彼女は《魅了の魔石》について知らないと証言できたのだろう。


 もしかしてマリーにだけは事前に知らされていなかったとか?

 マリーとセレスティアが共犯の場合、犯行はスムーズに行えるがどうしても違和感が拭いきれなかった。


「……………………………」

「どうした。そんな難しい顔をして」

「あ、いえ。ちょっと色々考えごとが………」


 黙り込む私にグレイが口を開く。


「引き続きマリー・ギャザウェルのお目付け役───いや、監視を頼む」

「…………はい」


 胸の内に違和感がずっと引っかかっている。

 何か、大きな真実を見落としている。


 そんな気がしてならなかった。





 



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