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ガールズトークin聖女村 〜聖女たちは今日も毒を吐く〜  作者: たくみ


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67.今日も仮面を被ります

「それで、家から逃げたってことで除籍になって平民になったのよ。ま、叔父様や従兄弟たちとはたまに交流はあるけれど」


 そして、貴族出の聖女たちともそれなりに交流が続いている。


 お互いの悩みを打ち明けられるほどの仲になった。立場が変わってから親しくなるなど変な感じがするが、現実なんてそんなもののよう。


「ここに来たらあんなに心にも頭にも住み着いてた父親のことなんてどうでもよくなっちゃったわ。こんなことならさっさと家から出てしまえばよかったわよ」


 本音を言えば、たまに父親のことを考えることもある。今は叔父の家の地下で軟禁されているらしい。精神的ダメージが大きかったのか、ボケてしまい、1日ぼーっとしてばかりと聞いている。


 人様に迷惑をかけない存在となったので非常に喜ばしい。


 可哀想とは思わない。


 でも


 でも少し……ほんの少しだけ自分の選択は間違っていたのではないかと考えてしまうことがある。父親をそんなふうにしてしまったのは間違いなく自分だから。


「私はシェイラ様は聖女村に来て正解だったと思います。とても生き生きとして見えます。きっとここに来なければ見られなかった輝きだと思います。シェイラ様も息がしやすくなったのではないですか?」


 うーん……それはそうなのだが、現実は甘いものでもなかった。


「……なんやかんやいって私も貴族様だったのよね」


「?」


 不思議そうな顔をするジャックにシェイラは口角を上げる。


「穢れ祓いにしても治癒にしても汚いところに連れて行かれたし、地獄絵図かと思うような危険なところに行かされることも何度もあったわ。普通に寿命が縮まったというか、あ、終わったって思ったことが何回もあったわよ……」


 貴族として聖女の力を奮う事は珍しいこととは言え、やはり自分は貴族だったのだ。父親が受けてきたのも早い段階で発見された穢ればかり、治癒にしてもお貴族様や大金持ちの人のちょっとした傷ばかりだった。


 即ち、聖女村に来て平民の聖女として受ける仕事はとてつもなく過酷だった。


「どこにいてもなんらかの苦労はするってことがよくわかったわ」


 いや、むしろ大変さで言えば今の方が過酷に違いない。


 でも、後悔はしていない。


「ま、慣れてしまえば割り切れるものよ?仲間もいるし」


 そう言って微笑むシェイラに周りも釣られて口元が緩んだ。それに気づいたジャックは軽く咳払いした後に慌てて話し出す。


「それにしてもシェイラ様が言いたいことを言えないお子様だったなんて意外でした。思ったことを口にできるような大人に成長されたことは喜ばしいことだとは思うのですが」


 今の毒舌な姿からは考えられない。


「そうね………………ふふっ」


 急に吹き出したシェイラにジャックは首をひねる。


「成長っていうよりも」


 そこでシェイラは一旦言葉を切るとアリーシャとリリアをちらりと見る。


「一緒にいる子たちに似ていくものでしょう?」


「えー、私達は大人しくならなかったけど」


「もともとシェイラは毒舌の気質を持ってただけだよぉ」


 心外だとブーブー騒ぐアリーシャとリリア。


「冗談よ」


「「いや、本気だったでしょ」」


 ワーワー騒ぐ3人にジャックは目を細める。本当に仲の良い3人だ。この絆は聖女という重責な仕事を担う彼女たちにしかわからないものなのだろう。


「ていうか、まあこんな仕事してるとさぁ」


 お、まさかの自分が考えたことをリリアも考えたとは……


「イライラするし、特大級の不満を心に全部ため込んだままなんて無理無理」


 おや、何かちょっと意味合いが違うような……


「裏で愚痴を言わなくてはやっていられないわよね」


「「そう、それ!」」


 ははははは、そうですか。


 ですが聖女様方……


「神官たちはごちゃごちゃ言ってくるけど、同じ苦労がわかる聖女たちの間で愚痴愚痴言ってるだけだから許されるよねぇ」


 いやいや、言いたくもなるでしょうよ。


 ――――聖女を信仰し、夢見る神官たちなのだから。


「許される許される。ほんとほんと、色狂い野郎とか勘違い野郎とか、助けてもらっといてお礼の一つも言わない野郎とか多すぎ」


 ――――そんな男たちの前で本性を表す必要は


「そんなクズでも笑顔を浮かべて助けて、汗びっちょりの手で手を握られても笑顔を浮かべ続ける私達って」


 ――――ないのでは?


「「「えらいよねぇ」」」


 はははははは。


 はぁ



 今日も聖女様たちは絶好調なようで。



「やだジャックそんな顔しないでよ」


「元々こういう顔です」


「ふふ、ジャックだって不満がたまれば吐き出したくなるでしょう?」


「……まあ多少は」


「私たちだって同じだよぉ。聖女だから仕事以外でも仮面を被って生活しろなんてモラハラだよぉ、モラハラ」


「えぇ……マジですか」


 嫌そうな顔をするジャックを見て笑う聖女たち。


「ま、それは冗談にしてもジャックももっとおおらかにいきましょうよ」


「そうそう、これからも私たちの聖女人生やあなたの聖女専用雑用生活は続くんだから」


 聖女専用雑用生活って……なんという言い方だ。


 だがあながち間違ってもいない。


 そしてそれを嫌だと思っていない自分もなんなのだろうか。


「おーい、そこの聖女様方ご指名ですよー」


「今日も張り切って働きますよー」


 ロビンとロメロの声がする。


「あらあら」


「はぁい」


「今日も張り切って仮面を被りますか」


 そう言ってノロノロと立ち上がり歩き出すシェイラ、リリア、アリーシャ。




 やる気の欠片もない彼女たちだが、聖女村の外に出れば彼女たちは麗しき聖女様に大変身。





 今日も彼女たちは人々を救うために働きます!





 完



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