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ガールズトークin聖女村 〜聖女たちは今日も毒を吐く〜  作者: たくみ


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65.大事な娘

「「「なっ……!?」」」


 一瞬動揺したものの冷静になるが動かない大人たち。動いていたのはシェイラに一直線に向かう最低男のみ。魔法陣が既に発動していたからだ。


 しかし、それは甘い考えだった。


「…………っ!?」


「しまった!?」


 息を呑む面々。


 部屋からはシェイラの姿が消えていた。


 そして




 ――――移動の瞬間に魔法陣に入り彼女の手を掴んだ父親の姿も消えていた。





~~~~~~~~~~



 彼らが現れたのは聖女村の入り口だった。聖女村の結界は一つの魔道具で成り立っており、初めて立ち入るときに血や髪の毛やら聖力やら顔認証やらなんか色々と必要であるため、まだシェイラは入れないのでこちらに飛ばされた。


「は……離してくださいお父様!」


「何を考えているんだお前は!?」


 怯えるシェイラと唾を飛ばしながら怒鳴る父親。


「私がいてはお父様に危険が及ぶかもしれません……」


「何を言っている!?聖女のお前さえ私の味方をすれば何も恐れることなどない!」


「でも……叔父様が……」


 あの場には公爵夫人もいた。彼の言っていることに間違いはないはず。何よりなんだかあの叔父は父親よりも信じられる気がしたのだ。


「お前は父親よりあのクソ男を信じるのか!?ったく、これだから力のあるガキは……聖女だのなんだのとおだてられて勘違いしてるんじゃないのか?」


 聖女の力を利用しながら、それを否定。あげくの果てには勘違い?自分の力でもないくせに傲慢で親というだけであたかも自分のもののように勘違いしているのは誰だというのか。


「…………お父様にとって私は何ですか?」


 震えが止まった。なんかもう色々と悟ってしまった。いや、だいぶ前からわかっていたが目をそらしていた。


 だが現実と向き合うときが、いや受け入れるときが来たのかもしれない。


 でも、なぜ心臓がバクバクするのだろう?


 ここまできて期待しているのだろうか……父親から優しい言葉が出ることを。いや、言葉だけでも出してほしいという願望なのか。


「あー?……ああ、お前は俺の大事な娘だよ」


 何を問うのかと一瞬ウザったそうにした後、言葉を発した父親。


 大事な娘。聞きたかった言葉。


 でも、


 大事な娘……大事な娘……大事な娘?


 うそこけ


 なんだその下卑た、馬鹿にするような、欲に染まりきった目は。


 心が冷えていく。


「大事な大事な金蔓聖女様だぞぉ」


 にたぁと気味の悪い笑みを浮かべた後、シェイラの手を跡がつくほど強く握る父親。


 してやったり顔の父親。甘い言葉の後に地獄に落としてやった。傷つけてやったと喜んでいるのだ。根っからの性悪。


「おい、なんだよその顔は?」


 その顔?どんな顔?


 シェイラは空いている方の手で自らの口に手を当てる。


 ほお……自分は笑っていたのか。


 自分の滑稽さに?


 現実の無情さに?


 それとも、目が覚めた喜びに?


 自分でもよくわからないが、笑えば笑うほどなんとも心がすーっとしていく。


「なんだ……気持ち悪い。早く来い!家に帰ったら足枷をつけてやるから覚悟しておけ!」

  

 ずんずんと引っ張っていこうとする父親にありったけの力を込めて抵抗するが子どもの力では敵わない。


 誰か……


 誰か……


 数人の人が彼らのやりとりを見ていたが心配そうには見るものの、近寄ってはきてくれない。


 シェイラはどうすれば良いかわからなかった。


 助けを求めたことなどなかったから。


 助けて、その一言が口から出てこなかった。



 周囲の者はざわつく。助けた方が良いのか?


 でも親子のようだし、相手は貴族。オロオロするしかない。娘が助けて……と声さえ上げてくれれば違うのだが。


 ざわつく場。しかし、救いの手は差し伸べられない。


 シェイラの目に涙が浮かぶ。


 自分の中で決別できたのに、諦められたのに、どうしてこうなるのか。聖女という力など与えられたのは神に愛されているからではないのか?なぜこのようなことばかり自分に起きるのか?


 自分は全てに耐えられるほど強くなどない。


 もう現実など見たくない。


 強く目を瞑る。



 そして、






 聞こえてきた声。








「「ロリコンだーーーー!!!」」







 ………………………………



 


 …………ロリコン?



 


 なんとも物騒でありながら戸惑いや不穏が蔓延する空気。


 そんな空気も人も固まった。



 え、だってロリコンって……


「………ロリコン」


「ロリコン?」


「ロリコンですって」


 戸惑いながら皆の口から発されるロリコンロリコンという単語に父親の顔が真っ赤に染まる。



「だ、誰がロリコンだ!?」


 そう叫ぶ先に視線を向けるといたのは



 色素の薄い美しい少女2人。


 背後には神官が片手で顔を覆って立っていた。


「ねぇねぇ、ロリコンだよ!ロリコン!」


「初めて見たねぇ!」


「趣味の悪い服着た普通のおじさんが嫌がる美少女の手を引っ張ってるよ!」


「美女と野獣ならぬ、美少女とフツメンだねぇ」


「…………お二方わかりましたからお口にチャックしましょうか」


 なんとも儚げで触れれば消えそうな二人は、とても存在感たっぷりだった。そして、やかましかった。


 目を細めるシェイラ。


 あれが――――聖女村に住む聖女。


 言われなくてもわかる。神官が後ろについているのもあるが…………圧倒的な美しさと感じる聖力。


 それにしてもなんと生き生きとした少女たちなのか。


 まあ、ちょっとお口が悪いようではあるが――。


 





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