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ガールズトークin聖女村 〜聖女たちは今日も毒を吐く〜  作者: たくみ


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61.不穏

 美しい王宮の庭園。暖かく程よく降り注ぐ陽の光。目の前には見た目麗し味極上の茶菓子たち。


 そして


「あの子でしょう?」


「ええ、貴族でありながら穢れ祓いや治癒を率先して行っているとか」


「しかも、とても高額な金額で請け負っていると聞きましたわ」


「使用人さえまともにいなかった男爵家の当主が今ではあのような格好までできるようになって……そもそもこの場に来れるのだってねぇ?」


 ご婦人方の視線の先には派手な高級糸を使って仕立てた紳士服を来た父の姿。


「聖女様が悪いわけではないのだけれど……ねぇ?」


「なんだか……ねぇ?」


 恥知らずな、と音に出さず口で形作られる言葉。ひそひそと交わされる言葉は聞こえないと思って言っているのか、それともわざと聞こえるように言っているのか。


「それではシェイラ聖女様御機嫌よう」


 王族主催の茶会が終わり、格上の方々から向けられる挨拶。聖女様――そう、この聖女という力を持ってしまったがゆえに、いや貴族のくせに力を使うが故に蔑視の視線を向けられるのはどういうわけなのだろうか?


 人を救う力。確かに必要なものであり崇められる力。格上の方から挨拶をされる、様付けで呼ばれる力。なのにそれを振るうことで忌み嫌われるとは


 一体この世はどうなっているのだろうか?


 いや、そもそもこんな悩みを抱えるのは自分くらいかもしれない。世がおかしいんじゃなくて自分が異質なのかもしれない。


「シェイラ!明日は公爵夫人の怪我を治しに行ってくれ!ほんのちょびっと紙で指を切っただけなのに治療してくれとは高位貴族の自己愛は凄まじいよなぁ!ああ!明後日は穢れ祓いに行ってくれ!貧乏な村で金はないがいい女がいてなぁ……愉しみだ!はっはっはっ」


 帰りの馬車で機嫌よく嗤う父は品性の欠片もないと思う。

穢れ祓いよりも公爵夫人の怪我の治療優先とはいかがなものだろうか。


 貴族界の常識を無視しプライドを持たずに娘を金を生み出す道具として利用する父親。そんな父親の元に生を受けてしまったばかりに自分は異質なものとなった。


 なぜ神は自分に……この男を潤わせる道具に力を与えたのだろうか?



~~~~~~~~~~



 自分はなんでこんな力を持って生まれたのだろう……。 


「シェイラ?」


 穏やかな声にはっと意識が浮上する。


「失礼いたしました、公爵夫人」


 怒るでもなく暖かい眼差しを向けてくる公爵夫人の指には傷が見当たらない。当然だ、元からなかったのだから。


「疲れてるの?」


「大丈夫?」


 そう言って声をかけてくるのはシェイラと同じ年頃の見目麗しき少女たちだ。絶世の美少女である彼女たちも聖女の力を持つ。


 公爵夫人は度々特別な力を持った者同士で交流をと場を設けてくださる。シェイラは金にならぬことでは外出させてもらえないので、夫人が嘘までついてこの場に呼び寄せてくださるのだ。


 その慈悲深き心に感謝している。


 感謝してはいるのだが……何かしっくりこない。


 ちらりと他の少女たちを見る。公爵夫人の前で緊張しながらも頬を赤らめ談笑する様は幸せそうだ――自分とは違い。


 この子達は何もしていないのに、ただ聖女の力を持っているだけで崇められる……親からの愛も……貴族としての誇りも汚れなく持っていられる。


 自分はなぜ卑下されるのだろう?


 いや、なぜ自分は自分を卑下してしまうのだろう?


 彼女たちと同じものを持っているはずなのに、なぜ自分は違うのか。なぜ自分の居場所はここにないと感じてしまうのか。


 再び暗い思考に陥るシェイラを複数の目が向いていることに彼女は気づかなかった。



~~~~~~~~~



「おーシェイラ!お前は見た目や力だけでなくなんと頭も良いのだ!お前は神が私に与えた金を生み出す木だ!……いや、金だけではないこれからは権力も…………っくっ!っふっ!っはははっ!」


 公爵邸から帰宅後一人机で勉強するシェイラに父親が話しかけてくる。他の聖女と共に王宮にて最上の教育を受けるシェイラ。父は王宮に行った際に教師からシェイラが天才だと評されてご機嫌が大変麗しいようだ。


 真っ昼間からバカ高い酒を浴びるほど飲むほどに。


 肩に回される汗ばんだ手もアルコールによって熱くなった体温も頬をくすぐる酒臭い息も全てが煩わしい。


 まるで父親のために存在しているかのような言い草が気に入らない。母親がいれば今とは違ったのだろうか?母親は5年前彼女が5歳のときに儚くなった。


 1歳違いの兄がいるがこれまた頭のお悪い男で、何も努力しない男に育っていた。シェイラが何もかも与えてくれると思っているような男だ。そのくせシェイラに嫉妬しているのか、その目には憎悪が宿っている。何もしてこないのは救いだが、お互いに存在無視状態だ。


 それはさておき何やらごちゃごちゃとシェイラ自慢、いやシェイラの親となった自分のすごさを語ったあと、部屋を出ていった父親。


 はー……と息を吐くシェイラ。


 心が休まらない。


 かの大聖女ノアが聖女の生活改善をしたというのに、なぜ自分はこんなに苦しいのだろうか。苦しくて苦しくて、息がしづらくて仕方ない。




 …………ふと気づく。


 父親は先程なんと言っていた?


 権力?



 金は手に入るが権力などどうやって手に入れるというのか?何か策を弄するでもなく、ひたすら子供のシェイラを働かせることだけしてきた人間が。


 嫌な予感がする。


 何も考えず他人の力だけで生きてきた人間が


 権力を得ようと考えた策がまともであろうか?


 いや、まともなはずがない。



 シェイラは一人青褪めた。

 




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