57.成敗
ロメロが青髪イケメンから繰り出される光の玉をヒョイヒョイと身軽に躱しながら彼に近づいていく。特に魔術を使うでもなく、そのまま身体能力の高さだけで彼の目の前に立った。顔面に向けて放たれた光の玉をひょいと躱して拳を突き出す。
「ワ、ワンパン………………。ひぃっ!く、来るなぁ!」
崩れ落ちる青髪イケメンを見てその場に尻もちをつく青髪王子。股間から透明の水が漏れ出ているのは……気づかないふりをしておこう。
「なんなんだよお前!!!」
なんとも気味の悪いものを見てしまったかのような声がする方に視線を向けるとロビンが突っ立っていた。
魔術で生み出した光るバッドで迫りくる大量の雷を笑顔で打ち返している。味方ではあるのだが、ちょっと色々と心配になる光景だ。
「おい、ロビン!遊んでる場合じゃないだろ」
「ああ、ごめんごめん。…………あらよっ、と」
クリティカルヒットーーーー!
打ち返した一発の雷が黄髪イケメンに直撃した。バタリと倒れ、白目を剥いているが一応指が動いているので命は無事だと思う。神官が命を奪うというのはあまり宜しくないから無事であることを一応祈る。
ガオーーーー!轟轟と燃え上がる炎の音に混じって龍の咆哮が聞こえてくる。
「い、いい気になるなよお前ら!僕たちにはまだあれがあるんだ!!!」
「そうだぞ!お前たちはもう終わりだ!」
ほう、青髪王子と違って赤髪王子に支えられながらも黄髪王子は気丈にも立っている。
めっちゃ足がぷるぷるしているが。
それにしてもあれとは一体?
ああ。
あれ……とは炎でできた龍のことか、それともそれを操る赤髪イケメンのことか、それとも両方を指すのか。
どちらにしても自分を守る人や魔術に対する敬意が全く感じられない性格のネジ曲がった王子だとつくづく思う。
「「おーーい!ジャックーー!かましたれーー!」」
「は!?」
かましたれって……相変わらず神官らしくない先輩たちである。まずは神官らしく話し合いをするべきではないだろうか。もしかしたらイケメンズたちも嫌々働かされているのかもしれないのだから。
ほら、ドラゴンちゃんも止まっている…。
「あんなバカ王子たちの下で働くなんて嫌々しているんだろう?今引くのであれば全てをなかったことにはしてやれないが多少の便宜を図ってやることはできる。さあ……「お前ら気に入らねぇんだよ!」」
涼しいスマイルを浮かべながら穏やかに話しかけていたジャックに向かってドラゴンが大口を開けて迫る。表情はそのままにこめかみに青筋が浮かぶジャック。
黙ったまま両腕を上げたかと思うと、そのまま振り下ろす。その手には煌々と光る魔術で生み出した剣が握られていた。
ドラゴンはそのままの勢いのままジャックに突っ込んでいくが縦に真っ二つに切られた龍が彼に当たることはなかった。
が――
「こらぁジャック!こっちに突っ込んできたんだけど!?聖女は守らんかい!」
裂けたドラゴンの片方がアリーシャの張った結界にドンピシャに当たって消えていった。
「すみませ~ん」
そんなの当たってもなんの問題もないのに、うるさい聖女様だ。
「絶対に悪いと思ってないでしょうが!こら!このエセ神官」
バレた。ごまかすように足音もなく呆ける赤髪イケメンに駆け寄る。そして目にも留まらぬ速さで思いっきり剣の柄で脳天を殴る。
ドサリと倒れ込むイケメン。
赤黄青、全てのイケメンが倒れた。
赤髪王子と黄髪王子は…………
「「「あ」」」
結界を解除したアリーシャの肩に手を回し、首にナイフを押し当てていた。
「お、お前たち王子である僕たちにこんなことして訴えてやるからな!」
「いやいや、そちらが襲ってきたので守っただけじゃないですか正当防衛ですよ」
「そんな証拠がどこにある!?」
「その辺の神官であるお前たちと平民の聖女の言い分と王子である僕たちの言い分、どちらを信じるか明白だろ!」
ははははは、それは明白。悪名高いわがまま勘違い色ボケ王子よりも腹黒……コホンッ、清らかで美しき聖女であるアリーシャの言い分が通るに決まっている。
だがバカ王子たちにはそんなことわかるわけないわけで。
そして確かに証拠も大事というもので。
「これでね、さっきの映像撮ったので証拠はバッチリですよ」
「なんなら生放送でうちの国やら他の国やらあなたたちの国まで流しちゃいましたから」
「「は!?」」
ジャックの手には水晶玉が乗っていた。同じ水晶玉があればそれを通して壁やら外やらに映し出すことのできる便利な魔術道具。これを通して関連国や法律に強い国などに襲われた時の映像を流していた。激高の一品でなかな使わないものだが、こういうときには使うべし。
リリアやシェイラが水晶玉のない国に渡しに行ったり関連国に現状説明などをしに行くなど色々と動いてくれた。
「あなたたちみたいな悪党ってね、小狡いっていうか、見苦しいっていうか……やばいことやっといて白を切るんですよね」
「賢い悪党っつうのは引き際が素晴らしいっていうか、堂々と認めるんですけどね。なんやかんや言って自分がやってることに信念っていうか、プライドがあるんですよね」
「おたくらはダメダメですな。だからもう処刑されちゃってくださいな」
神に仕えるべき神官でこの発言は罪深いだろうか?でもこの世にいるべき人間ではない、人に害しか与えない存在などは不要である。
「あっ」
「おっ」
「あちゃあ」
神官3人は天を仰ぐ。バカ王子の捨て身の愚行に。
「ふふっ……はははっ!………すー…はー………アリーシャはいい匂いだなぁ…………どうせ逃げ切れないんだから最後くらいいい思いしようぜ。アリーシャがこっちにいるうちはあいつらも手が出せねぇよ」
アリーシャの首に顔を埋める赤髪王子。それを見た黄髪王子はごくりと唾を飲み込み、そうだよな、と呟くとアリーシャの胸元に手を伸ばす。
「キモいんだよ」
「「は?っ!?」」
ダンッ!!!ガッ!!!
「「はっ!?」」
聖女が口にしたとは思えない言葉に衝撃を受けると同時に身体に強い衝撃を受け更に驚く。というか痛い……何が起こった?
赤髪王子はアリーシャに手を掴まれ背負い投げをされたことに気づく。
黄髪王子は飛んできた赤髪王子にぶつかって下敷きになっていることに気づく。
いや、違う。何かの勘違いだ。二人はアリーシャを見あげるが……
「キモいんだよ!とっとと首飛ばされちまえ!」
そこには親指を立て、首を切るしぐさをするアリーシャが立っていた。
そして、その背後にはケラケラと笑う神官3人がいた。




