56.早過ぎます
朝食の時間からわずか3時間。
「いやぁ、せっかちですねぇ!」
ドーーーーン!!!ドーーーーン!!!
爆発音がする中でロメロが叫ぶ。
「自分たちの色香でアリーシャ様を一目惚れさせ、契約とか考えてたんでしょうね!」
「はあ!?どれだけナルシー!?あり得ないでしょうが!」
見た目も中途半端、性格破綻者、金もなし、どこに惚れる要素があるのかご教授願いたい。
バリバリバリバリ!!!
雷が鳴る中ロビンとアリーシャが叫ぶ。
「腐っても王子でしたね!部下にこんなにやり手がいるとは!宝の持ち腐れとはこのことですね!!!」
ゴォーーーーー!!!
巨大な炎でできたドラゴンが彼らの周りをぐるぐると回る中ジャックが叫ぶ。
彼らの現在の状況は
結界の中に閉じ込もっていた。
なぜか?
もちろん自分たちを守るためである。
「ほらほらぁ、早く契約書にサインしてくださいよぉ!」
この超絶勘違い王子たちから。
いや、正確に言えば彼らから放たれる攻撃からではない。
凄まじい爆発攻撃を仕掛け、 雷を操り、見事な炎の龍を操るイケメンたちからだ。それぞれ赤、青、黄色の髪の毛と瞳、バカ王子たちの国の出身者のようだ。
彼女たちが王子たちから一緒に散歩でもどうかと誘われ、いやいやながら外に出るとイケメンたちに襲われたので慌ててアリーシャが結界を築いた。神官たちもそこに駆け込み立てこもること30分程、この状態のままでいる。
「あははは……さすが英雄村!ちゃあんと英雄と名乗れるかもしれないくらいの実力者はいたみたいですね!」
ずっと膨大な魔力を使い続けているイケメンさん達、ちなみに彼らの背後で王子の腰巾着らしき貴族たちがはー!と気合の入った声を上げながら魔術援護をしているが雀の涙程の魔力で全然役に立っていない。
いやまあまだ何かをしようとするだけ無駄かもしれない。
王子たちは腕を組んでふんぞり返り仁王立ちをしているだけ。典型的な他力本願野郎というやつだ。まあ王族らしいといえば王族らしいというのかもしれないが。仮にも英雄を名乗るのであれば情けない限りだと思うのは自分たちだけだろうか。
「おい!さっきから何話してるんだよ!自分たちの状況がわかっているのか!?」
「ほら、早く契約書にサインしろよ!」
「お前たちもっとやれ!多少ケガしようが構わん!」
「「「…………………………」」」
王子たちからイケメン達にあり得ない指示が飛ぶが――
あらあら、だいぶお疲れのようね。
バカ王子たちは気づいていないというか見もしていないがイケメンたちの額にかなりの量の汗が流れているのが目に入る。道具には目もくれぬ王子たちのその態度にアリーシャの眉間に僅かにシワが寄る。
思ったよりも時間がかかっていることに苛立ちはしているようだが、自分たちの勝利を確信し莫大な資産が手に入ることに鼻の穴を膨らませていて気色が悪い。
いや、これは金だけでなく聖女たちに囲まれるハーレムでも想像しているのかもしれない。
背筋にぞ―っと寒気が……。
あ、変なこと考えてしまった。慌てて首を横に振って追い出すアリーシャだった。
「ていうかさー……こんなのただの暗殺だってことわかってんのかなぁ……いやぁわかってないだろうなぁ……ただ脅してるだけだとか思ってそうだよねぇ」
強固な結界を壊そうと躍起になるのはわかるが、破壊されたらもろ攻撃を食らい命の灯火が消えるのは間違いない。こちとら魔法をまともにぶつけられて生きていられるであろうドラゴンではないのだ。
アリーシャがぶつぶつと何か言っているのに気づいた3人はそっと目を逸らした。なにか呟いているだけでも引き気味もんだが、なんとも仄暗い笑みまでも浮かべているので心がざわつく。
あまり直視するものではない。
暫くすると彼女は片耳を押さえてため息を吐いた。
「あ…………やっと許可出たよ。全く何をちんたらしてるんだか」
『あらぁ、これでもスピーディーに動いたのよ?』
はぁとため息混じりに吐かれた言葉に反応したのは神官3人ではなかった。
音源はアリーシャの耳元を飾る耳飾りからだ。そして、その声の主はシェイラだった。
『んーーーー!超バッチリ撮れてるよぉ!聖女暗殺現場!』
そしてリリアの声も耳飾りから聞こえてくる。
いや、別に暗殺されてはいないのだが。そして神官も狙われている。強いて言うなら聖女神官暗殺未遂現場だ。
「連絡ありがとう!
では……皆様用意はよろしいですか?」
アリーシャの目の奥が怪しくキラリと光る。
「「「はい、アリーシャ聖女」」」
「それでは行ってらっしゃい…………騎士様たち?」
「「「やめてください」」」
何が騎士様だ。笑いを含んだ言葉に心の中で呆れながら3人の神官は結界から飛び出した。




