55.早く自爆して欲しい
とりあえずどんな口撃も無効化されてしまって話にならないので笑って誤魔化しなんとか食堂からの逃亡に成功した4人はアリーシャの部屋で、はーともほーとも取れる息を吐く。
「……何も口にしてないわね?」
「「「もちろんです」」」
食事にはたっぷりと睡眠薬が入っているようだった。薬剤の匂いがプンプンとしていたが、あれで気づかれないと思っているのだろうか。
「思った以上にバカで助かったわね」
「人を馬鹿にすることと自分たちを持ち上げることに夢中で食事を全然勧めてきませんでしたからね」
仕掛けをしといて、発動させる努力をしないなんて愚かにもほどがある。
「あーーーー。これは神官長の言う通り早々に何かやらかしてくれそうね」
「まあ既にやらかしてますけどね」
ロビンがジャックをちらりと見て言う。はっきり言ってジャックに対する言動だけでももうアウトだ。公爵家を侮辱するなど畏れ多すぎる。
「聖女様に対する態度もなんなんですかね」
彼らとて聖女に色々と思うところはあるが、なんやかんやいって聖女たちを尊敬している。じゃなければこんな仕事やっていられない。
王子とはいえ弱小国、いや王子だからこそ国を守る聖女に敬称をつけなかったりあんな失礼な言動を取ることはあり得ない。彼女たちがいなければ人類は滅びるということがわかっていないのだろうか。
「どこまでも自分を中心に世界が回っているようですね」
「だからこそ、すぐに動くわよ」
「「「あのーーーー……」」」
神官たちがアリーシャの表情を伺うように声を掛ける。
ああ、と言うとぱちんと指を鳴らすアリーシャ。何も変化がないように見えるがアリーシャの部屋と神官3人が泊まる部屋に強力な結界を張ったのだ。
「「「ありがとうございます」」」
「朝起きたら首がゴロンだったら嫌だものね」
「「「笑えない冗談ですね」」」
が、恐らく彼らにとって邪魔な神官たちは消す予定だろう。やけに神官を邪魔者扱いしていたし、その場は自分たちのものだと言いたげだったから。
「あんたたちはあんたたちで狙われてるだろうけど、私は別の意味で狙われてるわよねー……あー…きも」
いわゆる夜這いというものをするつもりだろう。
力づくで……
「はは、何やら勘違いしていらっしゃるようなのでアリーシャ様に惚れられたかもとか思っていそうですよね」
「きっと鍵を開けて待ってるだろうとか思ってそうですよね」
「なんであそこまで自分に自信があるんでしょうね?」
「知らないわよ……。理解不能」
全くだとばかりにはーと息を吐くと神官たちは部屋に戻っていった。
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翌朝、再び食堂にて
「あら、皆様酷いくまですがいかがなさいまして?」
アリーシャは満面の笑みで王子たちに尋ねる。
「「「アリーシャ!昨夜はどうして君の部屋に入れなかったんだい!?」」」
は?何を言っているのだこの3バカ王子は。瞬時に笑みが消えるアリーシャ。ちょっと本心が顔に出てきてしまっていることに彼女は気づいているのだろうか。
「君の熱い視線に答えて部屋に向かったというのに……!」
いやいやいやいや、まぼろしー。
「お前たち!アリーシャに結界を張らせるなど、何様だ!大人しくこの世を去っていれば良いものを!」
この人たち、マジですか……。
やらかしたことを何も隠そうとしない厚かましさ。よっぽど自分の命がいらないようだ。
いや、彼らの中ではこさそれこそが正しいことなのかもしれなき。根本的に頭のネジが足りないよう。食事をしながら世間話をするかのごとく夜這い、暗殺の自白をするなど普通の人はできない。
「アリーシャ、君ご飯は?」
「ええ、私たちは神に仕える身。あのような豪勢なものは身に余りますので、自分たちで用意したものをいただいておりますのでお気遣いなく」
アリーシャと神官たちの前に食事がないことに気づいた赤髪王子からの問いにアリーシャは心にも思っていないことを口にする。
聖女や神官は常に非常食を持ち歩いている。薬を盛られるなど日常茶飯事だからだ。
今朝厨房に行ったら薬草が見えた。朝から眠らせて何をする気なのか……。本当に呆れるしかない。早々にごねて食事の用意は不要と申し出た。
彼らは朝食だというのに次から次へと料理を持ち込ませては一口だけ口にするだけで下げさせ、次の料理を運ばせる。捨てろという指示付きで。
貧困に喘ぐ国民がいるというのに……よくそんなことができるものだ。
ちらちらと豪勢な食事を見せつけるかのようにする彼らにはほとほと疲れる。人の食事を見てこんなに不快になったのは初めてかもしれない。
あー……もう早く聖女村に帰りたい。
神官長ではないが、早く何かやらかしてくれないだろうか。十分なようで十分でない。神官長は派手にと言った。
何か派手に派手に派手に……………
こんの勘違い野郎ども、自称英雄なんでしょ?
自分の実力も見誤って、早く盛大になんかやらかしなさいよ!




