53.英雄村訪問
そんな3人の思いなど神官長が気にするはずもなく……
「いやぁ儂だって無視したいのですよ?ばしっと断りたいのですぞ?でもまあ相手は一応弱小国とはいえ王族や高位貴族ですからなぁ。んな意味のわからないことに耳を貸す暇などない!このクソが!などというわけにもいかないのですよ」
あ、青筋が浮かんでいる。結構ムカついているようだ。
「であれば正々堂々と理路整然と論理的にお断りする必要があるわけです。というわけでどなたか堂々と英雄村に行き、くだらぬ内情を確認、私に告げ口をしてくだされ」
めっちゃイ・ヤ・ダ。
そんな意味のわからない、言葉が通じなさそうな集団のところに行くなんてイ・ヤ・ダ。
絶対になんかある。
「ああ!忘れておりました。ちなみに彼らは皆罪を犯した者だそうですぞ。中には処刑したふりをしてそこに逃がされた者もいるとか」
「「「「「!!?」」」」」
それは英雄村ではなく犯罪者村ではないか。
なぜ厚かましくも英雄などと名乗れるのだろうか。
「大丈夫大丈夫。見目麗しき高名な聖女が向かえば手に入れんと愚かなことをするに違いないのですから。ただ行けばもはや任務完了ですぞ」
それは俗に囮というのでは?
どの辺に大丈夫大丈夫要素があるのだろうか。
「ほっほっほっ、賢く腹黒い聖女様がアホでしょうもない少々ヤバいだけの男たちにやられるわけなどないのですから」
その少々だろうがヤバいというところが、なんともめんどそうなわけだと思うのだが。聖女たちの白けた視線などものともせず笑う神官長。
「さて」
キラーンとその目に光が見えた。
ざっと視線を逸らす聖女たち。思わずつられてジャックも横を向いてしまった。
「だぁれぇにぃ行ってもらいましょうかなぁ?」
いやいや、楽しそうだな。絶対に楽しんでる。気に食わないやつを叩き潰す未来が楽しみなのか、聖女たちが嫌がるさまを面白がっているのかはわからないが。
神に仕える真っ白な神官の長なはずなのに、誰よりも腹に黒さを抱えているに違いない。
「ま、皆様今抱えている案件はないので平等にじゃんけんといきましょうか。ほっほっほっ」
あ、冷や汗までかいたのに、なんか脱力。
神官長を見るとにやにやと笑っている。
3人は、はあとため息をついた後視線を交わす。その瞳には力が宿る。ぜぇぇっっっっったいに負けないと。
「「「それでは」」」
すっと出される3つのグーの形をした手。
「「「じゃーんケーン」」」
果たして泣くのは?
「「「ポイ!!!」」」
~~~~~~~~~~
「ぬおーーーー!まじで嫌だーーーー!」
ぬおーーーー!って。オヤジか。
英雄村に向かう馬車の中で顔を覆いながら低音ボイスで吠えるアリーシャにお付きのジャック、ロメロ、ロビンは呆れた視線を向ける。
とは言うものの
「私たちだって嫌ですよ……」
彼らは振り返る。出発直前のことを。
ほっほっほっほっ。お前たちもちゃあんと役目を果たすのだぞ?……やつらが何か聖女様にやらかすと良いのですがなぁ。王族にでさえ、神官庁は屈しないと見せしめに……色々と……ほっほっほっほっ。いや、願わずともお相手さん達はやらかすでしょうがな。ほっほっほっほっほっ。
――中の愚行を探れではなく、愚行を受けて騒ぎ立てろとは……なんともブラック神官長である。というか、もうオブラートに包みさえもしなかったなぁ。
村への入り口に到着し馬車から降りた4人は前に広がる光景に全力でお口にチャックし外面にふさわしい見事な笑みを張り付けた。
「お待ちしておりました聖女様!」
そんな声が目の前にぽつんと立つ一人の男性から聞こえてくる。軽く挨拶を交わし共に歩きだすと何やら一生懸命村の説明をしてくれるのだが……聖女たちの注意はそちらには向かなかった。
…………なんだこれは?
英雄………………村?
聖女村とて様々な店はあるものの、一応は村っぽいこじんまりとしたシンプルな感じではある。
目の前に見えるは豪華でバカでかい建物たち…高級レストラン、宝石店、服屋、なぜかドレスの店もある。だが何よりも目を引くのは豪華な城……そう真っ白ででっかい城が少し離れたところにある。
王族と言えば城に住むものなのだが、彼らは国でやらかした人たちであり、本来であれば幽閉、最悪首ポーンの身であるはず。こっそりここに隠れているどころかこんなでっかいものに住むとは……本人たちも、親たちも何を考えているのだろうか。
国を滅ぼしたいのだろうか?
……………もしかして、神官長は私たちにそれをしろ、と?いや、まさかな……ははははと心の中で笑う。
と、笑ってる場合ではない。到着したようだ。
さっき見たあの城の門に。
ここの代表者とはまた夜に会うことになっておりますので今はお休みくださいと言われ部屋に案内されることになったのだが……。
「いらっしゃい、アリーシャ」
至る所でそこそこに見目が整った男性たちにそう声をかけられる。
あ?
アリーシャ?
呼び捨て?
何様?
王子様よ高位貴族様か、ははははは…………。
落ち着け、落ち着けアリーシャ。外面という面が外れてしまう。すーはーと明らかに深呼吸するわけにいかないので、静かにゆっくりと息を吐き吸い込む。
挨拶は置いとくとして、彼らの行動に目を向ける。
ある者は剣を振り回している。
ある者は槍を振り回している。
ある者は弓矢を用い的を射ている。
まあ、ここは英雄村だものね。
訓練くらいするわよね。
うんうん。
こちらをちらちらと見るのもわかる。だが彼らは何をしたいのだろうか?胸元が空いたシャツをはだけさせ、真っ白な薄っぺらい胸元が見えているけれど。なんなら全く腹筋の欠片もないお腹まで見えている。
そこまで見せたいならもう少し鍛えた方が良いのでは?
というか訓練してるのよね?だったらもう少し筋肉がついていて良いものだと思うのだが。
それにどちら様もとぉっても動きがスローリーだ。剣の型なのか舞なのかよくわからないが、女子供がえいやーと動くのと同じような速度だ。
これでえ・い・ゆ・うを語っちゃう?
…………いかんいかん相手は血筋だけそれなりに立派なヤ・カ・ラ。
おー、あっちは魔術だ。魔術を使っている。
鷲に似た炎の鳥が飛んでる~
あちらには水でできた1メートル程のミニ龍ちゃん。
あら、何もないところから芽ーがー出ーてー膨らんでー…お花が咲いていく~直径1メートル程の範囲で。
う~~~~ん。あるところの王宮では数十メートルはあるであろう炎の龍が飛んでいるのを見た。また雨が降らない地域に、この村数個分の範囲に雨を降らせてめちゃくちゃ拝まれていた魔術師を見た。更にどこぞの愛妻家が妻が畑にしようとしていた広大な空き地に花を咲かせてど叱られていたような気が。
そもそも魔術を使える人は半数もいないくらいだし、悪くはない……?のかもしれない。
にしてもまあ……
「いかがでございますかアリーシャ様?」
案内係が声を掛けてくる。
「え、普通」
アリーシャの言葉に神官3人組がぎょっとしたのが目に入る。
しまった!ちょうど頭で普通、なんならしょぼいと考えていたから口に出てしまった。いやでもしょぼいは回避したのだそれだけは褒めて欲しい。
「えっ!?」
案内係が驚きと怯えが混じった表情で見てくる。神官たちがどうにかしろとすごい目力で訴えて見てくる。
アリーシャの頭の中が高速フル回転する。
「……ふ、普通に努力してこそあのような英雄になれるのですね。英雄であろうと自らの才に溺れず、たゆまぬ努力をするなんてとても素敵だと思います」
アリーシャの言葉にほっとしたような表情を浮かべる案内係。自分でも呆れるほどありきたりな言葉しか出てこなかったが誤魔化せたようで何よりだ。
それにしても案内係の怯えと安堵の表情――――
聖女の自分たちに対する様子を報告するようにでも言われているのか。怯える様子からして、彼らにとって不都合な報告でもしようものなら――――?
はっ!
やっぱりろくでもなさそうなのが揃っていそうね。




