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ガールズトークin聖女村 〜聖女たちは今日も毒を吐く〜  作者: たくみ


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50.頼れる聖女たち

 今振り返ると、よくあんな平民の小娘がたくさんのお偉いさん方に囲まれ、皇帝に物申せたものだと思う。若さゆえ?……いや、違うか。仲間を失った悲しみ、自分の理不尽な境遇への怒り、自分の中でどうしようもない感情が爆発した勢いに乗せられたからこそできたことだったかもしれない。


「ロマンチックだよねー」


「アリーシャ今のどこにロマンチックさがあるんだい?」


「平民が勇気を出して自分自身の価値を利用して皇帝を脅して自分の欲望を叶えたところ。下剋上的な感じがロマンチックじゃない?」


「ところどころに毒があるのは気のせいかい?」


「まさか!」


 ねぇ、とリリアとシェイラに同意を求めるアリーシャ。


 この小娘は何を言わんとしているのか。


「ふふふ、おばば様のおかげで私たちは気持ちよく仕事ができるし感謝しているわ」


「本当それ!聖女の数も増えたし、貴族からも名乗り出る人増えたしぃ。おばば様は聖女の未来を変えたんだよぉ?すごすぎぃ」


「おばば様には自分の価値を利用して、うまく世渡りしていけってことを学んだよ」


「…………そうかい」


 彼女たちは確かに平民ながらうまく貴族たちとも渡り合っている。謙りながらも上手く逃げ、聖女であることをプッシュして恩着せがましく振る舞う。金払いを渋る貴族たちに立ち向かっていく様などかなりアグレッシブとしか言いようがない。

 

 確かに自分に似ているような気がする。


 あの後も色々と物申したからなのか皇帝がなるべく謝礼金を払うこと、ネコババは程々にね、とオブラートに包みながらもめっちゃ迫力のある笑みで皆を脅したので今では、聖女の懐はうっはうはだ。


「神官長の手腕が素晴らしかったのもあるけれどね」


「あのジジイ怖いんだけど」


「ねー。なんか圧があるよね。逆らうべからずみたいなさぁ」


「人を見る目もずば抜けてるわよね。この聖女村に来る神官たちの聖女に対する信仰心っていうか、奴隷心というのか……なんやかんや言いながら基本的に聖女の言うことよく聞くものね」


 ノアが指名した下っ端神官は現役の神官長だ。


 あのとき20前半だった彼もあと少しで80に届く。長い間様々な困難を乗り越えながらも神官長の座を守り、神官庁を守り、聖女村の制度を守ってきた。


 その分ずる賢く、妙な迫力のあるご老人になってしまったのは御愛嬌というものだ。


 だがあの時彼を指名したのは間違いはなかったと胸を誇って言える。


「でもさぁ、先代の皇帝と皇后様も上手くいって良かったよねぇ」

 

「皇后様の器が大きかっただけでしょう」


「事情があったにせよ、おばば様に対する下心があったことを知っちゃったら不快感半端ないわよね」


「未曾有の危機から国史上最高に栄えた時代を築いたなんて言われてるものね。私たちにはない心の広さよね」


 違いないとははははと笑う若き3人の聖女たちを横目で見るノア。


 レイチェルはあの後も変わらずレオを支え続けていた。ノアとも何もなかったように……


 いや、一度だけ聞かれたことがある。


 ――――本当にその選択で良いのかと、


     あなたは自分の心に正直に選んだのか、と。



 自分はなんと答えたのだったか……ふふ、忘れてしまった。でもレイチェルが問うたときの柔らかな笑みに潜む本心を探る冷たい眼差し、ノアが答えた後の覚悟を決めた強き眼差しは覚えている。


 ノアが聖女村に行った後彼女は献身的にレオを支え、帝国は見事復興した。そして学校教育の整備や貧民街に住む者への職の斡旋、貧民街を減らすなど更なる発展を遂げた。


 しかし、


 たまに、


 レイチェルが影の魔王と呼ばれているとか耳に入ることもあった。優しい彼女は魔王と呼ばれるくらい厳かで強かな一人の女性へと成長したのだと感心したものだった。


 ちなみにほのかにあったはずのレオへの暖かい心はどこへやら、周りに流され、最善であるレイチェルを選ばなかった時点ではっきり冷めてしまったよう。


 それ以降は自分が聖女村に住むようになった為レオとはほとんど会う機会はなかった。レイチェルとはちょくちょく会っていたが。


 二人の間に生まれた3人の子供たちを紹介され、世界を救った聖女様よ。聖女様は大切にしないと国が、世界が滅びるわよ、とよくお茶会で言われたものだった。


 皇后だと言うのにただの平民に過ぎない一聖女に尊敬の念を忘れない。聖女たちにとって頭の上がらない存在だった。

だからこそ結構こき使われることもあったが。ふふ。


 ちらりと3人の若き聖女たちを見る。


 立派な聖女に育った彼女たち。


 容姿は一級品。

 穢れ祓いの能力も一級品

 外面も立派。

 頭は政治などわかりませんみたいな顔をするときもあるが自分の立場を弁えたり、利用したりと賢く立ち回ることができる。

 金に対する執着心も一級品。聖女村を運営していくのにとても心強い。

 そして、口の悪さも一級品。

 本質的なところで自分の心に正直なのが美点だ。

 口の悪さは聖女という特殊で微妙な立ち位置、命をかける仕事というプレッシャー、自分の聖力一つで救えない命も出るというプレッシャー……いわゆるストレスフルな職業で意外と大切なものだとノアは思う。


 ――まあ少しおしゃべり気味というか、悪くなりすぎたような気がしないでもないが。


 だがとても逞しい、この聖女村を国を世界を守っていくのにふさわしい聖女たちに育ってくれた。


 自分の教育の賜物だとも言うが。はははははは。



 ………………あの時は、あの後はこんな穏やかなときが来るとは思わなかった。人というのは弱いようで強い生き物だとつくづく思う。


 もちろん色々な人がいるが。


 だが未来には素晴らしい若者たちが活躍する姿が見える。


「あら、おばば様眠いの?」


「ああ、そうだね」


 ノアが緩やかに唇を上げ、背凭れに身を預けたのを見たアリーシャが静かに問うのに静かに答える。


「……眠ろうかね」


「「「お休みなさい、おばば様」」」


 緩やかに目を閉じるノア。


 ああ、いい風だ。


 その表情は年を経て美貌を失ったはずなのに、

 穏やかながらも凛とした聖女にふさわしき慈愛の微笑みが浮かんでいた。

     






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