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ガールズトークin聖女村 〜聖女たちは今日も毒を吐く〜  作者: たくみ


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43.大聖女様

 聖女様、聖女様と崇められながらも救えない人もいるのだ。なんとも虚しい気持ちになる。


 アリーシャは軽く鼻で笑う。


 ――全ての人を救えるだなどとおこがましい。


 どこの国の王とて不可能。どんな天才だって不可能。


 誰にもできぬことがその辺の聖女にできるわけがない。


 思い上がるな。




 けれども――どうしても心の中にかかった靄は晴れない。



「アリーシャ様」


 ぬっと急に現れたのはこの前失恋もどきをしたジャックである。なんとかボケボケ状態を脱出した彼はキビキビと働く毎日である。


「…………何よ、新しい仕事?」


「いえ、違います」


 アリーシャの問いかけに簡潔に答えた彼は手に持っていた紙をアリーシャに渡す。無言で受け取り、開封してさっと目を通した後、伏せる。


「…………こんなの良かったのに」


 それはあの村の村長からのお礼の言葉と謝礼金を渡す時期や金額が書いてあった。


 これから村の復興もあるだろうに。救えなかった命もあるのに。


「おや、アリーシャ様にも聖女らしい心があったのですね」


「ひどぉい、ジャックちゃん」


「まあいつもみたいに金額が少ないとか言われるよりもいいですけどね」


「…………………………」


 反応のないアリーシャにジャックはちらりと視線を向け淡々と続ける。


「慣れなければ。全ての人を救うなど無理です。そんな力は人にはありません。そんな考えを持つだなんておこがましいですよ。かの大聖女様ですら不可能でしたから」


「わかってるわよ」


 自分が先程考えていたことを言われる。ジャックにもどこか悔しい気持ちがあるのかもしれない。だからあえて自分に言い聞かせるように言葉にしているのかもしれない。


「んん……っ」


 ん???



 

 わざとらしい咳払いに下を向きがちだった聖女たちの視線が上がる。


「だ、大聖女様と言えば……この前、皇太子様が結婚パレードをなさっていましたね」


「「「………………?」」」


 確かにこの前この国の皇太子御年22歳が学院を卒業すると同時に結婚し、パレードを行なっていた。ちなみに相手は自国の公爵令嬢だ。


 だが、それと大聖女にどんなつながりがあるというのか。


 一体何を言いたいんだと6つの目にまじまじと見つめられたジャックは再びんんっ、と咳払いすると口を開く。


「皇太子と言えば……昔聖女村ができたのは先帝が皇太子の時のことでしたよね」


 その言葉に3人はピーンときた。3人が閃いたのに気づいたジャックはもじもじしつつ視線をうろうろさせながら言葉を続ける。


「……先帝が想い合う大聖女様にプロポーズしたものの、国の穢れを祓う聖女たちの育成に自身の身を捧げるという大聖女様のお言葉に感動。そして先帝が聖女村を作ったというのは本当なのでしょうか?」


 興奮しているのか顔を少々赤らめ詰め寄ってくるジャックに3人は呆れた。


 相変わらずロマンチストというか、ピュアというのか。


「そんな顔しないでくださいよ!でも、実際に聖女村の誕生はそのように伝えられているではありませんか!」


 今度は真っ赤になって叫ばれた言葉に3人は更に呆れ顔である。


 でもまあジャックの言うことは間違っていない。


 この聖女村は先帝時代に作られたものだ。


 かつて聖女たちは神官庁に属し、彼らの保護の元、神官庁や教会で暮らしていた。あるとき凄まじい規模の穢れが世界中の至る所で同時発生し、聖女たちが懸命に祓った。


 だが勢いが凄まじく対応が追いつかなかった。聖力が足りずにほとんどの聖女が命を落とす事態となった。残ったのは膨大な聖力を身に宿し命懸けで穢れを祓った大聖女と言われる聖女2人だけだった。


 多数の犠牲者は出たもののなんとか穢れを祓いきった彼女たちは、各国の王たちの褒美も断ったと言われている。当然のことをしただけだから――――と。


 更に身も心も美しい聖女2 人のうちの1人が帝国の皇太子(現在の先帝)と恋に落ちており、多大なる貢献をした彼女を皇太子の妃に迎えようと叫ぶ声が多かったのだが、これまた自分は聖女として穢れ祓いをして生きていくと大聖女が宣言した。


 欲も権力も、そして愛も何も得ようとしないその心に人々は、そして皇太子や各国の王たちは感動し、穢れ祓いに専念できるように聖女村を作り与えた。


 と言われているので、ジャックはそれが本当かどうか知りたいようだ。ジャックの好きそうな献身物語だ。彼の中の理想の聖女像。


 3人が口を開こうとしたとき――――



「そんなの嘘に決まっているだろう?」



 落ち着きのある少し掠れた声が彼らの耳に届いた。


 ジャックが視線を向けるとそこには口元に優雅な微笑みを浮かべた品のある高齢の女性が杖を支えにして立っていた。


 …………誰だろうか?


 ジャックが口を開こうとしたとき


「「「大聖女様」」」


 3人の声がきれいにはもった。


 そう、彼女こそ世界を救った大聖女のうちの1人、


 ノアだ。


 ただ1人生き残る大聖女。もう1人は数年前にあの世に旅立っていった。


 ジャックはざっと片膝をつき、頭を下げた。


「おやおや、もはや役立たずのババにそんな大層なことをするものじゃないよ」


「いえ、滅相もこざいません。大聖女様とは気づかず大変失礼いたしました」


「ほっほっほっ、公爵家の倅に頭を下げさせるとは……私も偉くなったものだねぇ」


 そう思わないかい?と3人の若き聖女に視線を向ける大聖女ノア。


「久しぶりじゃん、おばば様。更にシワが増えたんじゃない?」


「おばば様、そんなに謙遜しなくても良いのよ?神官は聖女に頭を下げるものなんだから。…………それがババアだろうが、役立たずだろうがね」

 

「おばば様、久しぶりぃ。ちょっと背縮んだぁ?」


「…………お前たちは多少そこの小僧を見習ったほうが良いね」


 そんなやり取りをしつつ、シェイラが取ってきた椅子に腰掛けるノア。


 いや、おばば様も小僧とか言ってるからと呆れ顔の3人。


 そしてジャックは自分が小僧と言われたことなど全く気にしていなかった。いや、小僧万歳!それよりも……


 3人の聖女の無礼な態度に角と牙が生えそうなほど怖い顔をしていた。



  

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