表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガールズトークin聖女村 〜聖女たちは今日も毒を吐く〜  作者: たくみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/67

40.聖女像

「まあ……一言で言えば聖女像?」


「は?」


 聖女……像?とな?


「だーかーらー。世の中の人が聖女に持ってるイメージを人化した感じ」


 おお、なるほど。ピーンときた様子のロメロにやれやれと両方の手のひらを上に向け、軽く肩を竦め首を振るアリーシャ。ロメロのコメカミに青筋が浮かぶが我慢だ。

 

「イメージを人化って……いや、そもそも聖女様は人ですからね」


「おほほほほ、聖女が清らかでうんちゃらなんて幻覚だってよぉく知ってるくせにぃぃ」


 はははは、知ってますよ。ていうか微妙に語尾を伸ばして苛立たせようとしているのが更にムカつく。


「ははははは、よぉく知ってますよ」


 あ、口に出してた。ま、本当のことだしいっか。


「奥様聖女だもんね」


 いや、うちの奥様は見た目も心もきれいですよ。子供の面倒もしっかり見てくれる女性ですよ。


「…………ちょっと口が悪いだけですよ」


 あ、口に出す言葉と心の声を間違えた。やってしまった感を出すロメロにくすくすと笑うアリーシャ。


「別に性格が悪いとか言ってるわけじゃないんだから」


「そうですけど」


 そうなのだ。別に性格が悪いとかじゃない。聖女として世のため人のため働き、家のこともしっかりしてくれる。落ち込んでいれば励ましてくれる優しい妻だ。


 ただよく家であんのクソ野郎が、と大声を出している姿もよく見るが。


「皆からの評価がいい人っていうのはあり得るけどね。不平不満は言わない、愚痴も言わない、人の悪口も一切言わない、悩みも言わない。ただ微笑んで傷ついた人達に治療を施し、それらが終わった後も休みの日も穏やかに微笑み続ける」


 そう言ったアリーシャはゆっくりと足を組んだ後に椅子掛けに肘をつき、軽く傾けた首を支える。さらりと銀髪が頬を撫でる。


「そんなのは人間というよりも笑顔を貼り付けた人形みたいだよね?」 

 

 目を軽く細め薄っすらと微笑んでとても美しいのに、どこか纏う空気が寒々しい。ロメロは自然と軽く腕をさすっていた。


「…………愚痴や不満、人のことを悪く言わないようにしている方なだけでは?」


「ふぅぅん」


「…………なんですか?」


「ロメロってそんなにお花畑脳だったっけ?」


 失敬な。じとーっとロメロは睨むがアリーシャは視線を外さない。


「そりゃあいろいろな人がいるのはわかってるわよ。心に怒りがわきにくい人、人を言葉で傷つけたくない人、人を不快にさせたくない人。でも、わかってるでしょ?治癒師がどれだけ大変な仕事か、そんな根性論で自分を押し殺して物言わぬ人形でやっていけるほど甘い仕事じゃないわよ」


「どんな職業でも大変なものですよ……」


 皆頑張って仕事をしている。職業で優劣をつけるような言い方は神官としてはできない。


 だが、心の中が透けて見えていますよと言うが如くニタニタと笑うアリーシャを視界に捉えると、ふぅと息を吐く。


「…………まあ、お綺麗事だけでやっていける仕事ではないことは理解していますよ」


 診療所には神官もよく行くのだから。


 彼女たちの仕事、そして心ないやつから放たれる言葉の刃が鋭いことはよくわかっている。


「グロいものを見なきゃいけないときもあれば、救えない時もある。患者の家族から心ない言葉を投げかけられることもあれば、患者から理不尽な罵声を浴びせられることもある」


 淡々と言葉を紡ぐアリーシャの顔は真顔で何を思っているかわからない。治癒師という仕事柄、それは致し方ないことともいえる。だがそれを当たり前のように受け止め続けるのも……なかなか苦しいものだと言えるのではないか。


「それだけじゃないでしょ?身も知らずの世間の奴らから聖女の劣化版だの容姿や仕事を卑下されて、時には治癒を施した相手にも蔑視される」


 感情が窺えなかった顔に怒りが徐々に現れ始める。


「あり得ないよねぇ。真面目に働いて人々を救ってるのに……好き勝手に言われてさあ。本人じゃなくても何その意味のわからない不条理……と思うじゃない?」


「まあ……それは……そうですね…………」


 なんとも歯切れの悪いロメロにアリーシャの口角が意地悪く上がる。


「神に仕える神官だって、めっちゃグチグチ愚痴ばっかり言ってるじゃん?主に聖女や上司の。嫌だねぇ、世の中に蔓延る穢れを一生懸命祓ってる聖女のことをグチグチ言うなんてねぇ?」 


「そう思うなら言動を改めてくださいよ」


 上司にだってムカつくのだ、苛つくのだ、理不尽ばかりなのだ、愚痴の1つや2つぐらい良いではないか。


「否定しないんかい!」


 はははは、と笑うアリーシャから仄暗い空気が消えた。


 神官とて人に不快な感情は抱くもの。それを解消するために何をするかは人それぞれ。暴言、態度、愚痴、ただありのままを話すだけ、暴飲暴食など色々な方法がある。


 だがジュリアには何一つ当てはまるものがない。彼女のそういった姿を見た者はいなかった。




「ま、結局何が言いたいかと言うと――――――




 よくわからなかったって感じ」


 

 結局彼女はどういう人間なのか。とりあえず善人ぽいが皆から評判が良いなんてよっぽと分厚い仮面でも被っているのか、あり得ないほどの善人なのか、感情が乏しいのか。



 善人、善人ねぇ。


 彼女が究極の善人だとしてもストレスを感じないものなのか。感じても時間とともに何もしなくても勝手になくなるのだろうか?それとも溜め込んでいるのか……。


 え、どこに?


 ぶわあと吐き出してしまうアリーシャにはちょっと理解不能だ。




 なにはともあれ前進かと思ったら振り出しだとため息を吐くアリーシャだった。




 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ