39.お説教タイム
翌日の夜。
でん、とお互いにふんぞり返って腕を組み足を組みながら椅子に腰がけ向き合うアリーシャとロメロ。ちなみに扉は全開、2人の間に何かあったと思われてはたまらない。
こんな状態ではあるが一応お説教タイムである。
「まったく!なぜあなたはそんなに口が悪いんですか!?聖女たるものどんな相手であろうと微笑み、丁寧に接しなければ!」
「えー……ちゃんと一対一で丁寧に嘲笑って対応したじゃない」
ちゃんと向き合って、丁寧にわかりやすく現実を突きつけてやったではないか。
「あれは悪口を言っただけでしょうが!?」
「悪者退治よ~。ほら私聖女だから。世の穢れをなんとかしなくちゃね!ほほほほほ」
「世にはびこる穢れを祓っても、人の汚い心を払ってはいけません!」
いや、汚い心ってあんたも大概失礼よ。
「何言ってんのよ!聖女とは世の人々の正義の味方でなければならないでしょ!だぁいじょうぶよ!見た目も性格も悪いやつに説教食らわしただけなんだから」
「正義の味方……よくそんな出任せが言えますね。ムカついたから一発かましてやっただけでしょうが!」
「ピンポーン!」
「やったぁ正解!イェーイ!」
「イェーイ!お見事!」
2人は暫くニコニコと笑った後、すんと真顔になると睨み合った。
本当にこの聖女には困ったものだ――。坊ちゃんの父親がこの診療所に多大な寄付をしているらしい。幸いにも父親は真っ当な人だったのか世間体を気にしたのか、援助の打ち切りはなかったから良かったのだが。
本当にこの神官には困ったものだ――。だいたいああいう小者感満載のやつは上のやつには弱いものだ。同じ平民でありながらこちらは聖女。更に聖女の後ろには世界に通用する神官庁が控えている。どちらが上なのか明らかなのに。
それにあれだけの勘違い野郎には現実を突きつけてやった方が優しさというもの。今回のことをバネに頑張ることも、改心する可能性も…………多少はあるだろう。
まあたぶんないだろうけど。ははははは。
優秀な兄が何人もいるらしいから、いっそのこと引きこもっちゃえば良いのに。ははははは。
お互い思うところはあるがとりあえず心の中に収める。
「で、収穫はあったんですよね?」
すっと先に視線を外したロメロがはぁと諦め感満載の息を吐いた後、アリーシャに尋ねる。
「んーーーー……。あったといえばあったような……」
「歯切れが悪いですね」
坊ちゃんが去った後、診療作業に戻った治癒師たち。患者も元いた場所に戻った。だがいつもと違い、アリーシャに対し一歩引いた感じだったのがフレンドリーになった。
彼女の言動を見て、
あ、
聖女も同じ人間だ
と感じたよう。
治癒師たちは診察の後、彼女に今までの態度と今日のお礼を言いに来た。
打ち解けた聖女と治癒師たちは
イェーイ、ウェルカームとばかりに
先程まで飲んでいた。(夜勤の人は除く。とても恨めしそうな視線だった)
そして、その場で今まで聞くことのできなかったジャックの想い人ジュリアについて聞いてみたのだが――。
「いや、色んな人から聞いてみたんだけど…………なんかまぁ、うん」
ロメロの片眉が上がった。これは、あまり宜しくないお人柄だったか?
彼から見た彼女はどんな相手にも笑みを絶やさず、誰かの悪口も言わない。仕事が終わった後でも愚痴も言わない。仕事は真面目に取り組み、率先して重症患者の対応もしていた。他の治癒師とも揉めている様子はない。
なかなか身の回りにはいない好印象の女性だった。アリーシャもそのように見ていたようだったが、やはり人というのは裏の顔もあるよな。
うんうんと頷くロメロ。
で、どんな裏の顔が?
アリーシャはどことなく期待が籠もったギラギラとした眼差しを直視できず、視線を逸らす。




