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ガールズトークin聖女村 〜聖女たちは今日も毒を吐く〜  作者: たくみ


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32/67

32.珍しい光景

 うららかで暖かい日差しが降り注ぐ聖女村。


 その暖かな陽気のもと聖女たちはご機嫌麗しく心穏やかに過ごすこと無く、平常運転で各自仕事をこなしつつ好きなことをしていた。それに伴い神官たちも彼女たちに振り回され、忙しく働いていた。


 だが陽気と連動するが如く、ぼーっとする男が一人。両手で頬杖をつきながら開け放した支部の一室の窓から外をぼーっと見る男は――ジャックだ。


「なんとも珍しい光景ね」


「あら、そうねぇ。いつもビシッとして、お説教もキレッキレ、雑用一つにしても丁寧な仕事をする彼が仕事中にぼーっとするなんて。明日は雪でも降るのかしら」


「え~~~~雪ぃ!?明日教会に行かないといけないのにぃ。勘弁してよぉ」


 そんな彼を影から見守る、もとい観察しているのは3人の聖女。


 そして――――


 こんな暖かいのに雪が降るわけないでしょうが。


 聖女の影から彼女たちの言動を見やり、呆れているのはロビンとロメロだ。ちなみにジャックの様子も伺っている。


 背後から2段構えで観察されているとは思わないジャックは体勢も変えることなく、ぼーっとし続ける。


「いつもお説教ばかりされてるから、仕事しなさいよって言って叱ってやろうかと思ったけど……」


「そうね。いつもうざいぐらい細かいことまで説教してくるからこんな時ぐらい思いっきり後ろからどついてやろうかと思ったけれど……」


「う~~~~ん。くどくどくどくど同じことばっかり説教されるから、ねちねちねちねち責めてやろうと思ったけどぉ」


 おいおい、どれだけお説教されているんだよ。自分たちもそれなりにこの聖女たちに振り回され、説教をすることも少なからずあるが、ここまで根に持たれるほどではないだろう。


 というか、この3人が説教されるようなことをするのが悪いのだが、彼女たちが改めるわけもなし。


「でも」


「そうよねぇ」


「あれだけぼーっとされたら、却って声かけづらいよねぇ」


 そう、ジャックはかれこれ1時間程ぼーっとし続けている。


 そして、5人もかれこれ1時間程ジャックを観察している。


「でも、休憩時間でもないのにちょっと休みすぎじゃない?普通誰か注意するでしよ」


「それはもちろん彼がこの帝国が誇る公爵家の末っ子だからでしょうね」


 そう、堅物真面目夢見がちジャックはこの帝国の公爵家の末っ子だった。王家に次ぐ高い地位、その辺の小さい国の王様よりもよっぽど強い権力を持つ家の出身なのだ。


「んふふふふふ、神に仕える神官たちも所詮人だからねぇ」


 ……はい、もちろん普通に人です。大層美しい心を持つわけでもなく、全ての人が平等だなどと思っているわけでもありません。上官の言うことには従う、権力者には極力逆らわない、そんな普通の人間です。


 ロビンとロメロはそんなことを思う。聖女たちは続ける。


「あの二人は?」


「ああ、ロメロとロビン?」 


「二人ならジャックにも物申すでしょ」


 まあ、多くの神官はへこへこしているが自分たちはそうでもない。彼は権力を振りかざしたりしないし、偉ぶったりもしないから物申してしまう。もちろんこの職場に限る話だが。所詮自分たちは男爵家出身の継ぐ爵位もない次男坊。


「もしかしてあの二人もサボりかなぁ?全く普段説教ばかりしてくるくせに、まず自分たちがちゃんとしてよねぇ」


「「本当に」」


 ……………………はははは、あなた方の後ろにいます。


 いや、でもまぁこれもサボりと言えばサボりか。

 

 リリアの言葉とそれに同調するアリーシャとシェイラの真面目な顔になんとも、微妙な心持ちになる。間違ってはいないのだ。間違ってはいないのだが、こうなんか



 

 彼女たちに指摘されるとイラッとくるものが――――。




 とはいえ、確かにちゃんと仕事をせねば。


 屈んでいた膝を伸ばそうとしたロメロの耳元にかすれた重低音ボイスが届く。


「ちゃんと仕事をせんかぁ」


「「うおっ!?」」


 驚き振り向く2人と、その声に驚き振り返る3人。


 そして


「「「「「神官長様」」」」」


 5人仲良くはもる声。


 彼らの視線の先にいたのは耳打ちした際に屈めた腰をどっこいせと伸ばしている真っ直ぐの腰まで届く長い白髪にこれまた胸元まで届く長い白色の顎髭を生やしたご老人がいた。


 彼は神官を束ね、彼らの頂点に立つ神官長である。一応聖女の方が立ち位置は上なのだが、彼女たちは神官庁に所属しているので神官長の指示で様々な仕事を行う。


 神官が所属し、働く場である新官庁と同じ呼び方なので皆区別をつけるために神官長のことは様をつけて神官長様と呼ぶ。


「ほっほっほっほっ。聖女様たちご機嫌麗しゅう。体調など崩されたりはしておりませんか?貴方がたは我らの大切な金蔓……ごほんっ!人々を救う力を持つ特別な方たちなのですから」


 髭を撫でつつ、にやりと口角を吊り上げながら紡がれる言葉。


 聖女たちは顔が引きつるのを感じた。


 自分たちも金は好きだが……本人を目の前にして金蔓って…………。まして彼は神官長。


 あり得ない。


 それにいつぽっくり逝ってもおかしくないような神官長に体調のことを聞かれるのも微妙である。むしろこちらが聞きたい。まだお迎えは大丈夫そうですか?と。


「神官長様、神官のジャックが1時間程窓を見たまま動きを見せませんので、様子を伺っておりました。やはり聖女といたしましては体調が優れないようであれば診てさしあげないと、と思いまして」


 伏し目がちに思ってもいないことを宣うアリーシャに白けた視線が突き刺さる。


「ほっほっほっ。やれやれ、1時間も皆で時間を無駄にしておりましたか」


 ばっさりとサボりだろうと暗に切られるがアリーシャは表情一つ変える様子はない。神官長はふむふむと髭を再度撫でるとアリーシャから神官2人にくるりと視線を変えた。


 あ、嫌な予感。


「常日頃から命懸けで任務にあたっておられる聖女様方はまぁ今日は任務はないようですしよろしいですが、お前たちはちゃんと働かないと減給になりますぞ」


「我らもジャックを見守る聖女様を見守っていたのですぅぅぅ」


 ……ですぅぅぅって、ロビンよ。動揺し過ぎだろう。


 皆の心がハモったが声には出さない。


 いや…………


「おっほっほっほっ。ですぅぅぅってウケ狙いか?そんな無駄なことをしている暇があるならば……」


 ギロリと鋭い視線がロビンを貫く。ヨボヨボジジイからは考えられない眼力。いや、年の功故の眼力か。ついでにロメロにもその視線は向けられる。


「「申し訳ございませんでした!以降気をつけますので減給はご勘弁ください!」」


 膝に頭がつきそうなほど腰を曲げる2人に神官長は最初からそう言わんかいとふぅと息を吐いた後、ちらりと視線をジャックに向けた。



 まぁ、気になるわなぁ。


 いつも真面目に働くジャックがあれだけ、ぼーっとしているのだから。


「なぜああなっているか気になりますか?」


「「「「「めっちゃ」」」」」


 勢いよく5人の目がギラリと、輝く。


 そして、教えて教えてと目がうるうるキラキラと光り輝く。


 美男美女が目を輝かせる様は一枚の絵画のようで目の保養である。しかし口には出さないが、人の事情に興味津々さを隠しもしない彼らに神官長はドン引きだった。







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