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ガールズトークin聖女村 〜聖女たちは今日も毒を吐く〜  作者: たくみ


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29.目を覚ます

「あ、あの……侯爵様はそんな方では…………」


「いいのです!わかっています。恋愛フィルターがかっているときは彼に関することは全て薔薇色、幸福色に見えるものです。他に恋人?愛人?超えるべき試練!貧乏?私がどうにかしてあげる!暴力?私への愛の表現!………と思い違い甚だしいことになることは存じ上げております」


「「思い違い甚だしい……」」


 リリアの思いやりもへったくれもない言い分に思わずハモる父娘。


「その素敵な貧乏侯爵なら存じ上げております。貧乏侯爵は今婚約者を選定中と噂で聞きました」


 び、貧乏侯爵……実に不敬だ。だが鬼気迫る勢いに思わずコクリと頷くマリア。


「貧乏侯爵は地位はあるのですから狙うは金です」


 またコクリと頷くマリア。あ、頷いちゃった。


「きっと莫大な持参金と支援を約束すればマリア様が選ばれることでしょう」


 目を輝かせながらこくこくと頷くマリアに落ち着けとばかりにパッと手のひらを翳すリリア。


「ですが、本当にそれで良いのですか?」


「え?」


「あなた様に何も見返りがないのですよ?」


「?きっと優しくしてくださるわ」


「言い方が悪かったですね。失礼しました。伯爵家になんの見返りもないのですよ?莫大な資金だけだして何も見返りがないなんて……恩人の家や友人の家ではないのですよ?愛する娘が愛する人と結婚させたい。そんなことは低位貴族や落ちぶれた貴族が諸々諦めてすることです。国を支える柱である伯爵家が取っていい手ではございません」


「私は……家のために国のために我慢しなくてはいけないの?」


 リリアの言葉にきゅっと口を噛み締めた後、ぽつりと呟く。自分だってわかっている。家に届く求婚書の数々。王から無理難題を言われながらも家で頭を抱えなんとか解決策を見出す父親の姿。


 自分の家がどんな立ち位置にいるのか。


 でも惚れたのだ。


 あの麗しき侯爵に。


 あの笑みに。


 あの顔に。


 あの顔に。


 あの顔に。


「我慢してください。侯爵の顔は捨てましょう」


 あら嫌だ。声に出てたかしら。


「というか社交場で見るくらいはできるんですから、夫ではなく鑑賞用にしましょう」


「…………………………鑑賞用」


「はい。そしてマリア様は選びましょう。侯爵様以外から。あなたにはそれが許されています」


 力のある実家。美貌。いくらでも行き先はある。


「顔だけでなく、色々なものを見て選ぶとよろしいかと」


「そうね」


 なんかすとんとした。よく考えたら顔にしか興味がない。自分は子供なのだ。父親に反対され言いなりになるものかと反発心もあった。


「なんか、こんな遅い時間にごめんなさい」


「いいえ、私はこれで食っていってるので。伯爵様にもがっぽりもらえることになっているのでお気になさらず」


 …………せめて仕事とか言って欲しい。


「謝罪ならお父君にされたほうが宜しいかと」


「お父様ごめんなさい。家のことを軽々しく扱うようなことばかり言って。侯爵様は諦めるけど……でも、お父様も納得できる方で、私自身も良いと思った方と婚約したいと思うわ」


 おずおずと父親と向き合うマリア。


「私はもとからそのつもりだ」


 ぽんぽんと頭を優しく叩かれ、気恥ずかしい気分になる。


 和やかな空間。


 教会長は涙を流している。


 はたまたそれはなんの涙か。


 親子愛への感動?


 リリアが処罰されないことへの安堵?


 謝礼金がもらえることへの歓喜?


 なんとも忙しい御仁である。


「伯爵様」


 和やかな空気が流れる中、なんとも愉しげなリリアの声が伯爵を呼ぶ。


「…………なんだろうか?」


「伯爵様が侯爵様との婚約を反対された理由ってなんですか?」


「それは金がない家に娘を嫁がせるのは…………」


 ふふふふ……と笑うリリアに伯爵の言葉が途切れる。


「本当の理由を教えてほしいなぁと思うのですが…………。支援すれば立て直せる可能性もある。だって優秀な方なのでしょう?でも強固に反対しておられる。それはなぜでしょう?……………むふふふ」


 これは、弱みを握りたいのか?


「聖女という立場、平民という立場。手元にあるカードはたくさんないと…………そう思いませんか?伯爵様」


 小首をかしげるリリアに厳しい顔をしていた伯爵はフッと力を抜いた。聖女という類稀なる力をもちながらも平民という立場である以上大変なことも多いのかもしれない。


 まあ自分の家のことでもないし…………


「内緒ですぞ?」


「来たるべきとき以外は」


 なんだそれは?


 だが伯爵は口を開く。


「実は――――」


 娘にも言わなかった侯爵の実態を。









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