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ガールズトークin聖女村 〜聖女たちは今日も毒を吐く〜  作者: たくみ


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21.嫌な予感

 嫌な予感はしていたのだ。


 そもそも穢れ祓いに向かった先もかなりギリギリの状態であった。


 リリアは思い出す。ガネーシャ領での出来事を。






「おお!リリア聖女様!噂通りなんとお美しい!」


 そう言って手を握ってくるのはガネーシャ男爵だ。小太りで目に痛い派手な服を着たちんちくりんのおっさんだ。


 というかそんなことをしている場合ではない。


 ば、と手を離しその場に膝をつき両手の指を絡め目を閉じる。ガネーシャ男爵がむ、としたのが一瞬目に入ったが、そんなものどうでも良い。


 魔法を発動させるものの身体からすごい勢いで力が抜けていくのを感じる。


 間に合えば良いが――。


 目の前にとても濃い靄、いや闇が蠢いていた。それらが揺れる度にチラチラと見えるのは頑丈な丸太でできたバリケード。そしてそのバリケードのほんの少しの隙間から流れるのは血だ。


 シルビア帝国の隣国内のガネーシャ領の貧民街で穢れが発生したと報告があったのは今朝のこと。すぐに貧民街を覆うバリケードを作り周辺の人たちを避難させたと聞いていた。


 しかし、これはどういうことなのか。


 多くの人の気配と貧民街を覆う大量発生した穢れ。普通は少量から始まるものなのだが、もしや異常発生?昔のように世界を覆う可能性も……。


 リリアの背筋にゾクリとしたものが走る。


 だがやるしかない。聖力を強めるとどんどん空気がきれいになっていくのを感じる。量は多いが思ったよりもスムーズに祓える穢れにリリアは目を開く。


 そして、気づく。隣に立っているガネーシャ男爵の顔がワクワクと期待に染まっているのが。穢れ祓いの奇跡に感動したのか?いや、そんなものの類ではない。


 これはもしや――嫌な考えが頭を過ぎるが祓うことに意識を集中させるリリア。時間はかかったが全ての穢れを祓い終えたリリアはほっと安堵の息を吐いた。


 少し頭痛がするが神官や周辺の住民達が急いで壊したバリケードの一部から急いで中に入ろうとしたもののガネーシャ男爵が勢いよく走ってきてぶつかった。顔を顰めるリリアを気にせず中の様子を観察する男爵の頰が嬉しそうに上気した。


 リリアは中を見て、口を押さえた。


 血だらけになりながら倒れる人々。若い人も子供も老人もいる。神官たちが彼らの様子を見ながら重傷者の治療をリリアに求め、リリアが治療していく。軽傷者は神官や近くの住人たちが手当てをしていく。


 酷い怪我を負った者が多かったが、幸いなことに1人も亡くなったものはいなかった。治癒を終えたリリアはほっと息を吐く。


 が、


「全員助かっただと!?害虫たちを一掃できると思ったのに!聖女を呼ぶのが早かったか?くそっ、もう少し広がるのが遅かったら……貧民街だけに留まってくれれば良かったのに!」


 そんなガネーシャ男爵の声が聞こえ、リリアの顔は強張った。周囲にいた貧民街の人たちは顔を青褪めさせる。


 あいつは何を言っているのか。穢れはかなり濃かった。彼はわざと報告をせず暫く放っておいたのだろう。貧民街の人達を消す為に。


 本当はもう少し黙っておこうと思ったが、他の場所にも広がりそうだったから報告してきたというところだろう。


 なんという非情なことを。


 なんとひどい考えを持つのか。


 人をなんだと思っているのか。


 穢れを舐めているのか。



 リリアはガネーシャ男爵の方に向かおうと一歩踏み出すが、その肩に神官が手を置く。リリアはゆっくりとそちらに顔を向けると手の主ロメロがゆっくりと顔を振る。


 領民をどう扱おうと領主次第。それが法に触れるものであるならば罰するのは神官庁ではない。この国の王や民だ。


 聖女としてやるべき仕事はきちんとこなした。人々は救った。これ以上は越権行為でしかない。なんの根回しもせずに他国の貴族に物申すはよろしくない。


 一瞬唇を噛んだ後、怒りで震える唇を笑みの形にし、ガネーシャ男爵に近づく。


 あんな大声で叫んでいたのに、リリアが先程の言葉を聞いていたとは思っていない男爵は彼女を笑顔で迎える。


「ありがとうございました!いやあ、初めて穢れ祓いなるものを目にしましたが、お見事ですなあ!いやはや素晴らしい!また我が領に穢れが現れましたらよろしくお願いしますね!」

 

 はい、ともいいえ、とも答えずリリアは笑みを浮かべたまま頷く。頷くしかない。どれだけ気に食わない相手だろうと仕事は受ける。そもそも、被害を受けるのは領民だ。


 だが、素直に笑顔ではいと言うことはできなかった。


「それで一応確認なのですが…………」


 チラチラとリリアを見ながらなぜかニタニタと笑う男爵に嫌な予感がする。いや、もう先程から不快度マックスなのだが、これ以上何を言う気なのか。


「いやあ貴族の者は皆謝礼金を渡すと聞いたのですが、これは善意のボランティアなのですよね?」


 ……………こいつ金払わない気?


 ……………いやいや、まさかね。


 ……………プライドの高そうな成金貴族様がまさかね。


「はい」


 こめかみに青筋が浮かぶのがわかるが返事ははい以外はない。ああ、髪の毛があって良かった。こんなやつでも相手は貴族。失礼な態度はあまり取るべきではない。


「ですよね!ああ、聖女様に金の話など失礼でしたね。ささ、お忙しいでしょうからお帰りいただいて構いませんよ」


 言われんでも帰るわ。だが、なんとも厄介払いされているような気分というのか…。人の心をもやっとさせる言動をする目の前の男を睨みつけたいが、目も口も弧を描く。


 微笑みながら失礼致しますというしかリリアには選択肢はなかった。





 それにしてもぉ……これで金払わなかったら許すまじよねぇ。



 

 まさか、まさかとは思うけどぉ、あの言いようからは嫌な予感しかしないよねぇ。





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