13.結婚式
そしてついにやって参りました結婚式。
アリーシャはスマイルという仮面を貼り付け、式が行われている教会の隅の方に立っていた。本来であればあなたは誓いますか?という役割なので主役の2人の真正面に立つものであるのだが…。
ちらちらと気の毒そうに見てくる方々お構いなく。主役は教会の前方中央に立つ男女様にあらせられるのですから。ちなみに彼らの視線はあちらこちらに忙しなく動いている。
まあ、これではそれも当然というもの。
アリーシャは教会の中をぐるりと視線だけ動かして見回した。普段であれば白い壁、木製の椅子が等間隔に並べられているのだが、現在は式仕様に変えてある。
教会って…………………………
こんなにピンクになるのね。
至るところに飾られた花は大小様々素朴なものも華美なものもあるが共通するのはピンク色。木製の椅子にはピンク色のカバーがかけられ、壁にはピンクの布がカーテンのようにかけられている。
なぜこんなにピンクなのか?
もちろんブリリアン様の要望である。彼女の中で1番自分を引き立ててくれる可愛い色はピンクとのこと。うんうん、可愛いよね~女の子っぽいよね~わかるわかる。
でも物事には程度というものがあるよね~。
ていうかこんな短期間で諸々用意できるわけないから婚約破棄する前から色々準備していたんだな…と推測できる。ははは、本当に最低なバカップルだ。
とか考えている場合ではない。
ぐわっと口を開ける。
「それでは結婚式を始めたいと思います!」
思いっきり叫ぶ。だってそうしないと聞こえないんだもん。部屋の隅に立たされてるんだもん。
くどいが、気の毒そうに見るのやめておくれ。
例えこんな隅に立たされているのが、ぶり娘から主役でもないのに真ん中に立つなんて非常識とかわけのわからないイチャモンをつけられたからだとしても。
ははははは、非常識だって。申し訳ございませんね。でも愛を誓う際の立会人として祝福の言葉を紡ぐ人間とは主役の2人の前で行うものと教えられてきたのですがね。
なんて思いながら口では別のこと――立会人の言葉がべらべらと出てくる。祝福の言葉、あなたは愛を誓いますか?などである。
あなたは愛を誓いますか?だけというわけにはいかないのでべらべらとお話するわけだが、その間も二人はいちゃいちゃと相手の腕や腰をお触りしまくりである。
ブリ娘に至っては誓いでさえ、誓いま~すとなんとも本気さを感じられないお返事だった。あー……なんか気が抜ける。このまま私自身もお外に出ちゃおうかなぁ、なんて思うもののできるわけなし。
そして…………………なんか長い。長い。
何がって?
もちろん見ているものがなんともこそばゆい誓いのキッスである。うんうん、嬉しいし幸せいっぱい。私たちのラブラブっぷりを見て!うんうん、わかる。
でも長すぎてある。
かれこれ3分程。しかもディープな方。これは見て良いものなのだろうか。口元はもちろんの事、互いの体をなぞる手とか王の股間とか。
うん、直視NG。
5分ほど経ちぷはぁと吐息の音がし、上気して真っ赤になった顔が離れた。はは、見ているこっちは羞恥で真っ赤になっておりますが。なんて呆れながらも極上の聖女スマイルを浮かべ最後の言葉を述べる。
「私はあなたたちの婚姻を認め、祝福致します!二人に幸あれ!」
うわあ!と歓声が上がるが祝福の声というより聖女の祝福を聞けて嬉しいと騒いでいるのは気の所為だと思おう。
そして、
「これで我らは夫婦になった。この後は広間でパーティを行うから移動するがいい!」
「「「おめでとうございます!お招きいただき光栄にございます!」」」
へ~ちゃんとそういう準備はしていたのね。誰が?きっとルカミア様かな。彼女が色々と準備したものを基本的には使っているようだからきっとそうだろう。
それ以外のものはなんともピンク仕様で目が痛い。
「んんっ!あーっ、そなたたちも王や王妃がいない方が楽しめるであろう?私は王として国で1番大切な仕事を行ってくる故、皆でパーティを楽しむが良い!」
「えー!!!なんでなんで!?私たちの幸せを皆に見せつけてやりましょうよ!高いドレスとアクセサリーを新調したのよ!?」
なんだかブリ娘は喚いているが、王に手を引っ張られて若干引きずられながら去っていく。
いや、仕事って…………思いっきりぶり娘のぽろんしそうな胸元を凝視していたが。これから彼らが致すことを察する。まあ確かにそれも後世に王家の血を残すという大事な仕事と言えるのかもしれないが。
ちらりと集まっていた家臣たちに視線を向ける。
彼らはははあと頭を下げ、二人の姿が見えなくなったら頭を上げ移動し始めた。その表情は皆笑顔で主役2人がいないパーティに何も思うところがないようだ。
これが慣れというものなのだろうか。
そんなことを思っているとぱちりと見目麗しき男性と目が合った。ふわりと微笑まれて会釈されたので、こちらも微笑んだ後胸に手を当て深々と頭を下げる。
なぜかって?
それは王族だから。他国の、だが。
そうこの式には他国から来ている王族や使節団がそれなりにいる。即ちピンク仕様の式や先程の破廉恥な行動が他国の者たちの前で行われたということ。
あり得ない行動。
あり得ないのだが……。
あんなものを見たのに動じもざわつきもしない彼ら。
これも慣れ?
アリーシャははあと息を吐く。
なにはともあれ仕事を終えられて良かったというものである。




