新ダンジョンの攻略
「この!」
ダンジョン最奥部でのジャイアントスコーピオンとの戦闘も、後半ではこちらに余裕が出てきて、蠍の横や後方からも攻撃を行えていた。
そしていよいよ5体目にとどめを刺したところである。
「ふぅ」
ルナリーナはずっと≪火炎≫魔法を発動し続けたのもあり、戦闘後に皆に回復魔法をかけ終わったところで、疲労感のために座り込んでしまう。
「ルナ、本当にお疲れさま!」
「ルナ、すごいな。ただ、あんなに魔法ってたくさん発動できるものなのか?魔力回復ポーションを飲んだりしていなかったよな?」
「え?言っていなかった?」
クタクタなルナリーナに代わってミミがジョフレッドに説明する。
自身の魔力消費の代わりに、魔石を使うことができることを、である。
「え?魔法使いにとっては普通のことなのか?聞いたことがないが」
「私も知らないわ。もしかしたら極意として一部では知られているのかもしれないけれど」
ジョフレッドの言葉に、イグナシアナも重ねてくる。
「ルナ、やっぱり内緒にしないとダメみたいよ」
「そうなのね。逆に強みにできるということね」
もしかして1人だけチートになれるきっかけかもと思ってしまう、前世でオタクだった思考のルナリーナ。
「でも、それならばルナにはたくさん魔石を持っておいて貰わないと」
ジャイアントスコーピオンはCランク魔物らしく、途中でのジャイアントアントやジャイアントスパイダーのDランクより大きめの魔石が胸部に埋まっていた。解体していたジョフレッドがその魔石を差し出して来る。
「それはそうなんだけど、自分で補填もできるから」
「あ、それは聞いたことはあるわ。魔道具の魔石に補填して貰う話は普通よね」
イグナシアナが補足してくれる。
「ま、今回の狩りの成果としての素材と魔石はどうせルナの魔法の袋に入れて貰うのだけど」
とは言っても入り切らない部位は諦めて、毒のある尻尾の先端部と巨大ハサミでも傷が少ないものを選別していくミミとボリス。
アルフォンスは周りの索敵と合わせて、岩場を確認に行っている。
「おーい、見つけたぞ!」
動けるようになったルナリーナも含めて見に行ったところ、先ほどのジャイアントスコーピオンの魔石よりも大きな赤紫色の石が、岩場の陰にはまっていた。
「これってダンジョンコア?」
初めて見るイグナシアナが声を漏らす。
「多分ね。出来立てのダンジョンだし、小さい方だと思うけれど」
「これって貰って良いんだよな?」
「どういうことだ?」
ジョフレッドの疑問にミミが答える。
ダンジョンは恵みをもたらす場所でもある。もしダンジョンコアを取ってしまうと、しばらくは魔物が新たに生まれなくなったりする。しばらくするとコアも復活するようだが、それまでの間は魔物を狩ることができなくなるので、場所によってはコアを取ってはいけないというルールを定めているところもあるらしい、というのだ。
「ま、この辺りは銅級冒険者もあまり居ないというし、ダンジョンは放置すると今度は魔物が溢れる魔物氾濫が怖いというし。そのためにも、魔素の集まりと言われるコアは持って行った方が良いのでしょうね」
「じゃあ、これはルナが魔力補給用に持っておくのが良いのでは?」
ジョフレッドが先ほどの話を踏まえて提案してくる。
「良いの?売ればそれなりのお金になると思うけれど」
「ま、お金よりも安全で確実な方が良いわね。お金はまだ余裕があるし」
イグナシアナも賛同してくれるので、雇い主である2人の了承を得られたということで、今後の魔力補填のために温存しておくことにする。
「じゃあ、2人は初めてのダンジョン攻略ということで」
「お、そうなるか」
「ダメよ、ここで気を緩めたら。ちゃんと外に出るところまで出来て、はじめて攻略したと言えるのだから」
「ミミは厳しいなぁ」
なごみながら、先ほどの戦闘の疲労を回復させた6人は来た道を戻って地上を目指す。
復路では往路で倒し切れていなかった魔物と遭遇することはあったが、地図を作るためにくまなく歩いていた往路と違って最短経路を進むことができるので、あまり時間もかからずにダンジョン入口に到着する。
「やっと本物の空か」
「この感じはまだ朝に近いわね。このまま街に向かいましょう」
「結局、あのロワリオンの街では宿に泊まっていないのだよな」
「ま、仕方ないわね。でも迷子の子を助けられたのだから良いじゃない」
馬はギルドに預けたままなので、街に徒歩で戻る一行。
「あ、“希望の灯火”の皆さん!おかえりなさい」
「はい、ただいま戻りました」
「ルカくんを無事に助けられた話は聞きました。達成のサインを提出する前にダンジョンの攻略に再び戻られたとか」
「ははは。はい。こちらはあのダンジョンの地図になります」
「え?本当に?」
出来立てのダンジョンであり、これからも子供が迷い込む可能性も踏まえると地図は貴重である。高額での情報買取を申し出られる。
「あと、これら素材の買取もお願いしますね」
素材買取コーナーに、魔法の収納袋から取り出した素材を並べていく。
「おいおい、ジャイアントアントの話は先に聞いていたが、ジャイアントスパイダーとジャイアントスコーピオンだと?」
「はい、巨大な虫のダンジョンでしたよ」
「これは良い防具の素材にもなるからありがたいが、これを狩りに行ける冒険者が……あんたら、この街に住み着いてくれると嬉しいのだが」
「ごめんなさいね、旅の途中だから」
「そうだよな。仕方ない。良い旅を」
ルカの探索依頼は大した金額にならなかったが、ダンジョンの調査依頼には満点以上の成果だったということでのボーナスが、そして素材の大量納品で多くの金貨を入手することができた一行。
「とりあえず普通のお肉を食べたら、宿のベッドでしっかり寝て疲れをとりましょう」
「そうだよな。肉が恋しい。ベッドが恋しい」
「あはは」
馬を受け取り宿に預けた後は、昼間ではあるが少しだけお酒を飲みながらたくさん食べてベッドに飛び込んだ一行。
もちろん後が面倒なのでイグナシアナにお酒を飲ませることはしていない。
「おはよう!」
「意外と朝まで寝られるものだな」
「ダンジョンではなんだかんだと気を張って疲れていたのね」
「そうね。しっかり休めるときに回復しておかないとね」
宿屋で軽い朝食をとりながらの会話である。
「ダンジョンって楽しいわね」
「本当は、さらに宝箱もあると良かったのだけど。出来立てのダンジョンだからか、見なかったわね」
「逆に罠も無かったから助かったのもあるけれど、な」
「なるほど。確かにダンジョンを専門にする冒険者がいるのも理解できるな」
「副都のダンジョンにも行ってみたくなるわね」
「その前に帝都でしょう?英気も養えたのだし、サンレアンに向けて頑張るわよ」
イグナシアナが元気である。
「そうね。でも、まずすることがあるわ」
「装備だな」
「あ」
イグナシアナも認識したようである。なんだかんだと大怪我はしなかったが、色々と陣形を挑戦したこともあり皆の装備が痛んでいる。防具だけでなく、硬い殻を相手にしたショートソードの刃こぼれもひどい。
「納品せずに取っておいたジャイアントスコーピオンの殻を使った防具を作って貰おうぜ」
「私は動きにくくなるから鎧はないままで」
「軽くて丈夫なのに」
ミミは引き続き鎧は無しのままのようであるが、イグナシアナとジョフレッドは今回のことを踏まえて装備するとのこと。
「残念ね。でも仕方ないわね。剣を交換できただけ良かったと思うことにしましょう」
武具店に向かったのだが、このロワリオンの街の職人ではジャイアントスコーピオンの殻を加工できないとのことであった。刃こぼれしていた剣を買い直すだけとなった。
「そうだな。ま、今回のこともあるし剣の予備を確保できたのならば」
さらに魔導具店などの品揃えも残念な結果であったが、デメテル神殿でお祈りをする余裕があったことだけはルナリーナにとっての救いであった。




