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月光と漁火  作者: かず@神戸トア
成人したオタク女子

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魔物の素材

「ルカ!」

 ダンジョンの入口では、大人たちは起きて、子供たちは寝て待っていたようである。

 子供たちも友達を置いて家に帰ることはできなかったのであろう。


「お父さん!」

「このバカ!みんなに迷惑をかけて!」

 子供を抱きしめてホッとした様子だったが、すぐに子供を叱る父。


「まぁお父さん、今日のところは無事だったので。家でゆっくり休ませてあげてください」

 ミミがそれを止めて、周りで待っていた親子たちにも帰宅するように声をかける。


「あぁ。そうだな。まず子供のことを探し出してくれたことへのお礼もできず。今回は急なお願いだったのに、本当にありがとうございました」

「いえ、無事に見つかって良かったです」

「あ、これは依頼達成の。サインはギルド職員に教わりながら先に書いていました。これを冒険者ギルドに持参いただければ報酬が支払われると聞いています」

「わかりました。頂戴します」

 ここで無料にすると言ってしまうと、冒険者ギルドの仕組みが成り立たなくなり、他の冒険者も生活に困ることになってしまう。通過するだけの自分達がこの近くの冒険者たちの経済圏を狂わせるわけにいかないので、心が痛みつつ受け取るミミ。



 親子たちを全員帰らせて、ダンジョンの入口には“希望の灯火”の6人だけになる。

「イグ。依頼達成のを受け取らなくても良いのに、と思ったでしょう?」

「あ。うん。思ったけれど、それが独りよがりの話だというのも分かっているわよ」

「あ、分かっていたのね。そうよ。今はお金を持っている王女様ではなく冒険者の1人なんだから、施しの思考は捨ててね」

「そうよね……」

 頭では理解しても、気持ちは追いついていない感じのイグナシアナであった。


「で、これからどうする?」

 自分も肌感覚的には微妙だが話題転換のために口を出すジョフレッド。

「そうね。みんなはダンジョン探索を続けたい?それとも、もうここまでにして冒険者ギルドに報告する?」

「俺はもう少し奥まで調べておきたいかな。ルカみたいな子供が出てきたときに、地図がギルドにあるかどうかは大きな違いだから」

「アル、単に探索が中途半端になるのが嫌だからではないのね。良い思考だわ。私も子供のためになら、賛成」

「そうだな。狭いところでの戦いも、もう少し訓練しておいた方が良いだろう」

「イグもジョンも賛成ならば、他は?」

 ルナリーナもボリスも特に反対の気持ちはないので、探索続行が決定になる。



「で、続行するとしても宿に戻る?」

「今から空いている宿を探すのは大変だろうし、もういっそのこと、ここで野宿するので良いんじゃないか」

「え?流石にダンジョンの中というのは」

「いや、すでに入口近くの蟻はかなり倒してあるし、屋外で全方位を警戒するよりも、行き止まりの通路の奥で一方向だけを警戒する方が楽なのよ」

「そうか、なるほど」

 ジョフレッドはなかなかそのような思考に慣れていないようである。


「晩御飯もさっき食べたし、今日使った武器の手入れくらいはこの屋外の月明かりの下でやるとして、寝ることになれば中に入ろうか」

「そうだね」

 焚き火用の枝を拾うことも含めて、各々が自分の用事を終わらせたところで、新しい松明を用意して洞窟に入る6人。


「ここがそれなりに長い行き止まりの通路だから、ここで寝ることにしましょう」

「良いわね。じゃあ、見張り当番の順番ね。イグとジョンが最初にしましょう。で、ボリスと私。最後がアルとルナでお願い」

「了解」

「分かった」

 ダンジョンに不慣れで疲れているはずのイグナシアナとジョフレッドを、一番しっかり休ませる意図に誰もが気づいているが余計なことは口に出さない。



「じゃあ、そろそろ皆を起こそうか」

 すでにたくさん倒していたからか、ジャイアントアントが襲ってくることがない一晩であった。最後の見張り当番であったアルフォンスたちが皆を起こしてまわる。


「じゃあ、スープを飲むとしよう」

 前世では朝ごはんを抜いてしまう若者などがいたことを改めて思い出すルナリーナ。しかし、この世界で、特に冒険者は朝食を食べずに力を発揮できないことは命に関わる。

 ここの仲間たちはパンとスープなど食べられるときには食べる習慣があるのでありがたい。



「あれ?やっぱり死体が無くなっているよな?」

 朝食の後、昨日に作成した地図に従いながら先に進む一行。

 昨日にジャイアントアントの死体を放置したはずのところを通っても何も無いことにジョフレッドが言葉を漏らす。

「ダンジョンは放置された死体などを吸収するって聞いたことないか?」

「あ、言われてみたら。体験すると思っていなかったから」

「こういうこともあるから、ダンジョンは生きていると言われるのよ。最奥にあるダンジョンコアが魔石と同じだから、ダンジョンは魔物の一種だと言われるのも分かるよね」

「宝物を用意して人を呼び寄せておきながら、魔物や罠で倒して吸収する。なかなか悪賢い魔物だよな」



「あ、たぶんジャイアントアントが2体、右の道から」

 ルナリーナが使用している≪探知≫魔法で分かった魔物の接近を皆に告げる。

「よし、また俺たちで良いよな?」

 ミミの返事も待たずに、ジョフレッドとイグナシアナが駆け出して魔物に対峙する。

 今度は急ぐこともないのでルナリーナは魔法攻撃による支援もせずに2人が倒すのを待つ。


「あ、ジョン。ちゃんと魔石以外も回収しないと」

「え?昨日は魔石だけって」

「今日は男の子の捜索もないからそこまで急がないでしょう?しっかり討伐証明部位の大アゴも回収するのよ」

「でもミミ、Dランク魔物の素材なんていくらにも……」

「イグ、ジョン。今のあなたたちは何?」

「あ、冒険者……」

「そうよ。冒険者はそういう素材を馬鹿にしていたら生きていけないのよ」


「Dランク魔物1体の素材があれば、孤児院の子供何人もがお腹いっぱいご飯を食べられるのよ」

「すまん……」

「イグとジョンは、冒険者をしているときも高級な武具のままだったでしょう?冒険者に混ざったつもりだったのでしょうけれど、そういう素材を納品しなかったのなら、周りからは貴族や豪商の道楽と見られていたと思うわよ」

「そうね……」

「よし、俺たちは冒険者。そうすると、この死体丸々を持って帰りたくなるな」

「それは嵩張るだけだからダメ。戦闘時の動きも悪くなるし、荷物持ち専用の仲間を雇っているわけでもないのだから、厳選するのよ。それも冒険者としての腕の見せ所。ジャイアントアントならば、肉はないけれどこの硬い殻が売れるのよ」

「じゃあ、全部?」

「本当はその細い足も槍の材料になるらしいし、全部が良いけれど。その小さめの胸の殻だけ持って帰るのよ。軽いけれど丈夫な鎧に使うらしいわ」

「流石、ミミは経験が豊富だな」



「じゃあ、高く買い取ってもらうためにも、胸に傷はつけないように頭か腹を狙って倒すとするか」

「魔石を取るのだけは仕方ないわよね?」

「魔石も、頭や腹と分離した後に取れば、綺麗な殻のまま残せるわよ」

「なるほど」

「ま、俺たちも何度も失敗しながら経験したことがあるだけだよ」

「アル、バラしたらダメじゃない。せっかく2人からの羨望の眼差しが」

「ははは」

 一瞬、微妙な空気になりかけたが、特にわだかまりを残すことなくそのままダンジョンの奥に進む一行。



 それこそ蟻の巣だったのかと思う洞窟のような場所の階段を降りれば、そこは森であった。しかも上の方に、天井ではなく空と思われるような青いものが見えて、明るい。

 松明は不要となる。

「これがダンジョン……」

「イグやジョンはびっくりするよな。初めてだと」

「そうなのよ。ダンジョンの中って、場所によってはとんでもない風景につながっていたりするのよ」

 ミミの言葉の通り、触ってみても本物としか思えない木々が立ち並んでいる森が広がっている。


 あっけに取られているイグナシアナとジョフレッド。

 2人をそっとしてあげている仲間達だが、ルナリーナは引き続き≪探知≫魔法を使用している。

「あ、あれ!」

「うそ!」

 今度の敵は蟻ではなく巨蜘蛛(ジャイアントスパイダー)であると認識した一行。


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