気分転換改めのダンジョン探索
「なかなか面倒だな」
「それがダンジョンなんだよ」
「そうよ、魔物狩りの練習と思えば効率が良いでしょう?」
ルカという男の子を探しつつのダンジョン探索。
ダンジョンに経験のないジョフレッドとイグナシアナであるが、特にジョフレッドが前に飛び出して、遭遇した巨蟻を倒している。
洞窟型のダンジョンでは通路が狭く、敵と味方のどちらも横に広がれず、敵と対峙できる数が限られるので、ジョフレッドは想像以上に連続で戦闘しているのである。
「そろそろ交代しようか?」
「いや、この狭いダンジョンでの戦い方に慣れたくて」
「ジョン、それならばそろそろ私にも交代して」
ジョフレッドにすると王女であるイグナシアナに戦闘させないために自分が、と思っていたのだが、今は互いに冒険者仲間という扱いなのと、経験しないことによって危険になることもあり得ると考え直す。
「じゃあ、右半分を頼む」
「うーん。まぁ仕方ないか」
イグナシアナも何とか納得した感じである。
「で、やってみてどうだった?」
イグナシアナとジョフレッドの2人が遭遇したジャイアントアント達を倒すようになって、しばらくしてからのミミの発言である。
「正直、狭いわね。当然、建物の中でも普通のことかもしれないけれど。でも、建物なら相対するのも人間だろうしどこでも柔らかいはずよね。なのに、この狭さで殻が硬い蟻の弱いところ、関節などを狙うのはなかなか大変だわ」
「やっぱり実感してみる価値はあったようね」
「じゃあ、そろそろ俺たちにも交代してくれよ。腕が鈍ってしまう」
「そうね、アルとボリスも前に出てくれるかしら」
リーダーであるミミが、最前列で盾を構えるだけであった2人に今後の戦闘を任せる指示をする。
「ルナは良いの?」
「良いわよ、どうせ魔法攻撃が必要になれば後ろからでもやるし。今は地図を書くのと、≪探知≫魔法の練習をしながらルカくん探しに注力したいわ」
「そうね、じゃあ私も投擲練習は我慢ね。どうせ硬い殻だし」
「硬い相手への練習でも良いだろうけれど、後で回収して手入れするのも大変だろうからね」
多いと3〜4体のジャイアントアントと遭遇したが、向こうも狭い通路のせいで相対できるのが2体程度であり、1対1での戦闘ばかりである。ジョフレッドだけだったときの2対1に比べて楽になったのと、格下のDランク魔物相手であるので特に問題になる被害は無い。
「なぁ、蟻としか出くわしていないけれど……」
「分かっているわよ。ずっとルカくんを呼んでいるけれど」
「流石に魔物の蟻でも、服まで全部食べることは無いだろう?」
「アル、分かっていても直接的な表現をしないの」
空気を読まないアルフォンス以外は言葉を選びながら現状の不安を話す。
「もう結構進んだわよね?」
「それが。別れ道をしらみ潰しに探したのと戦闘もあったから、それほどでも無いのよね」
「じゃあ、子供がまっすぐ進んでいたらもうちょっと先かもしれないのか」
「でも、蟻と戦わずにそんな」
「それは考えても仕方ないわよ。先に行くわよ」
ミミが皆の不安になる会話を断ち切って前に進ませる。
「また行き止まりか」
「いえ、ちょっと待って。あの奥に≪探知≫の反応が」
しばらく進んだところで、松明の明かりが行き止まりになっている正面を照らしたところでルナリーナが声をかけると、イグナシアナが何かに気づく。
「そのまま進んで。ほら、行き止まりのところの岩、隙間があるわよ」
「本当だ」
「って、おい」
駆け出すアルフォンス。
「大丈夫か?おい!」
岩陰に挟まるように倒れていた男の子を上手く引きずり出せずに、肩をゆするアルフォンス。
「ちょっと、乱暴にしないで」
イグナシアナがかわって、ゆっくりと頬をなでる。
「ほら、泣いた後が」
「うん……」
「あ、起きた?ちょっと出てこられるかな」
「え?あ!蟻は?」
「大丈夫よ。今は居ないわ。それに来てもお姉さんたちが倒してあげるから」
「うわぁー」
岩の隙間からなんとか出てきた男の子が、安心したのか一番近くにいたイグナシアナに抱きつきながら泣き出す。
周りの仲間達もどうしようもないので、来た道からジャイアントアントが来ないかの見張りをしながら、岩の隙間などをのぞき込む。
「松明も燃え尽きていたのね。単なる棒だけになっているわ」
「何とかここまで来て、あとはずっと隠れていて寝てしまったということか」
「まぁこの隙間ならば、あのジャイアントアントも何もできなかったのか……」
泣くのを落ち着くのを見計らってミミが話しかける。
「ルカくん、で良いかな?」
泣いて目をつむっているので瞳は見えないが、赤毛であるのと薄茶色のシャツとズボンの男の子が、このダンジョンに2人も居るはずがないと思いつつ、念のためである。
まだ話すのが難しいのか、声には出さずに頷くルカ。
「ルカくんを探すようにお父さんに頼まれて来たのよ、私たち。入口に戻るわね」
これもまた頷くが、イグナシアナに抱きついた腕の力を抜く気配はない。しゃがみ込んでいるイグナシアナは立ち上がれず苦笑いをする。
「よし、俺がおんぶしてやろう」
アルフォンスが孤児院で小さな子供の扱いを慣れているので、自分もしゃがんで目線を合わせて両腕を差し出し、ルカをまず受け取る。で、軽く立たせたところでクルッと後ろを向いておんぶさせて立ち上がる。
「お兄さんの名前はアルフォンスって言うんだ。みんなはアルって呼んでくれる。ルカくんもアルって呼んでくれるか?」
背中に向かって声をかける。
「アル……」
「お、そうだ。アルだ。じゃあ、入口まで行くので良いか?」
「喉かわいた……」
「ごめんね。そうだよね。水筒を出すね」
「あ、食べ物も何か食べようか」
周りの大人たちも意外と気がまわっていなかったことに気づく。
「ほら、まずは水だね」
「……お腹も空いただろう?軽く食べられる、この携帯食料も食べてみるか?」
「冒険者ギルドの商品だぜ。友達に自慢できるぞ、きっと」
「いや、こっちを食べさせた方が」
アルフォンスが取り出した冒険者ギルドの干し肉では子供に味気ないと思われたので、ボリスは自分が料理した保存食である柔らかめの肉を、その場でカットしたパンに挟んで差し出す。
ルカも最初は水を飲むだけだったが、空腹を思い出したのか、次々と肉にもかぶりついて行く。
「じゃあ、私たちも食事休憩にしましょうか」
洞窟の入口で心配して待っているはずのルカの友達や父親たちには申し訳ないと思いつつ、ルカの気持ちを落ち着かせる方が大事と判断したミミ。
「そうだな。俺たちも腹が減ったし」
「では、スープなども用意しようか」
焚き火を用意して、取り出した鍋を温めはじめるボリス。
「これも食べるか?」
イグナシアナとジョフレッド以外の4人は同じ孤児院で育ったこともあり、小さな子供の扱いに慣れている。
泣き疲れたあとは寝てしまうことも、それが誰かに知られてしまうのが気恥ずかしいことも、自分のことだけでなく周りの子供達の経験も見ているからである。
「良くこんなところまで1人で来られたな」
「そうだよね。ジャイアントアント、蟻には出くわさなかったの?」
「松明があったとしても、びっくりだわ」
あまりおだて過ぎて、また同じようなことをやらかされても困るが、今は元気になって貰う方が先である。
「あぁ、あいつらより度胸があるところを見せたかったんだ」
「ここまで来たなら、肝試しは一番だな」
「そうだろう?蟻なんて上手くやり過ごしたら簡単なんだぜ」
「でも、松明が燃えつきてしまったのか。あの岩に隠れていたのは」
「ジョン!」
子供相手と考えずに疑問をそのままぶつけてしまうジョフレッド。
「あぁ、流石に真っ暗だと進むのも大変だからね。あぁいうところに隠れるのは正しかったのよ」
慌ててフォローするミミ。その発言の後に、ジョフレッドのことをにらむ。
「そうそう、実際に俺たちが来たのだから」
アルフォンスもフォローに入り、ルカの笑顔を取り戻す。
「じゃあ、行くとするか」
少しゆっくりしている間に、巡回していたと思われるジャイアントアントが2体、この行き止まりの通路に入って来たが、ルカが怖がらないようにジョフレッドとイグナシアナの2人が早々に倒して魔石だけ回収し、その他の部位は曲がり角の向こう側に移動してある。
そのことで少し恐怖がよみがえったように見えたルカだが、温かいスープなどを飲ませて気分転換をさせることで、自分の足で立って歩けるようになっていた。
“希望の灯火”の6人の中程、最後尾のミミとルナリーナの前をルカが歩いて入口に向かう。
往路では行き止まりなども確認するために時間がかかっていたが、復路ではルナリーナが書いた地図をもとに入口へ最短経路で向かう。
往路でほとんど倒していたからか、途中ではジャイアントアントに1度しか遭遇しなかった。
戦闘をルカが怖がると思われたので、なるべく最速で倒すためにルナリーナも後方から≪矢≫の魔法を、蟻の関節に向けて発動して対処していた。




