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クズとヤンデレの建国記(仮)  作者: 稲荷竜
本編

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第93話 魔術塔の分裂

 私は人に役割を投げるとすっかり安心して全部任せてしまう悪癖がありますから、魔術塔との導器(どうき)をめぐる交渉も、玉璽(ぎょくじ)が必要な時だけそれをつき、あとはまあ、私の身柄が必要なら宰相あたりからなにかあるだろうと思い、ほかのことに注力しておりました。


 この当時は本当にいつでも学校新設で忙しく、私は砂の精霊国と雪の精霊王国を行ったり来たりしながら、調整という名目で民に顔見せし、アスィーラとの時間を作り、私たちのあいだに生まれたシュジャーと話したりしておりました。


 実務において私はぜんぜん役立たない王でしたけれど、演説やら交渉やらはよく依頼されましたので、私は用意された原稿を読み上げたりしつつ、民に学校新設のための増税を呑ませたり、そういうことをしておりました。


 つまり、魔術塔との交渉はもうデボラと宰相にすっかり任せて安心しきっていたわけです。


 魔術塔との最終交渉ということでデボラや宰相を送り出したので、七賢人デボラが向こうに帰る日についてはわかっていたのですけれど、特に呼ばれもしなかったので、その問題はすっかり片付いたと思い込んでおりました。


 しかしこれがとてもよろしくない判断で、『七賢人返却に精霊王が同席しないこと』は魔術塔の、おもに私から導器を取り上げようとした賢者たちの悪感情を刺激したようなのです。


 私は誰かから悪い感情を向けられるのが苦手なので、七賢人のうち四人から過激な糾弾の手紙が届いた時にはもう、胃の腑がねじきれるような思いだったのですが、これはすべて、宰相の描いた絵図の通りだったらしいのです。


「古い壊れかけた貴族制度を引きずる愚かなる夜神の使徒どもは、自分たちが精霊王に御目通り叶わぬ愚かな存在であることを自覚すべきなのです」


 宰相は男性で、例の『女たらし』の予言のうちには入らない相手だと思うのですけれど、付き合いが長引くにつれて、だんだん彼も妻たちのような奇妙な情念を秘めた物言いをするようになってきているのが、この時からいよいよ顕著になってきたように思われます。


 宰相はいつでも冷静でニコリともしない人なのですが、特に古い身分制度や貴族といったものに対しては暗い恨みのようなものを持っているらしく、ぞっとするような執念を発揮することがあります。

 それは時おり『宰相』という(おおやけ)の立場であることを忘れたような振る舞いを彼にさせるのですが、今回の魔術塔にまつわることには、執念だけでなく、きちんと計算もあったようなのでした。


「魔術塔の精霊排斥派どもは、これより二つに分かれるでしょう。いよいよ、精霊王の道行きに転がり続けたあの邪魔な大岩をどかす時が来るやもしれません」


 そしてその後、実際に魔術塔は二つに割れました。


 七賢人は三人と四人に分かれ、現代で言う『秘奥派』と『原典派』に分かれたのです。


 秘奥派というのはデボラが顔役となった派閥で、『そもそも魔術塔はその魔術を探求する気持ちが本懐であるから、魔術探究のためならば精霊も認め、魔術理論に敬意払うのと同様、精霊の王たる者にも敬意を払うべきである』というものでした。

 この時にデボラは私が国家の禁書を彼女に見せたことを挙げ、精霊王は知識を開くのに相手が誰かを気にすることはなく、魔術の進歩に寄与する存在であるなどと主張したようでした。


 一方で原典派はさらに過激な精霊排斥派であり、今スタンピードで地上にはびこり始めた魔物と精霊を同一存在とみなして、その排除排斥のための魔術であり、つまり精霊を地上から殲滅するのが自分たちの真の使命であると語ったのです。


 このあと『親精霊秘奥派』や『精霊排斥秘奥派』、『親精霊原典派』『精霊排斥原典派』などさらに解釈が細分化し、その中でも精霊排斥を実行するいわゆる『過激派』なども生まれたり、わけがわからないことになっていきます。


 宗教というのはそういう特性のものなのかもしれませんけれど、一度解釈がわかれると『わかれていいんだ』という安心感でも広がるのか、無制限に細分化し、違う宗派は同じ宗教でもまったく別なものを奉じているかのような、そういう有様になっていくのです。

 そうして宗派ごとに代表者が立ってしまい、七賢人は三と四にわかれたあと、デボラたち『親精霊秘奥派』は『東方の三賢者』と呼ばれるようになり(彼女たちが新しい総本山を本来の総本山より東に建てたため、『東方の』という接頭辞がつきました)、四人のほうはもう、次々新しくなり、七賢人とさえ呼称されなくなっていくのでした。


 しかし精霊信仰はもともと自由を認めているのに『なに派』みたいなものがなく、なんとなくふんわりと『精霊王がトップ』でまとまっていますので、やはり『案内人が多ければ雪山で遭難する』というようなことがあるのかもしれません。


 魔術塔の、特に過激派はこのあともことあるごとに私を悩ませますし、過激派とまでいかずとも精霊を認めない者たちは頭痛のタネになることも多いのですが、この魔術塔分裂によって、私の道の前に立ち塞がり続けた大岩のうち一つは、たしかに気になりはするけれどふさがるというほどではないサイズにまで砕けたように思われます。


 まあ、このあと親精霊秘奥派とエリザベートの魔術忘却思想がまずい噛み合いかたをして大問題になるのですけれど、この当時の私はその二つが交錯することを知らないので、魔術塔の問題が片付いたのをただ嬉しく思っておりました。


 学校新設についても民意誘導と資金調達はどうにか終わっており、このころになると海の領域で活動していたミズハたちとも連絡がとりやすくなり、向こうでも『わつるふ様という精霊』を主に奉じる精霊信仰が広まり、雪・砂・海の三領域に精霊王の名が轟いたのです。


 まあ、そこで名を轟かせている『精霊王』はやはり、私ではない誰かという様子で、直接かかわってさんざん情けない姿を見せたはずの海の領域の者でさえ、『そのおかたは慈雨のようであった』などというわけのわからないことを言っているのですけれど……


 ともあれ魔術塔の秘奥派から教師を派遣してもらうことが決定したために学校新設もいよいよすべての埋めるべき項目が埋まり、校舎そのものの建設も始まりまして、あと数年内には運営が開始するということで、生徒募集などもしました。


 しかし、私たちは宗教観念みたいなものが薄かったせいなのか、あるいはアスィーラや宰相などはわざとやっていたのか、重大なことを忘れていたのでした。


 砂と雪の領域にまたがるように建てられる新校舎は、気候変動線をまたぐように建設が始まりました。


 この気候変動線というのは、知っての通り『神が世界を四つに切り分けた奇蹟(きせき)の証』として、昼夜神殿においてこの線そのものが聖域・聖地の属性を持っているのです。


 魔術塔は秘奥派がなにも言わないというか、『それも魔術の秘奥にいたるのに必要なことだ』みたいな解釈にしてくれたようでなにも言ってきませんでしたが、この『気候変動線をまたぐように建てられる校舎』に激しく抗議してきた組織がありました。


 もちろん昼神教です。


 魔術塔の動きが激しすぎたためにこの当時は目立たない存在となってきた昼神教との戦いが再び始まることになるのですけれど、この当時の能天気な私がこの事態を予想していたわけはなくって、やはりこのあとのことも、私にとっては予想外の連続なのでした。


 ただ、『精霊王』にとっては、計画通りだったらしいのです。私はその計画をすべてが終わるまで、ぜんぜん知らなかったのですけれど。

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