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クズとヤンデレの建国記(仮)  作者: 稲荷竜
本編

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第72話 シンシアと子シンシア

 ルクレツィアのもとにスノウホワイトが生まれ、それからだいたい一年ほどで、アスィーラとシンシアのもとにも私の子が生まれました。


 できるまでの経緯はどうあれ、私の子供というのはたしかなわけで、これが生まれてしまうと愛おしく、私はこの子たちとずっと平和に生きていけたらそれでいいのだと、そう願わない日はなかったのです。


 毎日どこか暖かな庭で花でも愛でながら、たまに歌を吟じ、午後にはガゼボとは言いませんけれど、どこか屋根のある屋外の場所でお茶でも飲み、鳥のさえずりと子供の声に耳をかたむけながら、日差しを見上げて目を細める、そういう暮らしこそが、私の理想なのでした。


 しかしその当時の雪の領域は例年にないほどの降雪量で、祖国あたりも一年中雪に閉ざされて日差しがめったになく、そのせいで収穫量が目減りしたため、私は噴出する民の不満をどうにかしなければなりませんでした。


 この食糧問題とそれに起因する民の不満というのは、もう、ずっとずっと我が国を悩ませているように思います。

 これについて心労を感じていない時間というのは本当に少なくて、民全員が私のように食事が喉を通らない精神状態ならば、食糧問題も解決するのではないかと、そういうことさえ考えてしまうほどなのでした。


 私の妻たちの争いが起こりかけたのはさまざまな要因が複合してのことではありますけれど、その要因たるものの一つには、食糧問題があったように思います。


 すでに幾度も記しておりますが、シンシアは冒険者を担当し、ルクレツィアは貴族関係を、オデットは広く民を、というように妻はそれぞれの出身から、その担当する職責がわかれておりました。


 これはいつの間にか宰相になっていた彼と同様、おのおのが苦しい状況の中で必死にやってきたら、自然とそういう担当みたいなものになっただけで、職のあとに働きがあったのではなく、働きにあとから職責をつけたと、そのようなものなのです。


 ここで気候変動線東西の乱の結果として、元第一王子のアルバートが私の臣下に加わりました。

 彼はルクレツィアでさえ苦戦していた王国貴族と私との折衝を担当し、これをうまくこなしてくれたものですから、ルクレツィアのやることが減り、彼女はすっかり大公国窓口のようなものになっていったのです。


 ところで人というものがすべてを総括的かつ客観的に捉え、判断し、どのような視点から見ても正しい意見を出すというのは、不可能だと私は考えています。


 合理性という言葉がこのごろ流行っているようなのですけれど、そこで語られる『合理』はたいていがある一つの法則から見ての『一面的合理』にしかすぎず、他の面から見ればこれがまったく話にならないほど非合理で……


 つまるところ、このあと争う妻たちの意思も、要求も、彼女たちがよく触れる法則からすれば非常に合理的であり、誰も真理とかいうものにたどりついていないのはもちろんとして、全員が間違えているわけでもないというのは、あらかじめここに、重く記しておきたいのです。


 話を戻しますと、大公国との窓口となったルクレツィアは、昨今の雪深い気候を経て、私にこのような言葉を述べました。


「収穫量が減り、父が国家経営について相談したいと述べているのだが……」


 これはなんでもない提案であり、私も『まあ、そうするか……』と非常に重い気持ちながら(誰かと会って話すというのは、そのほとんどが私を重い気持ちにさせる行為であり、大公国王との相談が特別嫌だったということはありません)、承諾しました。


 この時、大公国には私とルクレツィアの娘であるスノウホワイトがおりましたから、彼女に会いに行けるのを楽しみにしてもいたのです。


 まだまだ二足で歩き始めたばかりの小さい我が娘は、精霊王国が昼夜の神殿にひどく敵視されている状況もあり、この神の威を借りる者どもがどのような卑劣な手段をとるかわかりませんので、避難の意味合いもあり、大公国で育ててもらっているのでした。


 しかしここで私は、先にしていた一つの約束を忘れていたのです。


「お兄様、シンシアといっしょにいてくださる約束はどうなったのですか」


 シンシアの子はシンシアという名前なのですが(非常にまぎらわしいので嫌だったのですけれど、相変わらず私は『断固』とできないので、シンシアが強く推すのを止められませんでした)、ここでシンシアが述べるシンシアは子シンシアのこともふくむのでした。


 たしかに私はシンシアが産気付き、今にも生まれそうだという時に、汗にまみれた苦しそうなシンシアに『子が産まれたら一年はお前たちといっしょに過ごす』と約束していたのです。


 目の前で苦しむ、体の小さく細い、妹にして妻を心配するあまりに、うっかり口にしてしまった約束だったのです。

 しかしそれは、シンシアも子シンシアもたいてい王宮におりますから、約束された時点では『勝手に失踪しない』という、失踪癖のある私を国に留めおくぐらいの意味合いしか、なかったのでした。


 ところが子シンシアが産まれてから国家の状況は急変しておりました。


 一番の変化はもちろん雪がどんどん深くなり作物の収穫量に影響が出たことなのですが、もう一つ私を悩ませる大きな問題があって、それは国内のダンジョンの活性化なのでした。


 冒険者というのはいわゆる日雇いの雑役夫(ざつえきふ)であり、平和な時代にはほとんどそちらが唯一の役割となっているのですが、冒険者組合が設立された第一の目的は、各地にあるダンジョンという場所から魔物があふれ出さないように管理することなのです。


 管理というのはつまり『あふれ出すことの防止』であり、その方法は『討伐』になります。


 シンシアもすでに二十代半ばであり、その立場は王妃であり、このたび一児の母にもなったのですけれど、まだ冒険者としての籍はおいたままなので、ダンジョンが活性化したとあらば、この解決に向かわなければなりません。


 シンシアが世界有数の冒険者ということで冒険者組合が協力的な側面もありますから、私はこれを辞めろとも言えず、シンシアが冒険者であり続けることを消極的に認めています。


 さすがに妊娠しているあいだには出動はなかったのですが、無事に子シンシアも産まれ、体調も落ち着いてきましたし、なによりシンシア自身が冒険者であることに誇りを持っている様子ですので、活性化したダンジョンに挑むことも、多くなってきたのです。


 そうして私はそのシンシアと『いっしょにいる』ことを約束してしまったので、ただ城にいて失踪しなければよかっただけの約束はひるがえって、シンシアにくっついて、子シンシアを抱きながら、冒険者たちの鉄火場に出向くという、なんともおかしな状況になってしまっているのでした。


 若いころには私も冒険者としてダンジョンにもぐったりもしていたわけですが、当時からほとんど私を誘ってくれたパーティについて回っているだけという状態だったもので、私には身を守る力がありません。


 そんな状態で冒険者たちに混じってダンジョンにもぐるのは大変な心労であり、しかもそんな私を冒険者たちはこぞって守ろうとし、魔物の攻撃が迫る気配あらば身をていしてかばうものですから、そのたびに申し訳なくなり、未熟なままの神官魔術などをほどこしても、なにか負債ばかりたまるような、そういう心地になるのでした。


 このころの私にとって『シンシアといっしょにいる』という約束はすっかり当時一番と言えるほどの心労になっていたのです。


 だからシンシアが『シンシアといっしょにいてくれると』と拗ねたように述べた時には、彼女とともにダンジョンにもぐるのを嫌に思っていると見抜かれたような心地でヒヤリとし、しかし実際にこの重い役目からたまには逃れたかったので、このように述べてしまいました。


「しかし、これも外交、政務の一環なので……」


「シンシアだって、お仕事をしております」


 それはもちろんそうなので、私は言い訳に失敗したことをすぐに悟りました。


 そもそも、私は自分が大した働きをしているつもりがなく、それはきっと客観的にも事実なのだと確信しておりました。

 外交でも内政でも、私の役割はすでに『可決していい』というぐらいになった書面に軽く目を通し、そこに玉璽(ぎょくじ)をつくだけというものなのです。

 実務においては四人の妻に最高裁量権を与えておりますし、そもそも優秀な臣下がだいたいやってくれるので、本当に役立たず、いないほうがましなのではないかと思うほどの存在なのでした。


 今回の大公国訪問だって、相談するなら宰相なりアルバート内務大臣なりが適任としているわけで、なにより、ルクレツィアには大公国との国交においては国王級の裁量権をふるっていいという許可を出しております。


 しかし私はスノウホワイトに会いたいあまり、そしてシンシアについてダンジョンにもぐり、冒険者たちから親切を受けるのを避けたいあまりに、ルクレツィアの申し出に一も二もなく乗ろうとしていたわけです。


 そうなるともう、シンシアの黄金の右目に全部そういう考えを見通されているような気持ちになり、私はどうにか彼女に見捨てられないよう、彼女の機嫌を損ねないように頭を悩ませなければなりません。


 しかしこういう時に悩んだすえにたどりつく結論は、その当時こそ最高に機転の利いた素晴らしいアイデアだと思うのですが、のちに振り返れば、余計なことをしなければ噴出しなかった問題を押し出すだけの行為にしかすぎないと、そういうことばかりなのです。


 今回も私は、余計な提案をしました。


「そうだ、どうせだから、大公国に、妻とその子たちを全員集めて、顔合わせをしてはどうだろう。しばらく冒険者としての仕事を休んでもらうことになるけれど、王妃として、それも立派な仕事だと思うんだ」


 この時まで妻とその子たちは顔を合わせる機会がありませんでした。


 合わせようと思えば合わせる機会はあったと、やはり『のちに思えば』、そう思うのですけれど、なぜか、なかったのです。


『なぜか』。


 私はこの当時に発した提案をいわゆる『合理的』なものと思っておりました。

 私はダンジョンもぐりを休めるし、シンシアたち妻とその子らも顔合わせができるし、大公国に出向いて相談を受けることで大公国王の顔も立つ。すべてが得をし、誰も損をしない提案だと、そのように、考えたのです。


 しかし、全方面に合理的なことなど存在するわけがなく、妻たちが子が産まれたあとに会う機会をもうけなかったのには、私の見えていない理由があったからなのです。


 やはり精霊王国におけるすべての問題の原因は、私のうかつな提案にあるような気がします。


 のちにまで響く大問題の発端は、実のところ、子供たちではなく、私自身だったのではないかと、書けば書くほど思われてきて、なんとも今さら、胃が痛い思いがわいてくるのでした。

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