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クズとヤンデレの建国記(仮)  作者: 稲荷竜
本編

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第69話 導器実戦投入

『ただの平民でも、貴族なみの威力の魔術を、魔術塔でしっかり学んだ人なみの精度で放てるようになる』


 こう述べてしまえば『そんな便利な道具が、技術のアイデアがあったのに、今までどこの国家でも開発されていなかったのは、おかしいんじゃあないか』と思う人があるかもしれません。


 私はこの記録を誰にも読ませるつもりはありませんけれど、もしも読むとしたら、『現在の人』……すなわち、『魔術塔と王侯貴族の権威が、私の生まれた時代・感覚ほどには大きくない世界の人』だと想定しています。


 そのいないであろう読者に向けて釈明させてもらいますけれど、『ただの平民』が、魔術塔でしっかり学んだ人や、まして貴族なみの魔術を扱えるようになるというのは、それまでの権力機構にツバを吐くような、大変な不敬であり、私のような古い者の感覚からすると、想像することさえおそろしいものだったのです。


 貴族の中には平民をメイドとして雇う人もおりましたが、もちろん貴族家に連なる者を奉公させたほうが、仕事ができるのです。

 それは【洗浄】の魔術を例に出すまでもなく、貴族というのは、平民に比べて一人でこなせる仕事量が格段に違いますし、その精度だって、名人と呼ばれるほどの技術を持った平民よりも、魔術を扱えるばかりになった貴族のほうが上なのでした。

 だというのにわざわざ平民をメイドとして、魔術によらぬ家事をさせる貴族がいるのは、貴族と平民とのあいだにある『魔術』という『段差』の存在を実感することで安心するから、あえて魔術を扱えない平民が時間をかけて不正確な仕事をする様子を愛でると、そういう欲望があってのことなのでした。


 また、魔術塔はその名に『魔術』を冠している通り、その扱いにかけては誇りのようなものを持っています。

 魔術塔最高権力者の七賢人あるいは賢者と呼ばれる人たちだって、もちろん家柄を最重要として(魔力量は血筋に由来すると信じられていたのです)、あとは魔術の知識・手腕によって、その座にあるのがふさわしいかどうかを決められるのです。


 我が家も広い意味で言えば、『魔術の扱い』によってお役目をもらっていたわけでありますが、こういう、魔術知識・技術・魔力量によるお役目が王侯貴族の界隈には多くて、それだけに『魔術』というのは、貴族にとっては自分と平民とを分けるシンボル、あるいは『心の中におわす神』と言ってもいいほどのものなのでした。


 それを、『誰にでも使えるようにする道具』。


 その本能的な不敬さ、おぞましさについて、もしも平時であれば、私でも門前払いし、その技術が人に伝わっていないか念入りに探させ、知る者あらばなんらかの理由で獄につないだり、あるいは処刑させたかもしれません。


 それほど、貴族的な認識の者にとって、『誰にでも簡単に魔術を扱えるようにする道具』は、生理的に受け入れられないものだったのです。


 私はそれにすがることにしました。


 精霊王国の重臣には平民の出の者も多いので、この導器(どうき)というのはすぐに受け入れられ、『こんな便利な道具、どうして今まで出てこなかったんだ!』という感動とともに、すぐに投資が始まりました。


 この件についてもっとも息巻いたのはやはり、反貴族思想のある宰相でしたが、その次ぐらいに乗り気だったのが公爵令嬢出身のルクレツィアだったのは、こうして文字に記していても当時のおどろきを思い出せるほどです。


 しかし、その理由はとてもとても納得のいくものでした。


「我が子は精霊王たるあなたと、公爵に連なる私との子だ。当然、強い魔力もあり、戦いとなればきっと、前線に立たざるを得ないだろう。しかし、その導器が開発されれば、この子はいざ戦いがあっても、城にこもっていてもいいのだ。これほど素晴らしいことはないだろう」


 言われてみると、導器導入後にちょっとよぎった『しまった』という気持ちも薄れ、たしかに素晴らしいことに思えるのです。


 一方でもっとも難色を示したのはシンシアです。


「魔術は精霊王からもたらされた恩寵なのです。それを『誰にでも扱えるようにする』というのは……」


 強くはありませんが、根深い反対のようには思われました。


 しかし導器の開発が進み、それが『たった一種の魔力を、中堅魔術師と同じ程度の精度で使えるだけ』『別な魔術を使うには、別な導器を持たねばならず、けっこう大型のものなので、持ててもせいぜい三つぐらい、動き回る兵に持たせることを考えれば、一つか多くとも二つにすべき』ということが明らかになってきました。


 するとシンシアもどうにか自分を納得させることができたようで、危うくルクレツィアとシンシアの戦いは始まらずにすんだと、そういうわけなのでした。


 この件について関心がなさそうなのがもともと『魔術の国』の出身だったアスィーラと、平民の出のオデットなのは、これも意外だったと記しておくべきでしょう。


 アスィーラはそもそも戦争そのものからどうでもよさそうで、兵は出すし、食料も資源も惜しまないけれど、やる気そのものはないというのか、どうでもよさそうな手紙をよこしたことが印象に残っています。


 オデットは「あなたが決めたなら、あなたの好きなようにしなよ」と、突き放すような、しかしどこか籠の中の鳥に好きに鳴かせてその歌声を楽しむような、そういううっとりした感じで述べたのを覚えています。


 かくして着々と準備は進み、開戦直前にはおおよそ三千ほどの導器が開発され(多くの民が昼夜を徹したうえでのことだったのは言うまでもないかもしれません)、実戦配備されることになりました。


 戦争の規模が全軍で五万対二万ほどでしたから、精霊王国軍二万のうち三千もが魔術兵相当の働きをするとなると、これは、異常と言ってしまえるほど精強な軍隊ということになります。


 導器兵・魔術兵を合わせると、『魔術を使える兵』の数は、こちらの軍が相手を上回っているほどでした。

 とはいえそれは『あとから知る話』で、この当時は『相手には総計一万の魔術兵がいる』などと言われていたのですが……


 予想と実数の違いについても、また理由がありますけれど、ともあれ、そんな状況で戦争が始まったのです。


 そして、結果は、圧勝なのでした。


 気候変動戦の東西にわかれて始まったこの乱は、開戦一日にしてだいたいの勝敗が決まり、二日目にはもう、こちら優勢で殲滅戦の様相を呈していたのです。


 その理由を一言であらわすならば、『士気』の問題で、長く続いてしまった精霊王国史において、我々を勝たせてきたのは、この『士気』……ようするに、『民のやる気』に終始することになりそうです。

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