第97話 『神童』
その後もやはり一対一での謁見を行いましたが、候補者たちは、シュジャーでさえも、記憶に残る印象的な話はしませんでした。
この謁見は私が次期王候補のひととなりを見たいというだけのものであり、これによって王位継承が有利に働くということはないと事前に説明されているはずなのですけれど、二人きりになった候補者たちはみな、自分がどれほど王になりたいか、王になったあとの展望はどうするか、この国家と精霊信仰は、昼夜神殿の付き合いは……などとまじめな話しかしないのです。
もちろんふざけられるよりは付き合いやすいのですけれど、そんなのは投票すべき国民に向けてしてほしい、私は言われてもわからない、という思いがあり、なんだか非常に面倒なことを始めてしまったなあと、後悔が次第に重苦しく募り、五人目ともなるともう、口を開くのも億劫になるほどなのでした。
そうして迎えた六人目はいよいよ昼神教からの刺客であるアルフォンスだったので、私はちょっと気合を入れたのですけれど、その彼との一対一の話し合いもまた、感情的にはつまらないものと言ってしまいましょう。
ただ、意見としては面白いところがあったように思われますので、ある程度は印象に残っています。
私の玉座の前でひざまずくアルフォンス少年は、中性的な容姿をした美しい少年でした。
その少年は十二歳とは思われぬほど堂々と私を見上げると、唐突にこのようなことを述べたのです。
「私は、このあたりの土地を治めていた王の落とし胤です」
つまりは私が生まれ、そして滅ぼした国の王の直系……アルバートやエリザベートと同じ血筋の者ということになります。
私は子爵出身ですから、王家にはその血が流れているというだけで身構え、おそれおおく感じてしまいます。
けれどここで『さ、どうぞ』などと玉座をゆずってしまっても過去にしたことの精算はできませんし、なによりそうするなら相手はアルバートにすべきですから、玉座の上で「そうか」とだけつぶやいたのを覚えています。
正直に言ってしまえばここまでの謁見で私は疲れ果てており、みなしゃべることはまじめでつまらないし、聞いてもよくわからない政治的なことばかり言うし、そんな中でアルフォンスの発言はたしかにおどろくべきものであったのは認めつつ、『そんなことを言われても、それは君の性格や信念と関係があるのか。あるなら続きを早く言ってくれ』という気持ちにしかならなかったのです。
アルフォンスは私の反応が薄いのが気に食わなかったのか、ちょっとだけ表情に憤りを見せました。
その顔に浮かんだわずかな感情は、十二歳の少年らしい不遜さとわがままさがあり、『実は、王の血筋なのです』などというつまらない発言よりもよほど、私にとって興味深いものでした。
「私が精霊王となったあかつきには、このことを広く公表するつもりでおります。そして私に機会をくれた昼神教を国教とし、盛り立てていくつもりです」
そんなことより、彼の性質がわかる発言をしてほしいのです。
重ねて記しますが、ここで私に話したことは、なんら今後の王位決定に関係しませんし、その旨も伝えてあります。
そもそもこれは『本当にアルフォンス少年から機会を奪うべきなのか』を問う面会でありますから、ここまで挑発的なことを言われれば、『じゃあ、あらかじめはねてしまっても、仕方がないか』としかならないのです。彼はそれをわかっているのか、いないのか……
「精霊王は間違えています。あなたの成したことはすべて、偶然が重なっただけのこと。私であれば、よりよい結果を民にもたらすことができるでしょう」
少年らしい傲慢さ、無知ゆえの驕りが見えましたけれど、それでも彼の中にある『民に資するのが王である』という気持ちはよく見えましたので、私は宰相に問われたあと、アルフォンス少年を『問題なし』とし、その結果として彼は現在、王候補として立候補しています。
とはいえ、彼が『精霊王は間違えています』と述べた時には、期待もしたのです。
期待し、恐怖したのです。ついに私の真実を見抜く目を持った者が現れ、私の行いが『精霊の導き』などではなく、ただの愚かな男が流されるままに逃亡を続けた結果に起きた事故でしかないのだと、そう看破してくれる者がいたのだと、希望さえ持ったのです。
なので私は彼にこう問いを投げました。
「私の間違いの原因と、『正解』を、どう心得る?」
するとアルフォンス少年は言葉に詰まってしまったのです。
辛抱強く回答を待ちましたけれど、出てきたのは「しかし、あなたは間違えている」という言葉だけだったので、『ああ、深い考察や考えはなく、反抗心のままに言ってしまっただけなのか』と残念に思い、なおかつ安堵し、結果として問題とされたアルフォンス少年との謁見も、つまらない印象で終わってしまいました。
絶望的な気持ちのまま七人目を迎えることになります。
その七人目というのが今回で一番の警戒対象……そしてどれほど年嵩があっても二十歳を大きくは超えない中で、おどろくほどの年齢の者でした。
私は彼女と一対一になるのにあまり気が進みませんでしたけれど、まあそこそこの付き合いもあった相手だし、これまでやってきた中で急に一対一をやめてしまっても、それはそれで逆に特別扱いのようになってしまうなと思ったものですから、彼女に対してもやはり人払いをし、二人きりで対面することとしたのです。
「お久しぶりにございます、精霊王」
あでやかにそう述べる彼女はやはり胸元の大きく開いた黒い衣装を着ており、これを私は『好色な王に対し交渉を有利に進めるための手管』と見ていたのですけれど、このころになるとどうにも、彼女なりのセンスというか、そういうものだと思うようになっていました。
私がこの時に対面した最後の王候補は、魔術塔の元七賢人、現在は東方の三賢者筆頭として魔術塔秘奥派を束ねるデボラなのでした。




