011 友だちと過ごす初めての休日編②
「なあ、朱莉、俺達って運命の相手同士なのかな」
「いきなり何を言い出すんですか。ただ、私はご主人様の運命の相手じゃないと思いますよ。ご主人様は私には勿体無いぐらいの御方です」
「いやいやそんなことないだろ。俺なんてまだまだ未熟で、朱莉に支えてもらってようやく体裁保ててるんだから」
「私の方こそ、ご主人様が傍にいてくださるから何とかやっていけてるんです」
「互いに足りないところを補い合ってるわけだな。……やっぱり運命の相手では?」
「ご、ご主人様、そういうことを軽々しく女性に言ってはいけません。私のように思わずトキめいて勘違いしてしまう方がいるかもしれません」
「おいそこの二人、開幕からイチャイチャすんな」
エレベーターの中には貴明と朱莉の他に同級生の三人が乗っていたが、周りなどなんのそので二人の空間が形成されていた。
朱莉と遊びに来ていた二人――小巻弓枝は二人の様子を微笑ましく見守っており、立松奈月は「なるほどこれが噂の……」といった感じで感心しながら眺めているようだった。
この場でまともな感性を持っているのは亮二しかおらず、仕方なく二人にツッコんだわけである。
ちなみにツッコまれた二人は「イチャイチャ? どこが?」と全く気づいていなかった。
エレベーター乗り場で偶然出会った五人は、これも縁だね、ということで一緒にカラオケに行くことにした。
貴明と朱莉のペアはともかくとして、それ以外の面子に関してはあまり面識もなかったので、親睦を深めるためというのも理由の一つだ。
「いやしかし、これってかなりラッキーなハプニングかもしれんな」
エレベーターを降り、女子たちが受付に向かう。
待ってる間、貴明と一緒に後ろで待機することになった亮二が唐突に言う。
「ラッキー? 何がだ?」
「おいおいお前それでも男かよ。いやまあ、すぐ傍にAAA級の美少女を侍らせてるから感覚鈍ってるかもしんないけど」
亮二が耳を寄せる。
「谷沢さんは別格として、小巻さんと立松さんもかなり評判いいんだぜ? 小巻さんはほんわか天然系の癒し女子で、ありがとうって何気ない感謝の一言で男を落とす天使のような魔性の女! 対して立松さんはサバサバした性格で男女別け隔てなく距離を詰めてきて、特に女子に慣れない草食男子どもに初恋を味あわせたコミュ力おばけギャル! 見た目も抜群なそんな二人と仲良くできるチャンスなんだぜ? これはラッキーとしか言えんだろ!」
「高校生になって一ヶ月も経ってないのになんだその過剰な評価」
まだクラスメイトの顔や名前を全員覚えた人のほうが少ない時期だ。
なのにこれほどの噂が出回るとは、やはり可愛い女子に男は敏感であるということか。
なるほど、と貴明は勝手に納得する。
「男二人で何コソコソ言い合ってるんだ? 私達のことでも話してたのか? ん?」
亮二との間にヌッと奈月が現れる。
な、なんでもねえよ、と亮二が慌てて離れる。
「はは~ん、その態度、怪しいな」
「もう、奈月ったらあまりからかわないの」
受付を済ませた弓枝が奈月を諌めながら、朱莉と共に戻ってくる。
「ああ、小巻さんと立松さんは可愛いって話をしてたんだ」
「は?」
「え?」
だが、そこで奈月の疑問に律儀に回答したのは貴明だった。
「だから二人と一緒にカラオケに来ることができてラッキーだなって」
「ちょ……な、何言ってんだ」
「ここまで面と向かって言われると流石に恥ずかしいかなあ」
可愛いと言われ慣れてないのか、奈月は顔を真っ赤にする。
弓枝も平静を装っているが僅かに頬を染めていた。
「……ご主人様、先程も言いましたが、軽々しく女性にそういうことを言ってはいけません」
無自覚にクラスメイトを口説く貴明にお灸を据えたのは朱莉だった。
「あ、いや、えっと、そういうつもりじゃなく……ただ亮二と話してたことを事実として言ったまでで」
「それが駄目なんですよ。あと」
朱莉が不満げに頬を膨らませながら、上目遣いで睨んでくる。
「どうやら私はその『可愛い』に含まれていないようでしたが?」
「いやそれは言葉の綾で」
「本当にそうですか? 可愛くないなら可愛くないと仰ってください。別に気にしませんから」
「気にしないって言ってることが気にしてる証拠だと思うんだけどな」
「ですから、そういうことは思っても口にしないものなんですっ!」
「あー……悪い。けどその、朱莉のことを可愛くないなんて思ってないのは事実だからな? 出会った時から一片たりともそこは揺らいだことはない」
「さ、流石にそれは言い過ぎです!」
気がつけばまたしても二人だけの世界に入っているのだった。
置いていかれた三人は一つの同じ予感を覚える。
これからの学生生活、このような二人の夫婦劇を何度も見ることになるんだろう。
そして、この尊い二人の関係を自分たちが守っていかなければならないんだ、と。
まだ互いのこともよく知らぬ友人達はしかし、目に見えないところで確かな結束を結んだように感じたのだった。




