010 友だちと過ごす初めての休日編①
高校生活が始まって二回目の日曜日。
貴明はその日を心待ちにしていた。
何故なら、日曜日に彼は初めて友達と遊ぶ約束をしていたからだ。
「そういや、貴明はまだこっちに来たばかりだよな?」
きっかけは亮二が何気なく発したその言葉だった。
「ああ。それがどうかしたか?」
「折角だし休みの日とかに街でも案内してやろうかなって思ったんだけど、いらぬお節介だったか?」
「いや、ありがたい。引っ越しや入学手続きでバタバタしててまだ探索あまりできてないんだ。それに……中学では休みの日に友達と遊んだことなかったから……」
「唐突に闇ぶっこんでくるのやめてくれる?」
ホロリ、と涙が出そうなところを亮二が冷静に突っ込んでくれる。
「というか、忙しいにせよ谷沢さんとは休日でー……お出かけとかしてたんじゃないの?」
「それがそうでもなくてさ。朱莉もまだ立ち位置的には見習いメイドだから、休日にしこたま鍛えられてたみたいで、あまり自分の時間取れてなかったんだよ」
「げえ。厳しいのな」
「話を聞いていると俺以上に厳しい教育受けてるんじゃないかって思うときがあるよ」
メイドは主人の身の回りの世話をこなしつつ、周囲に対しても完璧な所作が求められる。
使用人の態度や動作によって、主人に対する評価も変わることがある。
そのため使用人は主人以上に礼儀作法を求められるといっても過言ではない。
「上流階級って怖いところだな。まあ、世界の違いを知ったところで話を戻すが、どうする貴明」
「じゃあ、お言葉に甘えていいか?」
「甘えなくても、頼まれたらなるたけ要望を叶えてやるよ。友達なんだから遠慮すんな」
「亮二……」
目の前の友人に思わず胸がときめきかける。
危ない。このまま気を抜いたら友人ルートに突入してしまいそうだ。
その場合、朱莉が全力で引き戻してきそうな予感がするが。
「なら、一度行ってみたいところがあるんだけど――」
貴明は中学の頃に憧れていた数々の娯楽施設――カラオケやゲームセンターなど――を口にした。
「そこ行くなら街の案内してる余裕はねえな。今度の日曜は普通に遊ぶとして、案内はまた今度にするか」
と、亮二は笑いながら言った。
こうして友達と遊ぶ約束が成立したのである。
「おーっす。着くの早いな」
集合場所に私服姿の亮二が現れる。
「他に用事もなかったし、ちょっと早めに出たんだ」
「本当は初めて友達と遊ぶのが楽しみで、少し早めにきちゃったとかじゃなくて?」
「……それもあるかも」
「そういう素直なとこ、嫌いじゃないぜ。ただちょっと意外だったな」
「何が?」
「てっきり谷沢さんも来るかと思ってた。貴明と谷沢さん、二人で一つって感じだし」
「俺と朱莉の関係にどんな誤解抱いてるんだ……。あのな、そりゃ昔からずっと一緒だったし、周囲から見たらおかしな関係だけど、互いのプライベートはちゃんとあるんだからな?」
「傍から見たらバカップルにしか見えないがね」
「そりゃ偏見だよ。今日のことだって朱莉には話してないし、朱莉も今日どう過ごしてるか俺は知らない。運命の相手じゃあるまいし、一日ぐらい顔を合わせない日だってあるさ」
例え朱莉が外出していようと、彼女と出会うことはまずあり得ない。
何せ今日はカラオケ、ゲームセンター、ボーリングといった施設が一つにまとまった大型アミューズメント施設に行くために、家から数駅離れた街に来ているのだ。
家の最寄り駅付近で遊ぶならともかく、別の土地で邂逅するなんて、万に一つの可能性もない。
あるなら本当に運命の相手ぐらいだろう。
「全くどの口が言うんだか」
亮二が苦笑しながら言う。
「お、着いたぞ」
それから数分ほど歩いて、屋上にボウリングのピンが立っている数階分の高さを誇る建物にやってきた。
「まずは何するよ?」
「うーん……最初はカラオケかな」
「カラオケは上の階だな。エレベーター乗るぞ」
エレベーター乗り場にたどり着くと、貴明は上に向かうためボタンを押そうとする。
すると、同じように上に向かおうとボタンを押そうとした人と手が触れ合ってしまう。
『あ、すいませ……』
謝ろうと、相手の顔を見た貴明は思わずフリーズしてしまう。
何故ならそこには、
「……ご主人様?」
「……朱莉?」
とっても見慣れた相手がいて。
見ると、朱莉の後ろに同じクラスの女子が二人立っている。
「運命の相手じゃない、か」
呆然とする貴明と朱莉の後ろで、亮二が真顔で呟く。
「全くどの口が言うんだか」




