47話 ナイトメア・ナイトメア
忠告……?
どういうことだ?
シェルターの向こう側にいる『ナニか』は、こんな夜中にわざわざ忠告をしに来たらしい。
昆虫の次は喋る生物か?
N2やピノとは全く異なる声。
男声と女声を重ね、違う高さの音が同じ言葉を発していて気味が悪い。
星の影響で進化した生物なのか……あるいは……。
「オマエタチノセイチョウハハヤスギル。ケツギノケッカ、コノママノソクドデセイチョウヲツヅケルナラケスベキ、トイウイケンデマトマッタ」
いや、成長してるのは星の生物だろ?
ケツギって何だ?
決議のことか?
しかも消すべきってなんだよ!?
「シカシコノママケサレルニハオシイソンザイダ。ジョウケンヲノメバ、レンチュウニハワタシカラウマクツタエテオコウ」
まてまてまて。
思考が追いつかない。
「何なんだお前は!? 何が目的なんだ!?」
ただならぬ雰囲気に思わず声が出る。
「ワタシハオマエニキョウミガアル。サンプルトシテ、カラダノイチブヲヨコセ。ウデカアシ、スキナホウヲエラベ」
危害を加えないどころか、条件自体が死にかねないレベルじゃねぇか!
というか興味を持つなら俺の体じゃなく、N2達の方だろ!
「断る!」
「お断りします!」
N2とピノが同時に歯向かう。
「ソウカ、ザンネンダ。ナラバ、ムリヤリウバウマデ」
その言葉の後、シェルター内の温度が突然上がりだした。
ついで入り口の金属が次第に赤みを帯びていく。
外側から何か攻撃しているらしい。
「レイ、まずい!! このままだと入り口を突破される!!」
このシェルターは物理的なダメージには強いが、熱による変化に弱いようだ。
暑すぎて近寄れない。
出入口は一つだけ。
強固に作った構造が裏目に出る。
何か手はないかと考えているうちに入り口の金属はドロドロと溶け出し、ついには俺が通れる程の穴が開いた。
その穴から、オレンジ色に溶け出した金属の上を歩きそいつはゆっくりと中に入ってきた。
溶けた金属が放つ光をギラギラと反射する黒いボディ。
考えたくはなかったが、黒い生命体の仲間なのだろうか……。
見た目もサイズもN2達と変わらない。
しかし今まで戦ったやつらとは違い言葉を話している。
どうやったかわからないが分厚い金属板を溶かす手段も持ち合わせている。
シェルター内でこいつに暴れられたらひとたまりもないだろう……。
中に入ってきたそいつは小さな腕をピノの方に向けたかと思うと、眩しいくらいの青白い炎を放った。
全員状況が掴めず行動が遅れる。
ピノも同様に反応が遅れ、『ヤツ』の放った炎をもろに食らった。
「ピノーーー!!!」
N2が高速移動で『ヤツ』と入り口の対角に移動し、いつの間にか変化させていた右腕のバレルからエネルギー弾を放った。
『ヤツ』は即座に反応し、炎を放った腕と反対の腕でガードをするが威力を殺しきれずシェルターの外へ吹っ飛んだ。
「N2!! ピノはどこだ!!?? ピノが吹っ飛ばされた!!」
ピノがいた位置にピノの姿はなかった。
「……。すまない、あとは頼む。私はあいつを倒す」
N2はそういってシェルターの外に飛び出して行ってしまった。
もう何が何だか……。
そうだ、ピノを探さないと!!
一瞬だけ炎を浴びたシェルターの内壁は入り口同様溶け出していた。
こんなの食らって無傷なはずがない……。
「ピノ!! 無事か!? どこにいる!?」
そう呼びかけるが、シェルター内に俺の声が空しく響くだけだった。
入り口と内壁の溶け出した金属が眩しい。
シェルター内の温度もますます上がっている気がする。
ピノの飛ばされた方向を推測するために『ヤツ』がいた位置に立ってみる。
そこからやつが炎を放った方向を見据えると、ピノのいた位置には黒焦げた金属片が落ちていた。
なんだあれ……。
溶け出した金属がドロドロと流れ、やがて焦げた金属を照らし始めた。
オレンジ色の光にゆらゆらと照らされた葉っぱのロゴ。
ピノは飛ばされてなどいなかった。
初めからそこにいた。
焦げた金属片がピノだと分かったのは液体状に溶け出した金属がピノに接触する直前だった。
焼け焦げたピノを拾い上げる。
手足は半分以上焼け落ち、顔の部分はズタボロだ……。
「あ……あぁああ……。ピノ……こんなの……どうしたら……」
もちろんピノが応答する気配はない……。
ごめん……俺のせいだ……。
体から血の気が引き、シェルター内は熱いはずなのに首から上が冷たい。
鼓動が早まるにつれて汗がどんどん噴き出てくる。
「誰か…………」
何か手段はないかと考えを巡らせるが、手のひらの上のピノの姿が思考を邪魔をしてまともな考えが浮かばない。
シェルターの外の激しい音が止み、やがて溶けた入り口の方から音がした。
無事倒せたのだろうか……。
「N2……ピノが……」
「アトハ、オマエダケダ」
あれ……N2は……。
なんでおまえがここにいるんだよ。
N2は……どこだよ……。
『ヤツ』は手に持っていた何かをこちらに投げてきた。
カランカランとこちらに転がってきたのは見覚えのある白いナイフ。
けれどこれの持ち主が身に着けていた時と比べて輝きが弱い。
それに付随して真空管のようなものと、N2の頭部と胴体がストラップのようにぶら下がっている。
「どうしてだよ……俺達が一体お前に何をしたんだよ……」
『ヤツ』がじりじりとこちらに近寄ってくる。
握りしめたN2の真空管に、いつの間にか頬に流れていた涙が零れ落ち、真空管内の四角い部品がくるくると回りだし、淡く輝き始めた。
(「N-2049、及びパートナーの危機を感知。オートモードを起動します」)




