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エクシィズ ~超人達の晩餐会~  作者: シエン@ひげ
『LastWeek ~終わりの行き詰まり編~』
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第329話 vs終戦

 キングダムのコックピットが僅かに揺れる。

 ゆっくりと開いていくと、中からひとりの男が這い上がってきた。

 リバーラだ。

 彼は頭から流れる血を拭い、荒れた呼吸を整えつつエクシィズを見上げた。

 動く気配がない。

 駆動系の調子が悪いか。

 あるいは中のスバル少年に限界がきたのか。

 どちらにしても一番近くに居る彼が自分の存在に気付けないのだから、逃げるなら今がチャンスというものだ。

 幸いなことに今はタイラントがおらず、少年の仲間たちもいない。

 誰もリバーラを止める者はいない。


「く、ふふ」


 思わずほくそ笑んでしまった。

 まったく、あの少年は本当によく頑張った。

 トンデモ機体に乗っていたとはいえ、まさかキングダムを破壊してしまうとは。

 よくて互角か、傷をつける程度ではないかと考えていたのだが、まさかここまで破壊されるとは夢にも思わなかった。

 だが、少年の狙いは僅かにコックピットを外している。

 だからこの勝負は彼の勝ちでなければ、自分の負けでもない。

 リバーラは諦めるつもりはなかった。

 彼の主張は変わらない。

 この世界は優れた人類が統率するべきであり、それ以外は消えてしまうべきである。

 その為に選定基準が必要だったし、グングニールはいい役割を担ってくれた。

 すべて壊れてしまったのは悲しいが、壊れたらまた作ればいいだけの話なのだ。

 所詮は機械である。

 アルマガニウムとリバーラさえいれば何度でもやり直せる。

 特に自分は選ばれた人間であるという自負があった。

 ひとりでアルマガニウムのエネルギーを分け与え、より強大な出力を得ることができる。

 当時のパイゼル国を大きくしたのもリバーラの功績だ。

 だから、もっとこの世の役に立つことができる筈。

 考えに考え抜いた結論が新人類。

 そして選ばれた人間という発想だった。

 優れた人間がいれば、それだけで世界はハッピーになる。

 よくひとりの王子様がお姫様を救い出してハッピーエンドを迎えるおとぎ話があるが、あれなんかがいい例だ。

 優れたひとりがいれば他は必要ない。

 優秀なヒーロー、ヒロインだらけの世界。

 まさに夢の国だ。

 愚かで腐った世界とは無縁の、メルヘンに溢れた素敵な空間である。

 人類はいい加減ステップアップすべきなのだ。

 その為にも、まずはやり直そう。

 スバルには面と向かって拒否されてしまったが、まだ時間はたっぷりとある。

 次に出会うまでの時間で考え直すことだってできるだろう。

 今度会った時はいい返事が貰えることを期待し、リバーラはキングダムから抜け出した。

 地面に着地し、エクシィズから背を向けて走り始める。

 直後、風が吹いた。


「おや」


 真横を何かが通りすぎる。

 後ろから追いぬき、正面に人影が降臨した。

 見れば、影はボロボロの布で全身を覆っている為に顔が見えない。

 だが、さっきのダッシュをみれば只者でないことはわかる。

 こう見えても動体視力には自信があるのだ。

 目で捉えきれない相手となると、この人物も相当鍛え抜かれた人物なのだろう。


「君もグングニールで生き残った人間かな?」

「……」


 布で覆われた人物は答えない。

 リアクションを見せることなく、布の奥から僅かに見える瞳がリバーラを捉えていた。


「悪いが、急いでる身でね。用がないなら退いてもらってもいいかな。僕が生きていないと素晴らしい新世界が遠のいてしまうよ!」


 なんたるアンハッピー。

 折角人類が栄えたというのに、新たなステップアップが踏み出せないなんて。


「もしかして、僕を支持してくれるのかな? だとしたら嬉しいんだけど」


 布はなにも答えない。

 代わりに動かしたのは右手だった。

 布先から僅かに顔を覗かせた銃口が、王の額を捉える。


「え?」


 銃声が響いた。

 弾丸が王の蟀谷を打ち抜き、貫通する。

 飛び散る鮮血。

 倒れた王の身体を眺め、布はエクシィズを見上げる。

 艶めかしい舌なめずりの音が小さく鳴った。








 蛍石スバル、17歳。

 生まれはヒメヅル、育ちもヒメヅル。

 特技はブレイカーズ・オンラインの操作とアクションゲーム全般で、本物を動かしてもそれなりの素質を持っている。

 自分で言うのもなんだが、そんなに面白みがある人間ではない。

 ではないのだが、しかし。

 ひとつのことをやりきった充実感を得て、満足していた。

 意識を失った後、スバルは今度こそ己の死を意識する。

 暗闇で覆われた世界。

 新生物に殺されそうになった時と、カイト達に迎えに来てもらった時に見たのと同じ光景だった。


「……なんか、想像してたのと違うな」


 こういう場所はもっと花畑が広がっていて、川が流れているものなのかと思っていた。

 だが、ここにはなにもない。

 闇以外のなにもなかった。

 これからどうなってしまうのだ、と少し不安になる。

 が、その気持ちもすぐに薄れていった。


「みんな、俺は勝ったよ」


 闇の中にいるであろう彼らに向かって報告する。

 彼らの期待に答える働きをした。

 きっと喜んでもらえるだろう。

 だから、


「俺もそっちに行くよ」


 全部を出しきった。

 もうなにも出てこない。

 エクシィズはよくやってくれたし、生き残ってくれた連中がいてくれるならそれでいいや。

 もう未練はない。

 どちらかというと、そっち側に行きたいとすら考え始めていた。


「いいよね。俺、頑張ったし。なにかひとつくらい我儘言っても許されると思うんだ」


 思えばこの1年、逃走と戦いに必死であまり遊べる環境じゃなかった気がする。

 島国で真剣勝負をしたのが随分昔のように思えた。


「ねえ、どこにいけばいいかな?」


 みんながいる場所なら、どこだっていい。

 例えそこが天国だろうが地獄だろうが、構わない。

 今までだって地獄ばっかりだった。

 良い思い出も無くはないが、辛い思い出が多すぎる。


「俺も入れてよ。ねえ!」


 返事は帰ってこない。

 暗闇の奥にいる筈の彼らは、誰も迎えに来てくれなかった。

 どうして来てくれないのだろう。

 不思議そうに首を傾げると、隣から袖を引っ張られた。

 振り向いてみる。


「ペルゼニア」

「やっほ」


 懐かしい顔だ。

 1週間くらい前に語り合ったのに、大分会っていなかった気がする。


「元気そう……じゃないか」

「そうね。一応、ああいうことになっちゃったし」


 俯くスバルの頬に手をあて、少女は笑う。


「おめでとう。よくあのお父様を倒せたわね。心から祝福するわ」

「実の父親に対して言う台詞じゃないよね、それ」

「あら。こう見えてもあなたの方を応援してたのだけど」


 それはそれで嬉しいが、どこかこそばゆい。

 照れ顔を隠すように話題を切り替える。


「それで、俺を迎えに来てくれたの?」

「いいえ」


 首を横に振られた。

 ペルゼニアは優しく、それでいて寂しげな顔でいう。


「あなたはまだこっちに来るべきじゃないの」

「でも、俺はもう全部出したよ。なにも残ってない」

「まだあるさ」


 背後から声をかけられ、スバルは振り返る。


「君にはまだ未来がある」

「ゼッペルさん」

「そうです! スバルさんはまだこっちに来ちゃだめですよ! 来たらハリセンボンです!」

「マリリス……」

「小僧、我らは貴様を迎え入れる気など毛頭ない。どうしても来たいと言うなら、某を満足させられるような経験を積んでくるのだな」

「イゾウさん……」

「スバル君。まだ君には、残ってる物があるよ」

「アスプル君。俺……」


 失った仲間たちが周りを囲み、語りかけてくる。

 明らかに残念そうな顔をしている少年の肩に、球体関節で構築された腕が圧し掛かった。


「年上からのアドバイスを送ろうか?」

「え、エレノアさん?」

「お友達は大事にね。私から言えるのはそれだけかな」


 言いたいことだけ言うと、人形はさっさと離れてどこかに行ってしまった。

 なんだったんだ、と思いながら頭を抱える。


「俺、まだ死んでないんだ」


 結論を察し、少年は天を仰ぐ。

 果てしない闇の中から一陣の光が灯った。

 暗雲が光に切り裂かれる。


「スバル」


 暖かな光がスバルを包み込んでいく中、彼を呼ぶ声が聞こえた。

 聞き慣れた声だ。


「と、父さん……」

「話はあらかたカイトから聞いた。よく、頑張ったな」


 優しく頭を撫でて貰った。

 くすぐったい。

 だが、嫌じゃないムズ痒さだ。

 満足げに笑うスバルを見て、マサキもつられて笑う。


「お前の土産話をいっぱい聞きたい気もするが、お前には私やアカリよりも長生きしてもらいたい。いいか、滅多なことで死にたいとか言うんじゃないぞ」


 それは彼を取り巻く友人たちにとって悲しい話だ。

 だから前を見て、今を生きろ。

 向こうにいる友人たちが、お前を待っている。


「さあ、行っておいで。お前がここに来るのは、回り道をしてからでも遅くないだろう」

「……そうだね」


 これからもっと苦しいことが待っているだろう。

 長い人生だ。

 戦いが終わって平和になっても、カイトが危惧したように簡単にはいかないことが沢山待っていることだろう。


「父さん、みんな。また、会えるよね」


 光の前に立って、身を委ねる。

 最後に尋ねられた言葉に、父は迷うことなく返答した。


「もちろんだとも。お前はここまで立派に戦えたじゃないか」


 それで満足だった。

 肩を落とし、スバルは光輝く方向に向かって進み始める。


「またね」


 振り返らないまま小さく呟いた。

 誰かの返答が返ってくる。

 光に覆われ、視界が埋め尽くされた。

 さて、帰ったらなにをやろう。

 白に包まれながらもスバルは考える。

 1年間我慢してきたことを一気に発散してしまいたい。

 とはいえ、いざ帰るとなるといいアイデアは思い浮かばなかった。


「とりあえず、ゲームでも買うかな」


 簡単に結論をだし、背伸び。

 目を閉じて気持ち良く寝転がった。

 しばし経った後、瞼を開く。

 視界いっぱいに広がる仲間たちの顔を見て、少年は笑った。


「俺、勝ったよ!」


 シートベルトが外れる。

 17年続いた戦いを蹴っ飛ばし、少年はコックピットから飛び出していった。

次回、終わりの行き詰まり編、クライマックス!

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