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エクシィズ ~超人達の晩餐会~  作者: シエン@ひげ
『LastWeek ~終わりの行き詰まり編~』
343/366

第326話 vs水と鋼鉄と爆炎と超電磁姉妹

 グングニールの塔が輝く。

 発射口から光が膨れ上がり、今にも飛び出さんばかりの勢いで蠢いている。


『さあ、いけ!』

『やめろ!』


 リバーラが光を歓迎し、タイラントは拒絶する。

 傾いた巨大な銃口は揺らぐことなく聳え立ち、タイラントの願いを聞き入れない。

 が、しかし。

 グングニールの塔が突然崩れ落ちた。


『んんんっ!?』


 傾いていたとはいえ、突然崩れたグングニールの塔を目にして王は目を丸くする。

 止まれと叫んでいたタイラントも同様だった。

 さっきまで倒れる気配がなかったのだ。

 バリアも依然として展開されており、ビーム攻撃が命中した形跡もない。

 誰が攻撃したのだ。

 ふたりは周囲を見渡すが、彼らが見つけるよりも前にキングダムのレーダーは敵影を発見する。


『誰!?』


 レーダーが捉えた機影を見上げる。

 見たことのある黒いフォルムだった。

 飛行ユニットからは黄金に輝く8枚翼。

 引き締まった胴体に、人間を思わせる機械の四肢。

 そして尖がった耳にデュアルアイ。

 どれもさっき見ていた機体にそっくりだ。

 というよりも、完全に同一の機体だった。


『あれ?』


 しかし、待て。

 なんであの機体が飛んで、しかもグングニールの塔に攻撃できるのだろう。

 さっき串刺しにした場所へと視線を向けてみる。

 そこには槍だけが突き刺さっており、肝心の残骸がひとつも無かった。


『あれれれ!?』


 あまりの出来事に王は混乱する。

 念入りにグングニールを撃ちこんだ筈だ。

 なのに、どうしてあそこにエクシィズがいる。

 それにフェアリーによる電撃を受けて、中のスバル少年は無事なのか。

 コックピットブロックを強化していて、無事だったと仮定しよう。

 それでも気絶していて然るべきなのだ。


『あ、わかった!』


 頭の中にひとつの閃きがよぎる。


『後ろに誰かいるんだね』


 確か、SYSTEM Xだったか。

 後部座席に新人類を乗せることで、機体にその人間の能力と内蔵武器を反映させる超テクノロジー。

 グングニールも相当だが、今にして思えばこのシステムも大分おかしなものだ。


『なるほど、カイト君は生きていたか』

「死んだよ」


 勝手に結論付けるリバーラの言葉を遮り、スバルは呟く。


「カイトさんは死んだ。俺の後ろは誰もいない」


 蛍石スバルはひとりだ。

 後ろには同居人の遺体だけで、他に誰もいない。

 

『だとしたら、おかしな話だね。どうやって復元させたんだい? まさか君自身の力かな?』

「まさか」


 それこそ愚問である。

 蛍石スバルは旧人類の少年だ。

 画面の中でブレイカーの操縦をする。

 ただそれだけが取り柄の、面白くない少年だ。

 そんなガキが機体を復元させたのは、トリックがあるからに他ならない。


「色んな人が協力してくれたんだよ」


 とろり、とエクシィズの右腕が溶ける。

 水のように流れ落ちるそれは、肩の動きに合わせて大きくしなった。

 水流が鞭となってグングニールの塔に叩きつけられる。

 接触した個所が綺麗に両断された。

 二重に両断された発射台が崩れ落ち、中身が剥き出しになる。


『あれは確か、XXXの!』

『まさか、彼女がいるのかな?』

「エミリアさんもいない!」


 スロットを回す。

 剥き出しになった砲台から飛び散った光に突進すると、エクシィズは塔の残骸へと突入していく。


『よせ! グングニールが発射されるぞ!』


 タイラントが止まるよう声をかけるが、エクシィズは止まる気配を見せずに駆けていく。

 充満していた光が解き放たれた。

 輝きは槍へと姿を変え、エクシィズに襲い掛かる。


「貫けないぞ、俺は!」


 槍が装甲を掠った。

 命中した槍はしかし、エクシィズを貫かずにあらぬ方向へと弾き飛ばされていく。

 

『あ、あれぇ!?』


 流石のリバーラもこれには焦り、混乱した。

 XXXに所属していた新人類の能力を次々と使いこなしている。

 さっきの水流はエミリアのものだ。

 だが、その後すぐにアキナの鋼鉄化に切り替わっている。


『なぁにそれぇ!』


 新人類王国の頂点に立っていたリバーラはあらゆるブレイカーに目を通し、内臓システムも殆ど把握していた。

 だが、そんなリバーラでさえもこんな短時間で新人類の同調を切り替えられる機体を知らない。

 そもそも真田アキナは獄翼から脱出できなかったではないか。

 じゃあ、後ろにいるのは誰だ。

 蛍石スバルは旧人類の少年だ。

 力を使うなら後ろに誰かを乗せなければならない。


『誰なの?』


 実はスバルが新人類だった。

 否。

 それならバトルロイドがもっと早く検知できている。

 あらゆる新人類をコピーできるイルマ・クリムゾンが後ろにいるのか。

 否。

 彼女はグングニールの餌食になって王の間に置き去りにしている。

 じゃあ、誰だ。


『誰がいるのぉ!?』

「誰もいないんだよ!」


 あらかた槍に体当たりにして受け止めた後、スバルは再度スロットを切り替えた。

 セットされた名は『アトラス・ゼミルガー』。

 黒の巨人が両手を構え、親指と人差し指で小さな輪を作る。

 視界の先にあるのはグングニールの発射口だ。


「灰に、」


 指が弾かれる。

 放たれた着火剤が発射口の中へと吸い込まれていった。


「なりやがれ!」


 爆発。

 グングニールの塔から炎が吹き出し、機能を燃やし尽くす。

 リバーラの目の前で表示されていたグングニールのプログラムがブラックアウトしていった。

 真っ黒になった画面を呆然と見つめるも、ややあってから拍手しはじめる。


『は、はははははははははっ!』


 素晴らしい。

 まさにこの一言に尽きる荒業だ。

 あらゆる新人類の技を駆使してグングニールの塔の外装を剥がし、発射された槍を弾き、そして発射口を潰して見せた。

 これでもう塔を使うことはできない。


『凄いね、スバル君! その機体、僕の想像以上だよ!』

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

『けど、やっぱり君自身は酷く脆い』


 機体の本性が見れた。

 あれは確かに凄いマシンだ。

 開発した人間は天才だったのだろう。

 だが、いかんせん中の人間が脆弱だ。

 キングダムの両肩、腰からフェアリーが発射される。

 白の従者たちは一斉にエクシィズへと飛びかかると、あっという間に取り囲んでみせた。


『なんだと!?』


 タイラントは驚愕する。

 エクシィズの速度は始めて目の当たりにする彼女の目から見てもかなりのものだ。

 彼女が乗る紅孔雀も速度が売りの機体だが、敵いそうにない。

 恐らく、パイロットはかなりの負担と戦っている筈だ。

 あの少年が動かしているのだとしたら、いずれ身体が潰される。

 それほどの速度で動いているというのに、王のフェアリーは一瞬で囲んでしまった。

 勿論、エクシィズ自身の加速力もあって接触するのは早い。

 だが、エクシィズの速度を見切った上で正面と横、背後を囲んでみせたのだ。

 リバーラの空間把握能力の高さを改めて思い知る。


『チェックメイトだ』

「どうかな!」


 スロットは既に回している。

 動かしてみると気づいたが、このSYSTEM XYZ。

 スロットを切り替えても同調機能が働いたことを示す発光がそのままなのである。

 これまでは後部座席の人間を入れ替えるごとに関節部が光っていたのだが、今はそれがない。

 つまり、こちらが誰の力を使ってもリバーラは力の交代を予知できないのだ。


「いくぞ、カノン」


 エクシィズの上半身が発光する。

 紫に輝く電流が周囲を覆い、取り囲んでいた遠隔操作ユニットを次々とショートさせた。

 フェアリーの包囲網が崩れ落ちる。


『おおっ!?』


 あまりのことに怯む王。

 そのまま加速してキングダムの背後に回り込む。

 キングダムが槍を構えて振り返った。


「おらぁ!」


 右足を思いっきり蹴り上げる。

 脚部がキングダムの股間に炸裂した。

 僅かに浮きあがる純白のブレイカー。

 王は僅かに『おぅ』と漏らす。


「知ってるか、あの姉妹を怒らせるとおっかねぇんだぞ」


 スバルとて男だ。

 あの言動と行動がどれだけ痛そうだったか、よく覚えている。

 新生物すら動きを麻痺させたのだ。

 名付けて『タマキン蹴り上げて雷ドーン、キック』である。

 スロットをカノンからアウラへと切り替える。

 右脚を経由して、電流がキングダムへと流れ込んだ。

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