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魔王城から始まる俺の冒険  作者: 暮野
第2章 魔女の住まう森
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 さて、突然ですが問題です。


 もしも貴方が目が覚めた時に一人で辺り一面が木で覆われる、深い森の中に取り残されていた時、どうしますか?


 俺の場合答えはこうだ。


「またか!!」


 ティオス・ココルド六歳。只今森で迷子中。



◆◇◆◇



 レオンさんと会った日、これからのことについて話し合った。意図せず魔王になってしまった俺だが、それをそのまま魔界に公表するのはまずいらしい。俺みたいな弱いやつが魔王なら倒せると思って反乱を起こされると厄介だからだ。だから今はリリスカットは力を蓄えるために休憩中で、魔王の業務を代理でレオンさんが行っている、と表向きはするらしい。


 それでいいのかレオンさんに聞いたが、もともとそのつもりで魔王城に来ていたので問題ないらしい。因みにまず行わなければならない魔王の業務は魔界を回ってそれぞれの族長(魔族という大きなくくりの下に細々とした種族があるらしい。俺はまだ吸血族しか知らない)に挨拶をすること。


「魔界は広い。隅々まで回れば五十年はかかるだろう」

「え!? そんなに!?」


 今回は族長への挨拶が目的だから時間はかからないようだ。よかった。てか、魔王のもとに族長が来るんじゃないんだ。


「昔は族長が新魔王就任に合わせて王都に来ていたが……何分魔族は血気盛んな奴が多い。新魔王就任ごとに王都が壊滅状態になっていてはシャレにならないからね」

「こわっ! まぞくこわ!!」


 レオンさんは地図を持って来て、机の上に広げた。へー世界ってこうなってたんだ。地球と違って大陸が真ん中に大きくあるだけだ。形はユーラシア大陸って感じかな。


 レオンさんの人差指が大陸の中央を指し「ここが王都。いま私たちがいる場所だ」と説明してくれた。それから指を南の方へ下げて「ここがゲート。人界へ行くための門がある」と言い、王都とゲートの中央にある森を指して「ここが漆黒の森。通称魔女の森だ。今から会う人物はここに住んでいる」と言った。


「ということは、相手はまじょ?」

「ああ、そうだ」


 魔女! 夢が膨らむ単語だ。王道はドジっ子魔女かな。元気っ子でも臆病っ子でもいい。あ、おれツンデレは二次元しか認めない派だからツンデレっ子は遠慮したいなあ。まあとにかく男っ気しかないこのパーティに女の子が加わるのは大歓迎だ!


「二千年は生きてる相手だから失礼の無い様に」


 ババアかよ。期待して損した。



◆◇◆◇



 ババア魔女と会うために漆黒の森へ向かう。転移魔法とか無いのか聞くと「魔女なら使えるだろうが私は無理だ」と言われた。残念。楽できるいい考えだと思ったのに。


「さて、ティオス。この森では当然魔物が出る。私と君の二人しかいない中で、遭遇した魔物を一々相手にしては時間がかかりずぎる」


 この森に来るまでに平原を通ったが、そこでも魔物と遭遇した。勿論戦闘力ゼロの俺はコマンド「物陰に隠れる」しか選択できなかった。でもこれまで戦闘してきてレオンさんは一度も苦戦していない。武器は大きな槍で、俺の体重の倍はありそうなのに軽々と扱っているレオンさん流石です。見た目通り強い男だ。


「しかも漆黒の森は目くらましの魔法がかかっていて、霧が深い。君と逸れてしまう可能性がある」

「え! それは困る!」


 戦闘は全部レオンさんに任せていれば安心だったが、逸れてしまえばそうはいかない。慌ててレオンさんを見れば、俺を安心させるような笑みを浮かべていた。


「そこで、この迷子紐の出番だ」


 心なしかドヤ顔でレオンさんは懐から紐を出した。赤い紐の片方はレオンさんの腰回りに結ばれている。え? 俺の腰にもこれ結ぶの? ……邪魔じゃね?


「城下町で買ってきた。かなりの金額だったから、効果は期待していい。あ、代金は魔王にツケておいたから」

「なにしてんの!?」

「何、君は直ぐにでも魔王をやめるんだろう? ツケなんて次代に任せればいい」

「そうだけど…それでいいのか?」

「ああ」


 いや、だめだろう。そういう考えが、無くならない借金を作るんだよ…?


 初めてレオンさんに不安を感じながら紐を結んだ。迷子になるのは嫌なので二回、三回と結ぶ。きゅっとひもを引っ張って固く結ばれたことを確認した。よし、大丈夫。


「この紐は魔力でできているから物理攻撃は効かないし、障害物もすり抜ける。長さは大体50メートルは伸びるそうだよ」


 そういえば、この世界、物の単位が地球と一緒なのだ。これには大助かり。だってフィートの長ささえ曖昧な俺には新たな単位を覚える余裕はない。


「へ~。じゃあ迷子になったらこれをたどればレオンさんと会えるんだな」

「そういうことだ」


 信用できるか疑わしいが、値段もそこそこしたらしいしな。取りあえず困ったときはこれに頼ろう。


 ……まあ、心の片隅では「こういうやり取りって既にフラグだよなあ」と思ってはいたけどさ。



◆◇◆◇



 森に入ってすぐは順調だった。後ろからの敵にも常に警戒していた。整えられていない道を通るのは慣れていなかったので直ぐに息が上がる。六歳児はそんなに体力無いんだよ。だから、ちょいちょい休憩を挟んでもらったのは少し申し訳なかった。


 思えばレオンさん関係ないのに俺に付き合ってくれてるんだよな。だったら疲れてても文句いえない。


 歩いては休憩して、歩いては休憩して、を繰り返し森に入って三時間は経った頃。俺の五メートルほど先で魔物を倒し終えたレオンさんが槍を背中に背負いなおした瞬間の事だった。


 ガサッという音とともに黒い影が俺の横から飛び出す。俺は咄嗟のことに驚いて硬直。レオンさんは気が緩んだ瞬間の事だったので反応が遅れた。黒い影はレオンさんではなく、標的を俺にして襲い掛かる。ハッとした時にはもう影は目の前で。恐怖から俺は目を瞑る。


 暗くなった視界。来る衝撃に構えていたが、しかし一向に衝撃は来ない。訝しんで恐る恐る目を開けて見ると影は消えていた。いや、影だけじゃない。木も、草も、レオンさんも、そして土さえも。


「へっ?」


 目に映る水色。うそだろ。なんで、


「おれってば、空とんでる?」


 そう言った途端感じる重力。ビュウッと風がなり、自分の身体が落ちていくのが分かった。


「うわあああぁあぁぁぁあああ!!!?」


 ウソだろなんでおちてんだよ死ぬ死ぬしぬ!!


「だれかたすけてええええぇぇぇええ!!!!!」


 とにかく必死に叫びながら助けを呼ぶが、常識的に考えて空に助けはいない。怖かったが下を見てみたら森が見えたので、単に自分が上空に放り出されただけだと判断する。でも、それにしたってない! なんで紐なしバンジーしてんの俺!? てか紐と言えば迷子紐は!? ……って切れてんじゃねえか役立たず!!


 あー終わった俺終わった完全に終わった。この六年間、楽しかったぜ。出来ればもっと魔法とか使ってみたかったけどな。


 思い浮かぶのは村で父さんに騙されたこと、母さんの料理がおいしかったこと、一つ下の女の子に殴られて泣かされたこと、神殿のじーちゃんと遊んだこと、冒険者にこっそり剣の稽古をつけてもらった事……一つ情けない思い出も交じっていたが、俺の人生中々良いものだったといえる。走馬灯が見えるなんてこれ本格的に死ぬな。


「さらば、おれのじんせい…」

「あーら。悲観しているところ悪いけど、死なないわよ?」

「ううぇっ?!」


 っとかっこつけているところにいきなり誰か来たーー!!


 いきなり中空に現れた人は緑のマントに身を包んでいる。フードを深くかぶっているので顔は見えないが、先程の声から女性だと分かった。女性が何かを唱えて俺に向けて手をかざすと、俺の下降が徐々にゆっくりになって最終的には止まった。地面まであと少しというところで、この高さから自由落下してももう無事だと分かるくらいの高さだった。すげえ! ゆっくり止まったおかげで俺に影響は全くない。正直助かっても重傷は覚悟していたので無傷で済んで嬉しい。


「えっと、おねーさんが助けてくれたんだよな? ありがとう!」


 死を回避できた喜びを緑マントのおねーさんに言う。ニカッとした満面の笑みも添えている。俺のお礼におねーさんは「無事でよかったわ」と言ってくれた。唯一見える口元が緩んでいるので相手も微笑んでくれていることが分かる。


「それで、どうしてああなったのかは理解しているのかしら?」


 おねーさんが俺の頭を撫でながら尋ねてきた。うーん。あの時のことを思い返すが俺には何が原因だったのか判断できない。素直にそのことを伝えるとおねーさんは頷いてくれた。


「やっぱり。……詳しくはあたしの家で説明しましょう」

「うん」


 おねーさんが手を差し出してきたのでその手を握る。おねーさんの横に並んでおねーさんが行く方に何も言わずについて行く。


「……この子、大丈夫なのかしら」


 おねーさんがそんな俺を見て呟いた言葉は、俺には届かなかった。


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