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魔王城から始まる俺の冒険  作者: 暮野
第2章 魔女の住まう森
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 魔女族の族長だと名乗ったエカチェリーナさんは、背中を痛めている俺の様子に気づき「申し訳ありませんでした。あなたを巻き込むつもりは無かったのですが……」と言って、俺の背中を摩ってくれた。すると不思議なことにだんだん痛みが引いて、終いには背中を打ったことなど嘘かのように普段通りに戻った。すげえ! これも魔法の一つなのか?


「さて、ウリヤーナ。何故魔王様がこの様に血まみれなのですか?」


 言われて初めて気が付くが、そういえば俺は真っ赤に濡れていたウリャーにしがみ付いたり、抱きしめられて拘束されたりしていたので、俺の服も赤く染まっているのだ。


「う~。だから、誤解だって~。これは赤水の池よ~! 赤の集落の近くにあるでしょ~?」


 エカチェリーナさんは俺の背中は治してくれたが、ウリャーの背中を治す気はないようだ。まだ痛みが引かないらしいウリャーは、呻きながらもエカチェリーナさんの質問に答えている。


「そうでしたか。まあ、そんな事だろうとは思っていました」

「思ってたなら攻撃しないでよ!」


 ひ、ひどい……。分かってたのに攻撃するなんて。エカチェリーナさん、意外とおっかない人かもしれない。


「そんなことは置いておいて」

「そんなこと~!? わたくしを無意味に攻撃しておいてそんなことで済ませるの!? 謝りなさいよ!!」

「レオーノヴィルから鳥伝が来て、迎えに行ってみたら既に緑派の襲撃に遭っていたので驚きました。お迎えが遅くなってしまい申し訳ありません、魔王様」

「へ? いや、うん。別にいいよ」


 エカチェリーナさんはかなりの美人だ。人形めいた美しさ…と言うのだろうか。傷一つない肌とか、綺麗にまとめられた金髪とか。とにかくそんな美人さんに申し訳ないという表情で謝られると、例えこの一年放置されていたとしても、その怒りをすんなり流したくなってしまう。これ、男として当然だよね? 俺だけじゃないよね?


 因みにウリャーはシカトされたことに喚いているが、誰にも相手にされていない。可哀想に。


「そうですか? ありがとうございます!」


 でも俺が許した瞬間、にっこりと笑ってお礼を言ってくるエカチェリーナさんを見ると、早まったかもしれないとも思ったけどね! この切り替えの早さ、まさかさっきのは演技じゃ…とも思っちゃったけどね! そ、そんなことはないって信じてるからな…?


「けれどわたしたちも、唯無為にこの一年を過ごしたわけではありません。レオーノヴィルが任されていた、各地の族長たちへの挨拶は粗方済ませております」

「えっ!?」

「え?」


 そ、そんなあ! 俺は密かに、魔界を旅することを楽しみにしていたのに! 各族長と挨拶をするという事は、色々な種族をこの目で見れることになると思っていたのに!!


 俺の楽しみを奪うなんてひどい! と思ってエカチェリーナさんを睨む。そんな俺にエカチェリーナさんは戸惑っているようだ。


「いけませんでした? あ、人界との話し合いの方も勿論済ませていますよ」


 どうやら俺の様子を、人界との話し合いを忘れていたことに怒っていると解釈したらしく、慌てて付け足すエカチェリーナさん。


 ご、ごめん…。そう言えば漆黒の森の魔女に会いに来たのは人界と連絡を取るためだったね。俺ってばすっかり忘れてた……。レオンさん覚えててくれてありがと…。


「そ、そっか。それで、人界の方はなんて?」

「はい。始めはリリスカットが復活したことで、かなり混乱していたようですね。文書をやり取りするうちに、入国許可が下りたので直接人界の王と話しました。相手側も争うのは本意ではないという事で、無事に矛を収めてくれましたよ」


 エカチェリーナさんの言葉にほっと息を漏らした。よかった。人間の俺が魔王として、勇者一行の父さんたちと戦う、なんてことになったらどうしようかと思っていたのだ。


「ああ、その時魔王様の父親だと名乗る方から手紙を受け取りましたよ」

「父さんから?」


 なんだろう。もしかして、あんな父親だったが、俺が魔王に攫われて流石に心配したのだろうか。手紙を書くなんてらしくないなー。


 ちょっと浮かれながら手紙を受け取る。表にも裏にも何も書かれていない、素っ気無い封筒。それが父さんらしくて少し笑ってしまう。何が書かれているのか想像がつかない。楽しみにしながら封を切り、中を取り出す。そこに書かれていたのは――。


『お前のせいでいらん恥をかいた。暫く戻ってくるな』


「と、父さん……」


 がっくりと項垂れながら手紙をもう一度読み直す。けれどそこに書かれていることは変わらない。


 別にいいけどね! 父さんに最初から期待とかしてなかったし!! 魔王になってしまった息子を労わったり、慰めたり、励ましたりなんてしてくれないって俺、分かってた!


 しかもなんだよ『恥かいた』って。もしかして息子が魔王デビュー()なんかして恥ずかしいってこと? 勇者も押し付けるような父親だ。そうかもしれない。で、ほとぼりが冷めるまで村に帰ってくるな、と言いたいのか?


 どこまでも自分本位な父親め! 寂しくなって帰ってきて欲しいって言っても帰らないぞ! 子供が反抗期迎えるまでの、可愛がることが許される貴重な幼少期を自分から投げ捨てるなんて!! 父さんのバカヤロー!


「どうです? 本当の御父君でしたか?」

「うん…。名前は書いてないけど、この内容から察するに俺の父さんだと思う」

「内容で分かるなんて、絆が深いのですね」

「う、うーん?」


 絆、絆か…。そんなものが俺と父さんの間にあるのか? ちょっと納得できなかったから、微妙な相槌になってしまった。


「久しぶりだね、ティオス」

「レオンさん!」


 先程まで部屋で様子を窺っていたレオンさんが、廊下まで出てきて挨拶してくれた。俺は一年ぶりの再会に嬉しくなって、レオンさんに抱き付く。一年経ってもレオンさんとの身長差が縮んだ気がしない。それ程レオンさんと俺の身長に差があることが分かり少し落ち込む。いや、俺まだ七歳だしな! 父さんもそれなりに身長があったし、まだ伸びる見込みはある!


「本当なら逸れてすぐに探したかったんだが…。君が無意識に錯乱魔法で自分の魔力を消してしまっていたようで、見つけられなかったんだ。まさかまだ森にいたなんて思わなかったよ」

「え! そ、そうなの?」


 どうやら俺を見つけるのに一年もかかったのは俺の所為らしい。でも俺は魔法の使い方なんて知らないし、発動していることにも気づかなかった。前にエレーナさんに『魔王紋』があるかを確認した時に、何も言われなかった事を思い出した。もしかしなくても錯乱魔法の所為なのでは…? じゃあ、俺がおかしくなったわけではないんだな。


「一応、森の外にいる可能性も考えて、族長への挨拶の時に周囲を探したりもしていたんだけどね。でもよかった。こうして無事な姿が見れてうれしいよ」

「心配かけてごめん、レオンさん。探してくれてありがとう!」


 俺はいつも通りニカッとした笑顔でお礼を言う。レオンさんもそんな俺の頭を撫でてくれた。こういうやりとりも一年ぶりで、とても懐かしい気持ちになる。


「えーっと、これは一体どういう状況なんだい?」


 と、俺たちがそんなやり取りをしていると、ナタリーさんとオリガさんが廊下の向こうから現れた。森の途中でおいて来てしまったが、今ようやく追いついたらしい。そんな二人を見てエカチェリーナさんは立ち上がった。どうやら俺とレオンさんが話している間に、彼女はウリャーと話していたらしい。


「さて、人もそろったようですし、状況を把握するための情報交換といきましょうか」


 エカチェリーナさんは俺たちを見渡してそう言った。


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