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魔王城から始まる俺の冒険  作者: 暮野
第1章 魔王城での目覚め
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 やあ皆! 俺はティオス・ココルド! 前世では普通の高校生をしていて、つい先日卒業したばかりだったんだ! ところが俺はうっかり死んでしまい、今は剣と魔法のファンタジーな世界で第二の人生をエンジョイしているよ!!


 さて、序盤の掴みは上々かな。え? テンション高い? だってしょうがないじゃーん。



 ――六歳児の今の俺が、目が覚めたら知らない場所に、一人きりで放置されてたんだから。



◆◇◆◇



 俺は生まれ変わったこの世界で、新しい人生をエンジョイすることに決めた。前世に心残りはない。俺は死んだときのことを、今でもはっきり思い出せる。


 高校を卒業したばかりで、俺は仲の良かった三年のクラスメイト全員と飯を食いに行っていた。その帰り道、俺たちは河原に寄って将来のことを話したりした。皆には言えなかったが、俺はクラスで唯一どの大学にも合格することができなくて、浪人人生が決まっていた。


 俺は当然恥ずかしくて、クラスメイトと大学が離れて残念だという顔で皆の話を聞いていた。その時だ。一面真っ白になり、次いですごい爆発音がした。身体が焼けるように熱く、声を出したいのにうまくいかない。苦しくて苦しくて、助かりたい一心でもがくと、突然苦しみがやんだ。


「ごめんね~。僕がミスしちゃったから、君たちは別の世界に飛んでもらうよぉ」


 軽い調子の、性別不明の声が聞こえてくる。聞いていると苛々してくる声だと思った。目を開けているはずなのに何も見えず、一面真っ黒に染まっている。


「別の世界?」


 疑問を口に出した覚えはないが、つい溢してしまった。俺の声を聴き、性別不明の声が答える。


「あれ? 君、もうこっちに来ちゃったの? 根性なしだなあ。あっさり死ぬなんて。まあいいや。そうだよ。君たちは僕のミスで、本来運命にない死に方をしたから、基本世界とは違う並行世界に追放しないといけないんだ~」

「……は?」


 おい、なんでこいつのミスで俺が追放されなきゃいけないんだ。理不尽すぎるだろ。


「色々言いたいこともあるだろうけど、我慢してねぇ。さ、さっさとやらないとご飯食べそびれちゃう。なにせ三十一人もいるんだからね。じゃ、君はこの世界でいいかな。バイバ~イ」


 性別不明な声は一方的に別れを告げてきた。それを最後に意識が薄れていく。


 くそっ……どういうことなのか、あいつに、きき……そび、れ………………。


 次に意識がはっきりしたのは知らない美女に抱かれているときだった。赤ん坊の身体になっている状況から考えて、生まれ変わったことに気づき、だとすると俺を抱える美女は今世の母親になるわけだ。


 後にあの時のことを考えてみたが、あいつは所謂神様というやつだろう。こういう時のテンプレだ。漫画や小説でよく見る設定だ。信じがたいことに生まれ変わってしまったのだから、こういうこともあると思わなければならない。事実は小説よりも奇なり、というやつだ。


 まあ、あっさり生まれ変わったことに納得して、今世の母親が美人なことに満足し、今世の父親が美形なことにイケメン爆発しろとイラつきながら二年くらいを過ごした。


 俺が生まれ変わったのは魔法のある世界だったので、俺は二歳児の頃から文字を覚え魔法の勉強を始めた。言語が日本語ではなかったが、ハイスペックな俺にかかればこんなもの。両親の日常会話から大体の流れをつかみ、この世界の言葉を覚えた。う、嘘じゃないぜ? 転生チートってやつだよ。声、震えてなんかないからな!


 ま、まあ? 俺が生まれてすぐに母さんは神殿に行って、俺が健やかな成長をするように神に祈りを捧げたらしいけど? 信仰深い母さんの願いを、この世界の神が聞き届けてくれて俺に神の加護を与えたかもだけど? でも言葉を話せるようになったのも、読めるようになったのも俺の努力があってのものだぜ? となるとやっぱり俺の力だ。うん。


 因みにこの世界は、かなりの力があるやつが祈れば神が降臨する。降臨した神様は願いを叶えてくれたりする。母さんはそのいい例だ。母さんは若い頃魔王討伐に参加したらしく、今でも聖女と言われている実力者だったりするのだ。俺はてっきりそういうのって、所謂純潔の乙女しかなれないと思っていたが……人妻でも大丈夫らしい。余談だな。


 まあとにかく、早いスタートを切ろうと奮闘していた俺を止めたのは父さんだった。意外だと思うよな? こういう時父親は賛成派なんじゃないのか? と思うだろう。父さんの言い分はこうだ。


「ただでさえリリアを妻にして注目を浴びているんだ。お前がもし天才だったりしたら、余計に注目を浴びる。俺は静かに暮らしたいんだ。だから勇者だってあいつに押し付けたし、この寂れた辺境の村に暮らしている。お前は年齢に見合ったふるまいをしなさい」


 う、うわあああーーー!!! で、でた! 親のくせに自分の都合しか考えずに子供を押さえつける奴!!


 俺がこの言葉を聞いて、口を大きく開いて驚くのも無理はないだろ? なのに父さんは俺の表情を見て「やはりこれくらいのことはもう理解できるのか」と言っていた。そして俺の頭に手を置いて撫で――「いいな。今度からはこんなことを言われても首を傾げてキョトンとしてろ」――るわけもなく、上からぎゅっと押さえつけてきた。ひでえ。


「やめろよ! ちぢむだろ!」

「そうそう、そんな感じだ」


 俺が反抗すると満足げに頷いてきた。違う。子供らしくしてるわけじゃない。


 そしてうっかりスルーしたけど、え? 父さん勇者押し付けたって何? 勇者って押し付けられるものなの?


「とうさん、ゆうしゃってなに?」


 思考は大人でも体は子供だし、まだ二歳なので必然的に俺の言葉はたどたどしい。滑舌がな…まだ悪いんだよ。


「ん? ああ……この村の近くに神殿があるだろう? 母さんが勤めてたところ。そこの祭壇にある剣を抜いたものが勇者になるんだ。あの時は祭壇に母さんと俺と幼馴染みしかいなくて、俺たちが喧嘩して掴み合いになった時に……偶然だが俺が剣を抜いてしまってな。俺は狩人だったから、剣士だったその幼馴染みに勇者の剣を押し付けたんだ。そうしたらなんかよくわからんうちに俺たちは魔王討伐に行く羽目になった。まあ無事その旅も終わったが。ああ、剣は神殿じゃなくて王城に収められてるから見れないし、次代の勇者も生まれないだろうな。王家に箔をつけるために」


 一気に言われた言葉をしっかり理解する。父さん、子供らしくしろと言っておいて父さんが子ども扱いできてないよ。普通の子供はこんな長文難しくて理解できないよ!


 しかし、今の口ぶりからすると……。


「もしかして、とうさんがゆうしゃをおしつけたあいて、おうぞくなのか?」

「まあそんなとこだ。魔王の策略で前国王が急逝したから、一人娘のアマーリエ姫が王位を継がなくてはならなくなってな。それを嫌がったアマーリエ姫が、一目惚れした俺の幼馴染み兼勇者代理と結婚して、結局そいつは政務と王位は押し付けられたんだが……まあ王族の一員だろ。昔は唯の辺境村の村人Aだったのにな。出世したものだ。……あ、これ誰にも言うなよ」


 感心したように言う父さん。そしてはっとして、俺に秘密にしておくように注意してきた。言われなくてもそんな話は誰にもしないっての。


 しかし、父さんの幼馴染みは物事をよく押し付けられる人だな……。勇者然り、王位然り。民衆も世界を救った勇者が王になることに反対は無かったのだろう。姫との結婚も喜ばれたに違いない。


 その日は今までにないくらい父さんが饒舌で、俺は父さんが構ってくれていることが嬉しくて一日中話した。今にして思えば、珍しく子供らしい俺に父さんは笑っていたに違いない。勿論あくどい笑顔で。驚くほどあっさりと企みが成功したからな。


 次の日俺がいつものように本棚から魔法書を抜き取って開いてみると、そこには何も書かれてなかった。愕然とする俺。それを、偶然を装って部屋に入ってきた父さんが見下ろす。そして、俺の頭に手を置き、


「残念だったな。これではもう文字の勉強も魔法の勉強もできない。いやあ、残念残念」


 まったく残念じゃなさそうに、寧ろ嬉しさを隠しきれない顔でそう言ってきた。

 こ・の・クソオヤジーーーーー!!!


 とにかく、こうして俺は早いスタートを切ることに失敗し、普通の子供人生を歩むことになる。父さんが言うには、勉強を始めるのは六歳かららしい。だから俺はそれまでは耐えた。



◆◇◆◇



 そして迎えた六歳の誕生日。父さんがいつものように理不尽な事を言い出した。


「おい、ティオ。神殿に行って祈ってこい」

「え? なんで?」


 ここは辺境の村なので魔物の心配はないが、野生の熊はいる。六歳なりたての子供を森に囲まれた神殿に行かせるなんて正気か? この男。


「ああ、それが村の決まりだ。六歳の誕生日に、神殿に行って今まで守ってくださりありがとうございました、とお礼を言うんだ。子供は母親が神に祈ることで神の加護を得ることができる。お前も生まれたばかりの頃、母さんが祈りに行ったんだぞ」


 へえ。この世界にもやっぱりこういう宗教文化があるんだな。


 これがこの村の慣習だというなら、他の六歳児も神殿に行っているという事か。それなら道中の心配もいらないのか? こういう「初めてのお使い」みたいなのは大抵親が後から付いて来るものだしな。


「わかった。じゃあ行ってくる」


 因みにこの頃沢山しゃべっていたおかげでかなり滑舌が改善された。嬉しい。精神年齢的にはあのたどたどしいしゃべり方は正直堪えたから。


 それにしても神殿か~。勇者の剣が無くなってからは、祈りに来る人も減ったらしい神殿。母さんは俺を生む前までそこで働いていて、妊娠してからは産休・育児休暇を取っていたが、俺が大きくなると手伝いに行くようになった。俺もそれに時々ついていったので道は覚えている。一人で大丈夫だろう。


 そう判断して俺は家を出た。母さんは料理に忙しいみたいなので、声はかけずに出て行った。俺の誕生日だからと張り切ってくれているのだ。これに喜ばずにはいられないだろう。俺は上機嫌で神殿に向かった。


「ティオ~。ちょっと味見してほしいんだけど……って、あら?」

「どうした、リリア」

「貴方、ティオがいないの。どこに行ったのかしら……何か知らない?」

「ああ、あいつなら神殿に行ったぞ。祈りに」

「へ……? それって母親と行くのよ? 普通。まさか、貴方……」

「そうだったのか? 知らなかったな」

「もう……貴方ってホント何処か抜けてるわねえ」


 そんな会話を両親が繰り広げているとも知らずに。



◆◇◆◇



 さて、やってきました森の神殿。ここまで野生動物に会うこともなく無事に来ることができた。こうして振り返ってみれば俺は今まで危険な目にあったことが無い。これが神の加護のおかげであるなら、こうしてお礼を言いに来るのも当然だろう。まあ俺が祈ったところで神が現れるか分からないがな。直接でなくとも聞いてくれるだろう。


「おや、ティオス君じゃないか。どうかしたのか?」


 祭司であるおじいちゃんが出てきた。確か今年で八十四歳だったか。こんな老人が未だに働き続けているなんて、この世界は労働基準法とかないのかと疑問に感じる。


「おれ、いのりに来たんだ。今日で六さいだから、神さまにおれいを言いに」

「ほう、一人で? ティオス君は偉いのう。道中なにか獣に襲われんかったかの?」

「だいじょうぶ! 母さんがいつも通る道、つかったから」

「そうかそうか。それはよかった」


 祭司のじーちゃんはそう言って俺の頭をなでてくれた。もっと褒めてもいいんだぜ? 俺は褒められて伸びる子だからな!


「よし、じゃあこのじじいが、ティオス君を神殿の祈りの間まで連れて行ってやろうかの。なに、心配はいらん。祈りは心を込めて行うだけで、作法も何もないからの。気持ちさえあればそれでいいんじゃ」

「うん! ありがと、じーちゃん!」


 ここの神様はえらく寛大だな。前世ではやれ十字架を持てだの、二拍手しろだの、真ん中は神の道だのうるさかった。いや、宗教を馬鹿にしているわけではないけど、現代人らしく無信仰な俺には少し煩わしかったのだ。実際に会った神があれだしな。


 じーちゃんに連れられてきた祈りの間は、前世の教会を思わせる造りをしていた。白い空間の中、真正面にあるステンドグラスが鮮やかに光っている。この時間はちょうどまっすぐ光が入るらしく、床に映った像は歪むことなくその美しさを伝えていた。


「きれい……」

「そうじゃろう。儂もこの時間が一番好きじゃ」


 俺のつぶやきに嬉しそうに同意するじーちゃん。


「さ、そこの椅子に掛けなさい。ほとんどのものは指を交互に組み合わせて、少し頭を下げながら祈る。ティオス君もそうしてもいいし、自分の祈りが伝えられると思う体勢で祈りなさい」

「あ、うん。わかった」


 じーちゃんに促され椅子に座る。体勢にこだわりもないし、言われたのと同じようにして目を瞑った。


 そして、俺が祈り始めようとしたその瞬間。


 ――ドゴオォンッ!!!


 大きな爆発音がして、俺の意識は途絶えた。最後に聞こえたのはじーちゃんの焦った声と、知らない女の声だった。


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