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とある魔族の成り上がり  作者: 小林誉
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第99話 風と炎

「スキルを……私に?」

「そうだ。新しいスキルが手に入ったからな。俺が二つ持っているより、別の奴に使わせた方が全体の強化に繋がる」

「そりゃ、もらえるならありがたいけど……いいの?」

「かまわない。お前の事は信用しているからな」


思いがけない提案に目を丸くしていたラウだったが、信用していると言う俺の言葉に少し嬉しそうにしていた。今までの働きぶりが認められたと思っているんだろうか? まあ、俺も言葉通りに信用しているわけではないんだが、わざわざ水を差す必要もないだろう。快く快諾してくれたラウを前にして、俺は手の中に生み出したナイフを赤く変色させて構えた。


「ちょっ、ちょっと! 何をする気?」

「スキルの譲渡はこれを体に刺さないと出来ない。だが安心しろ。刺さっても影響があるのは精神にだけで、肉体的には傷一つ付かないから」

「大丈夫なんでしょうね……」


ルナールの時もそうだったが、やはり体に刃物を突き立てられるのは本能的に避けたい事なのか、ラウも腰が引けている。俺はそんな彼女に構わず、手にしたナイフを勢いよく振り下ろした。


「あっ――ぐぅ!」


ナイフが刺さると同時にラウが苦しみ始める。彼女の体はナイフと同じように赤く発光し、スキルが彼女の体に定着していくのに比例して、次第に光は収まっていった。


「はぁ……はぁ……はぁ……!」


完全に譲渡し終えたと判断した俺がナイフを引き抜くと、ラウは膝から崩れ落ちてしまった。四つん這いになって荒い息を吐きながら、今までナイフが刺さっていた胸元をしきりに気にしている。さすってみたり、手を服の中に入れて触ってみたりと、怪我がない事に戸惑っているようだ。


「こ、これで私にスキルが……?」

「ああ、そうだ。目をつむって意識を集中してみろ。スキルがあるならお前にも見えるはずだ」


言われたラウは素直に目を閉じ、深呼吸を始めた。すると次の瞬間、彼女は勢いよく立ち上がって俺の手を取った。突然何事かと驚く俺を余所に、彼女は興奮したまま俺の手を強く握りしめる。


「見えた! 見えたわ! ハッキリと『暴風』って言葉が見えた! ありがとうケイオス! 本当に感謝してるわ!」

「お、おう。そうか。良かったな」


昔は反りが合わない奴だったとは言え、今のラウは随分素直になっている。それにハッキリ言って、容姿は十分俺好みなんだ。そんな彼女に熱烈に感謝されて悪い気がするはずもなく、俺は柄にもなく照れていた。


スキルを渡してハイ終わりというわけにはいかない。覚えたてで悪いが、ラウには俺の実験に付き合ってもらわなくてはならない。まず一人で色々とスキルを試させてから、俺の言うとおりにスキルを打ち出してもらう事にした。


「渦巻き状に風を?」

「そうだ。それに合わせて俺もスキルを放つ。上手くいけばかなり強力な攻撃になるはずだぞ」


説明だけではいまいち想像できないものの、ラウは大空に向かって渦巻き状の風を起こし始めた。それと同時に俺は右手から火炎のスキルを撃ち出す。出したのは火炎球ではなく、放射状に広がる火炎だ。


「!」

「やはり思った通りだ!」


ラウの生み出した暴風に乗った俺の火炎は瞬く間に広がり、まるで蜷局を巻く大蛇のような動きで空へと駆け上がっていった。放たれる熱量は風の影響もあってか今までの比ではなく、これをまともに喰らった人間は即座に炭化し、建物など軽く炎上するであろう威力だった。


「凄い……スキルを組み合わせるとこんなに強力になるのね……」

「俺も予想以上だったよ。これは他のスキルでも検証してみたくなったな」


と言っても俺の仲間で組み合わせの出来そうなスキルを持っている者は、今のところ居ない。ルナールに譲った氷の矢は固形でしかなく、風の影響を全く受けないのはミストラルとの戦いで証明済みだし、シオンの治癒、ケニスの防壁などは攻撃に使えない。リーシュの重量軽減やイクスの生成などは問題外だ。唯一シーリの衝撃だけ攻撃向きだが、あれは風に合わせたり炎に合わせたりする類いのものではない。なので当分スキルの組み合わせ検証は出来そうにない。次に何らかのスキルを奪った時にやってみるしかないだろう。


その後は、ただ前面に吹く風に乗せたり、吹き荒れる風に火炎球をぶつける実験などをして、色々と面白い結果を出す事に成功した。次は何をしようかと思ったのだが、ラウの消耗が思った以上に激しかったので中止にしておいた。調子に乗ってスキルを覚えたての彼女に少々無茶をさせすぎたかと反省し、その日は屋敷に戻ったのだった。

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