装備品
ノトスで買い物ですー
衣服屋は入り口側にカウンターを設置していた。
本来は会計が見られないように配慮するのだろうが、この店は違ったようだ。
その為に、外から会計している俺達が見えた訳で‥‥
「――私は貴族のジムツーと申します」
礼儀正しく姿勢良く?立っている男がラティに話し掛けた。
自分の胸に手を添えて、うやうやしくお辞儀をしている。
見た目は普通の顔立ちで、着ている物が平民の服だったら普通に平民にしか見えない風貌。貴族オーラを感じさせない男であった。
俺の感想はそんな感じであり、ただの高そうな服を着ている人。
そんな感想を浮かべていると――
「貴方のお顔をよく見たいです、ちょっと失礼、」
その男は、ラティの返答を待ちもせずに、彼女のフードを剥ごうとする。
だが、その程度の動きにラティが反応出来ない訳もなく、スッと後ろに下がりその男の手からなんなく逃れ、そして睨み返しながら言い放つ。
「あの、何か御用でしょうか?突然フードまで取ろうとして」
「あ、いや、君が気になってしまって‥」
その男は、空を切った伸ばした手を彷徨わせながらしどろもどろに答えた。
俺はその男の行動を見て、面倒ごとになるのを避ける為に、ラティの耳を見せて狼人だと教えれば引くか?と考えたが、奴隷と知られると売れと迫って来そうな感じもする。しかも
俺が男を止めに入ろうとすると、その男は腰の剣に手をかけて、抜くぞ?と暗に脅してきた。
だが、この街の法律で武器を抜くのは禁止されているのだ。武器を持ち歩くなら鞘に入れるのが決まりだ。
それを破るとそれなりの罰があるとアムさんに忠告されていたのだ。
俺の現在の装備は槍は置いてきて木刀だけなので問題は無いが、この男は処罰となるのだが、自分は貴族だから罰されないと思っているのか、腰の剣で俺を牽制し続ける。
それなら――
「お嬢様、早く公爵家お屋敷まで戻りましょう。アム様がお待ちです」
「――っな!?公爵家!?」
俺は自分なりに使用人風と装い、買った荷物を持ってその衣服屋を後にした。
ラティとサリオも流れに乗って俺の後に着いてくる。
これには勝算があった。公爵の名前を出せは、この貴族はあっさりと退くだろうと、このやり方が一番揉める事が無いだろうと思ったのだ。
――だけど、あの貴族なんか変だったな?
あんなに気安く、令嬢だと思っている相手に手を出すものなのか?
貴族ってもっと固っくるしい
俺はさっきの男が特別なのだろうかと考えながら屋敷に戻るのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
公爵家の離れに戻ると、すぐに風呂に入る事にした。
もう四日以上風呂に入らずに、着替えもしていなかったのだからだ。
その後は、さすがは公爵家と言うべき豪華な浴場から上がると、俺は先程の衣服屋の出来事をラティ達と話し合うことにした。
「なぁ、俺ってそんな酷い格好か?」
「あの、とても雄雄しい風貌かと思います」
「ダサくてみすぼらしく男らしい格好ですよです」
評価が極端過ぎて参考にならなかった。
俺は自分の格好が気になった訳では無いが、やはり使用人に見られたのはショックだったのだ。ラティの主である為に、最低限の身なりは揃えるべきではないかと‥。
今思うと、俺はこの姿の為に舐められて、無用なトラブルに巻き込まれた事があるのでは?っと気付いたのだ。
性能だけの装備ではなく、目で見える解り易いモノも必要なのではと。
先程の公爵家の名を出した時のように、トラブルを避けれるのではないかと。
「また明日もう一回買い物に行こう」
「あの、何をお買い求めに行くのです」
求めるような物があるかどうか分らないが、明日新しい装備を買いに行くことにした。いま思うと、今日のあの貴族と出会ったのは、丁度良かったのかも知れない。
「お金平気なのですか?です」
「ああ、あと金貨14枚ある、今日の買い物は全部で金貨2枚と銀貨80枚だったからそこまで使って無い、ららんさんにはもう少し待って貰おう」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次の日の朝。
今までよりも圧倒的にふっかふかなベッド。
何より、一人と言う部屋。今までは金銭面で3人同じ部屋だったが、昨日からは一人部屋になれたのだ。
17才の熱い想いで、赤から橙に変えない為に必死に耐えてきたが、これからはかなり楽になるのだ、目の前に食べてはいけない好物が置いてある状況を脱したのだ。
――やっと念願の一人部屋だ!
二部屋取りたいのに、金銭面でラティに反対されていたからな‥‥
用意されていた、食事を食べ俺達は再び街へ向かう。
アムさんからは、明日までは自由にして良いと許可も貰っていた。
だが、明後日辺りから依頼があるとも伝えてきていた。
新しい装備の事をアムさんに話したらところ、中央の広場に行くと良いとアドバイスを受けた。なんでもその場所なら掘り出し物があると教えてくれたのだ。
目指す中央の広場はすぐに辿り着けた。
大きな駅周辺に建っている学校の校庭のように、建物が密集している場所に、ぽっかりと空間が開いている広場が存在していた。
広場は周りが木の柵で囲ってあり、中に入るにはステプレを提示してから入場という形になっていた。万引き対策と管理の為にアムさんが作った政策らしい。
そしてその広場で、目を惹く一品と出会う。
「こ、この装備は、間違いなく奴らの趣味だ、」
「珍しい形のブリガンダインみたいな鎧ですねぇ」
「綺麗な青色です~」
俺が見つけた装備は、柔道着のような形に、肩や袖などに鉄板が縫い付けてあり、脚の装備は膝までのハーフパンツのような脚装備。
それはまさに忍胴衣であり、脚は佩楯。絶対に歴代勇者が係わっていそうな一品であった。
ただ、作られたのは最近らしく、特殊効果などは無いそうだ。しかし値段が手の届く金貨7枚と銀貨20枚である。
そして何よりも色が良いのだ。
透き通る空のような青色だ。肩の鉄板は黒光りしていて、此処だけは残念だった。
早速購入し、お屋敷の離れに戻った。
俺は部屋に一度戻り新しい鎧、忍胴衣に着替えた。その着心地などのチェックしてから、ラティをサリオにお披露目をする。
「おっほ~!胡散臭かったジンナイ様が、なんかちょっと奇麗ですよです」
「とても綺麗な青色ですねぇ、何の糸で出した色合いでしょうねぇ?」
返ってきた反応は中々の好印象だった。
サリオには後でちょっと反省の必要はありそうだが。
3人で騒いでいると、同じ離れに住んでいるららんさんが通りかかる。
「およ?新しい胴装備ですね?凄い綺麗な青ですのう、だけど‥」
「だけど?」
「ちょっと重そうやね、防御力もそこまでは期待も出来そうないようにも‥」
「そうなんだよな、皮の鎧よりも重いんだ、動き易さはイイんだけど」
そう、重さには一抹の不安があった。
皮の鎧で動きやすさと軽さで慣れてしまっていた俺には、どうしても重さに引っかかりを感じてしまっていた。
脚の佩楯の動きやすさもあって、動き易さが良くなった分、余計にこの重さに違和感を感じてしまっていた。装備し続ければそのウチ慣れるとは思うのだが。
「じんないさん、それ付加魔法品化して軽量化する?ラチちゃんの鎧みたいにさ」
「あ!その手があったか!」
そこからは話が早かった。
この手の仕事はららんさんの得意分野であり、しかも防御力も上げれそうと言うのだ。使っている糸が魔石に馴染みやすい素材らしく、それも含めて俺はららんさんにこの装備の付加魔法品化をお願いした。
『すぐ準備して終わらせるで~』っと言って俺から忍胴衣を剥ぎ取り、工房に走って行ってしまった。
この時、俺は油断していた。
どうしてもいつも頼ってしまう、ららんさんには警戒が甘く‥‥。
次の日。
「じんないさん出来たで!」
「ああ‥‥」
目を逸らしながら俺に忍胴衣を手渡してくるららんさん。
依頼したのは俺だし、それを快く引き受けてくれたのだ、そしてキッチリと仕事を完了させてきたのだ。
だが――
「ららんさん、色が‥」
「素直にごめん、糸が魔石によく馴染んだみたいで‥」
忍胴衣の透き通るような青が、とても暗い紺色に変色していたのだ。
闇夜に紛れろと主張している色に変わっていたのだ、しかもとても合ってる。
「あ、でもちゃんと軽くなっているでしょ、少しだけど魔防も上がっとるし」
「確かに軽いです、前の皮の鎧より軽い‥けど色が重い、」
忍胴衣を手に持ち佇む俺に、サリオが話し掛けてくる。
「ジンナイ様によく似合った色だと思うよです」
「お前それ慰めてるつもりか?」
聞き返すと、首がもげるのでは?と思うくらいの勢いで顔を横に向けるサリオ。
そんな落ち込んでいる俺に、ラティが珍しく目を輝かせて喰いついてきた。
「ご主人様!それを着ている所を見せて頂けないでしょうか?」
「らてぃ?」
俺はラティに急かされ、その濃い紺色の忍胴衣を部屋に戻って装備して来ると。
「あの、素晴らしいです!とてもよくお似合いですよご主人様」
「ああ、ありがとう‥」
どうにもラティ的にはどストライクらしく、彼女は胸の前で小さくこぶしを握り、俺の姿をまじまじと見入っていた。
ラティの評価がイイのなら良しとし、それと目的のひとつである、舐められないような格好をする、この忍胴衣は完全にそれを達成していた。
忍胴衣を装備した俺の姿は、怪しさもあるが、それ以上に只者ではないと思わせる、威圧感のある格好となっていたのだ。
西洋風な異世界で、無骨な槍に腰には木刀、そして姿は和風な忍胴衣。
ラティも見入る新しい装備を俺は手に入れた。
――何気に、この格好は気に入ったしな、
中二心をくすぐる装備だ、
暫くの間、新装備の発表会のような雰囲気で雑談を交わしていると、そこにアムさんがにこやかな笑みを浮かべながらやってきた。
「あ、アムさん見てください新しい装備を買ったんですよ」
「お!よく似合っているね、ジンナイ君の瞳に合わせたような色合いだね」
――う、きっと褒め言葉、
きっと、深い良い色合いだと褒めているんだ、
「ジンナイ君。さっそくその装備の出番が来たよ、防衛戦に出て欲しい」
「魔物の大移動ですか?」
「じんないさん良かったですのう、ツケの金貨70枚はやく返せそうやの」
「へ?70枚?20枚の間違いなんじゃ?」
ららんさんは最高に『にしし』な笑顔で俺に絶望を告げてくる。
「何を言っとるん?その胴衣の付加魔法品化依頼分が50枚やの」
「あ、」
俺は油断していた‥
こちらの魔石相場が適正価格なので高いと言う事を忘れていた、そして、このツケが俺をこのノトス領に縛り付ける楔になっているのを。
俺達はこうして、再び南ノトス領での防衛戦に参戦する事になった。
やはり俺はこの二人には敵わないかも知れない‥
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