ウェスターへ(ルーク視点)
予約を間違えて半日早い更新です(;´д`)
良かったらどうぞ!(やけ)
「まだ学生の身分のお前たちを、こうして送り出したくはなかったが」
お父様は心配そうに私にそう言う。おそらく他の人からは無表情に見えているだろう。わが父ながら、損なかただと思う。もっとも、お父様は誰にどう思われようがまったく気にしていない。
私は、黒のシンプルなズボンに、銀色にも見える白の光沢のある丈の長いジャケットを羽織っている。ジャケットには紫色の糸で細かい刺繍が施してある。オールバンスの正装だ。11歳のわが身でも、少しはそれらしく見えるだろう。
「お父様、私たちから言い出したことです。私でなければ、リアは納得しない。おそらく、ジュードでも駄目でしょう。納得しなければ容易には帰ってこない。リアはそういう子です」
「だが」
「ウェスターの領都だから、私が行けることになったのです。トレントフォースにはさすがに監理局が出してくれなかったでしょうからね。むしろよかったのです」
私はお父様を安心させるようににっこり微笑んだ。
「それにほら、お父様がジュードを付けてくださいましたし。何よりギルが一緒です」
私はギルのほうを見やった。ギルは私と同じシンプルな黒のズボンに、青の刺繍を施した黒のジャケットを羽織っている。14歳のギルは細くはあるものの、もうほとんど大人と同じだけの背丈がある。
子どもだと馬鹿にされるような要素は少しでも少ないほうがいいので、本当にありがたい。
「考えうる限りの対策を共に考えたとは思うが、どのような事態になるかはわからない。それでも、リアだけでなく、お前自身を大切にして、必ず戻ってきておくれ」
リアが私にもたらしてくれたもの。
愛しいリア自身だけではなく、リアからもらえる無償の愛情。
そしてお父様だ。
お父様は、決して冷たい父親ではなかったと思う。学院で見聞きした限りでも、貴族の親はどこも愛情が薄い。お母様がなくなってからは、さみしかったけれども、それは当たり前だと思っていた。
でも、リアがお父様を与えてくれた。お母様を愛したように、娘を、息子を愛してもいいのだとお父様に教えてくれたのだ。優しかったお母様のように、誰かから愛情をもらうのはとても温かい。それだけでなく、愛を外に出すことの喜びを、リアは伝えてくれた。
だからこうしてリアがいなくなっても、お父様は私を愛してくれるし、私もお父様を愛することができるのだ。私はためらわずにお父様に手を伸ばした。
そうしてお父様にぎゅっと抱きしめられる。周りの人が驚いたように私たちを見る。学院に行く年にもなって恥ずかしい? 恥ずかしいと思うものはしなければよい。私はいくらでもしてもらう。そうして先に進む勇気をもらうのです、リア、お父様。
王城の前での出発の式典の後、私とギルはラグ竜に乗り、ウェスターの領都に向かった。さすがに急ぎでなければ、自分でラグ竜に乗れるほどには騎竜も上達した。子どものころからラグ竜に乗る者は珍しく、そのせいかラグ竜は私にはよく懐いてくれる、と思う。飼育員の者が驚いたほどだ。お父様もそうだったと、古株の飼育員が言うが、お父様は「ほかの者と比べたことなどない」と相変わらずなので、本当のことかどうかいまひとつわからない。
私たちが向かうウェスターの領都シーベルは、キングダムの王都からみて真南よりはやや西よりだ。したがって、リアのさらわれた道筋ではなく、まずローグ伯の領地を、そしてタッカー伯の領地を通る。
そのため、王都に滞在していたローグ伯とタッカー伯とも同道することになった。
「めんどくせえ」
とはギルの言葉だが、ギルにしろギルの父親にしろ、同じ四侯でもなぜリスバーンはこう砕けた人たちなのか。
「ギル、気持ちはわかりますが、それは心の中にしまっておきましょう」
「まあな、俺は叔父のほうが気になって仕方がないのに、そこまでに別のやつらに気を遣わないとならないってのが面倒なんだよ」
「私だってリアのことが気になって仕方がありません。なぜリスバーンの者と一緒にいるのか、なぜトレントフォースまで行くことになったのか……」
「ほんとだよな。広い辺境の地で、わざわざ四侯の血筋の者が一緒にいるなんて、どんな確率だよ」
もちろん、リアが生きていて、しかも元気だというのに、それ以上のことを気にしても仕方がない。しかし、リスバーンの子は11歳だという。ギルはギルで、年下の叔父と言うのが気になって仕方がないようだが、私はもしかして、同じ年だから私と記憶が置き換わっていたりしたらと思うと気が気ではない。だって、リアがいなくなってもう半年以上たつのだから。誰かほかの人を「にーに」と呼んでいたら?
リアがトレントフォースから戻ってくるまでにはだいぶかかる。円卓会議を行い、そこから使者の調整を入れて、ゆっくりと私たちが準備しても、まだ領都シーベルにはたどりつかないくらいだ。私たちも無理をせず、ゆっくりとした日程でウェスターに向かう事になった。
ブレイズ伯やブラックリー伯も、
「どうせ時間がかかるならケアリー経由で行かれてはどうか」
と熱心に誘ってくれたが、それはどうせ、四侯と自分が知り合いで仲の良い所を領民にアピールしたいだけだとわかっていたので、お父様が慇懃にそしてやや無礼にお断りしていた。
「リアが戻ってきて、あちこち自由に動けるようになったら、成人するまでの間ルークの好きなところに行くがよい。だが、少なくとも今はあいつらに利するようなことには一切手を貸さぬ」
とはお父様が私にこっそりとささやいたことである。リアをさらったものを素通りさせたこと、その後の調査に協力的でなかったことを未だに根に持っているらしい。何にも大して興味のないようなお父様が、実は根に持つタイプだというのは面白いことだと思う。
一方でローグ伯とタッカー伯は、とても気持ちの良い方々ではあった。ローグ伯の領地は辺境とは接せず、山脈とも遠い農業地帯だ。もし結界が存在しなかったとしても虚族の被害が少ないと思われる土地柄からか、あまり四侯だとか結界だとかについてはこだわりのないお方のようだ。
タッカー伯は、まさにウェスターの領都の間近に位置するので、今度のことを一番真剣にとらえている。また、キングダムからの使者の一人として、ウェスターまで付き添うことにもなっている。
「もともとウェスターとは、特にシーベルとは交易が盛んでな。魔石の輸入もうちとブラックリーが半々か、いや、ブラックリーのほうがやや多いか」
が現状だそうだ。キングダムで魔石を扱うオールバンスは、今までブレイズとブラックリーを中心に取引してきた。だからこそ私の産みの母もブレイズの者でもある。
しかし、この夏休みを通し、北のネヴィル伯とも交流し、お父様の目はファーランドにも向いた。そして今回のことを通して、ウェスターという国でもケアリーという町でもなく、シーベルという町そのものに目が向いた。
わずか11歳ではあるが、いや11歳だからこそ、周りの者も油断して警戒がない。見定めよと、もちろんそのようなことは言われてはいない。それでもこれから先二度とリアを奪われ利用されないように、できるだけのことはしようと、そう決めているのだ。
「堅すぎだろ」
「ギルが砕けすぎなのですよ」
「あんまりカッチカチだと、リアに嫌われちゃうぜ」
「な、そんなことはありません。リアは、どんな私でも、そう、どんな私でもきっと『にーに』と言って抱き着いてくるに違いないのです。ギルこそ、たまに遊びに来る兄の友達などきっと忘れられていますよ」
「そ、そんなことはない。かわいい声で『ぎる』って呼んでくれるさ、きっと」
のんきなのだ、リスバーンの者は。お父様の気持ちが少しわかる気がした。
「そういえばウェスターの第一王子もギルバートでしたね」
「ま、まさかそっちもギルって呼ばれてるとか?」
「区別がつかないかもですね」
「いや、大丈夫、大丈夫だ」
ぶつぶつ言うギルを横目で見ながら、秋の気配の濃い草原に竜をゆっくりと進めていく。もう少し。もう少しだ。
次はリアに戻ります。来週月曜日に更新する予定です。それから、土曜日には「この手の中を、守りたい」番外編をあげます!
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