円卓会議2(ディーン視点)
伯爵がたくさん出てきます。キングダムは中心に王都があり、結界がそこからキレイな円でひろがっています。その外側の北がファーランド、東がイースター、南西がウェスター。それを頭に入れると位置がわかりやすいかと。
円卓会議とは言うが、実際には大きな四角いテーブルを囲んでいるだけだ。壁を背に王、両側に王子二人、王の右手に侯爵4人、左手から正面に伯爵9人、それに監理局の老害二人。
「ディーン」
「私は何も言っていない」
スタンがまた私をたしなめた。レミントンが私のほうを見てほんの少し口元を緩め、モールゼイがやれやれと眉を上げる。アンジェはもう40歳近いはずだが相変わらずミルクティー色の髪が美しい。
「ディーン」
「わかっている。せめて美しいものを目に入れていたいと思うことの何が悪い」
「何もかもだ」
ごく小さい声で話していたつもりだ。
「今回の招集は、オールバンスとリスバーンにかかわりの深いことと聞いている。その当事者二人がそのような態度では会議の先が思いやられる」
「ほら、お前のせいで俺まで巻き添えに」
「黙れスタン。ブレイズ、これは会議とは関係ない戯言。気に止めてもらうまでもない」
ブレイズとはダイアナの実家だ。位置としては王都ガーデスターの南に接する。つまり、リアを連れた犯罪者に気づかずやすやすと通した領地だ。さっそくかみついてきた。
いちいち取り合っていては時間の無駄だ。それについ私のほうに目が行きがちだが、この真剣な場をちゃかしているのは主にスタンだ。そしてそれらをさらっと無視して、
「さて、さっそくだが」
と話し始めたのは第一王子のランバート殿下だ。
「会議の議題は、あらかじめ連絡してある通り、ウェスターの王家からの要請だ。古の結界箱を再起動させたいので、足りない魔力を補える人材を派遣してほしいということだ」
「必要ないでしょう」
切り捨てたのは先ほどのブレイズだ。四侯はそれぞれ静かに聞いているだけである。円卓会議では、身分の上下は関係ない。等しく意見を言う権利を有している。それに、役割分担が違うために、単純に爵位で力を測れない。
私たち四侯と王家は結界を維持するために別格である。しかし、伯爵以下が領地を治めることでその生活が成り立っている。勢力争いをすること自体が無駄なのである。
「キングダム自体には現状何の問題もない。それはウェスターが結界箱を作動させようがどうしようが関係のないことだ」
数人が頷いている。
「やりたければ止める筋合いもない。自由にやればいい」
「それはどうか」
反論したのはタッカーである。タッカーは辺境と接する領地を持つ五伯の一人だ。その中でもウェスターの領都、つまり結界箱を使おうとしている町に一番近いところに位置する。関係ないではいられない立場だ。
「ブレイズ殿の領地は辺境に接していないからわからぬやもしれぬが、辺境の我らは、常にキングダムの結界内に入ろうとする辺境の民とのせめぎあいが絶えない場所だ。もちろん、交流も大きい。ウェスターの機嫌を損ねて直接影響を受けるのはうちとブラックリーなのだぞ。関係がないことと軽々に切り捨てないでもらいたい」
正論である。
「私が気になっているのは、一つ認めたら他の領でも援助を求めてくるかもしれぬと言うことだ。今のところファーランドでそのような話が持ち上がっていると聞いたことはないが、ファーランドと接しているネヴィルとしては、容易に賛成することはできない」
「うちもだ」
ネヴィル伯に賛同したのは、やはりファーランドに接するダットンだ。ここで皆の視線はラドックに向かった。ラドックは、唯一イースターに接する領地だ。
「私はどちらでもない。王家の決めたことに従う」
ラドックは肩をすくめそう言った。自分には関係がないと思っているのは明らかだ。確かにイースターは虚族の発生が少なく、キングダムの穀倉地帯のようなものだ。イースターの地で、古の結界箱をと言う話にはならないだろう。
「表立って賛成はタッカー、ブラックリー、反対はブレイズ、ネヴィル、ダットン、あとの領地持ちは中立か」
第一王子がまとめた。
「領地持ちは、と言われたが、殿下。四侯はどうなのですか。先ほどから何も言わぬが、キングダムから出られないから関係ないとでもいうおつもりだろうか」
そう声を上げたのはタッカーだ。王子は鷹揚に頷くと、
「それではここで、書簡では詳しく伝えられなかったことを明らかにしよう。どうやらウェスターには、リスバーンの落とし子とオールバンスの赤子がいるらしい」
テーブルの上には驚愕のあまり沈黙が落ちた。ネヴィル伯が確かめるように私を見、私も軽く頷いた。
「オールバンスの赤子とは、つい数か月前に行方不明となったという、あの」
ブラックリーが気まずそうに確認した。ブラックリーにはケアリーがある。つまり、この領地を通ってリアはウェスターに出たのだ。
「そうだ。行方不明になったのではなく、何者かにさらわれたのだ」
不運な事故のように思われては困る。
「生きて見つかったとは」
この失礼な男はブレイズだ。
「その、リスバーンの落とし子と言うのは」
「知っての通り、わが父は女好きだった。あちこちに種を落としたが、夏青を継いだ私の弟だけが見つかっていない。どうやらウェスターにいたらしい」
「夏青だと……」
スタンの言葉に驚きを隠せない。
「二人揃ってウェスターのトレントフォースにいるらしい。ウェスターの王家が迎えに行っているから、引き取りがてら魔力のあるものを派遣してほしいと、要はそういうことだ」
ランバート王子は淡々とそう語った。
「脅しか?」
「いや、それに屈してはキングダムの威厳が」
「しかし四侯の血筋をキングダムの外に出したままでは……」
円卓は急にざわつき始めた。
「監理局はどのような方針なのだ」
ブレイズが監理局の老人二人に尋ねた。監理局にももちろん等しく発言する権利はある。
「監理局としては、まず四侯のお血筋は必ずキングダムに戻していただきたいということのみですな」
「魔力もちを派遣と言うことについてはどう思うのだ」
「キングダムの結界を維持する立場以外の方が派遣される分については、問題ないかと」
「つまり監理局は賛成、ということか……」
良くも悪くも、監理局の考えることは結界の維持だ。
「しかしウェスターは卑怯ではないのか。つまり、四侯の幼いものを人質にとって、引き換えに魔力もちを寄こせと言うことであろう。一度譲歩すれば何度でも譲歩することになる。安易な受け入れは、キングダムの将来のためにはならぬぞ」
そう言ったのはネヴィル伯だ。わかっている。クレアの父たるネヴィル伯は、家族も大切だが、領民を、そして国民を大切にする大きな視野を持っているということを。私の気持ちを思いやり心苦しく思いながらも言わなければならぬことは言うお人であると。
そのとき声を上げたのは、今まで黙っていたコールターだ。王都の北西部、湖とウェリントン山脈に接する領地を治めている。
「それに、魔力もちを派遣するといっても、いったいだれを派遣するというのだ。20年前のことを忘れたか。レミントンの当主は当事者であったから当然知っているとして、お若い当主方よ、結界の魔石に魔力を注げるだけの魔力もちは貴族にも多くないぞ」
私は腕を組んで心の中で頷いた。オールバンスにもそれほど多くない。むしろ、魔道具職人のほうが魔力もちが多いくらいだ。
「四侯のお血筋からは、どのような者であれ、キングダムの外に出るのはやめていただきたい」
監理局の者が余計なことを言った。
「つまり、四侯の血筋を守るために、四侯以外の貴族から魔力持ちを出せと、そういうことなのか」
そうつぶやいたタッカーの声は静かな怒りが込められていた。
次は月曜日に更新します。さて、昨日はぶらり旅3巻の発売日でした。本屋さんにちゃんと並んでいましたε-(´∀`*)ホッ
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