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転生幼女はあきらめない  作者: カヤ
辺境編

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魔力を見るということ

 次の日さっそくリアを迎えるための手配を整え始めた。現在元気に暮らしているらしいとはいえ、何があるかわからない。早く迎えに行かねばならない。何より、早く会いたくて気がせいていた。ルークも一緒に起きてきてそわそわしている。


 屋敷に久しぶりに明るい空気が漂っていた。しかし、私はふと思い出した。


「そういえば、モールゼイのところが訪ねてくるかもしれないのだったか」


 まあ、連絡が来たら来た時のことだ。


 しかし、捜索人は昨日、暗いニュースももたらした。ハンナだ。


 報告はただ、リアを乗せたラグ竜が向かったであろう場所に、辺境では珍しい、メイド服の若い女性が虚族の被害にあっていたというだけのものだった。幾多の盗賊と共に倒れていたらしい。


 そこには幼い子供の姿はなかったということ、だから力を入れて捜索の手を広げたということを話していた。


 それがハンナかどうかはわからない。伝える家族も行方不明の中、ハンナの行く末を気にしたはずのセバスもいない。


 しかし、その後の調査でさらった実行犯がハンナであるのは疑いようもなくなった。それでもおそらく、ハンナが裁かれるのをリアは悲しんだだろう。


 戻ってこなければ、裁かれることもない。冷たいようだが、私の頭に浮かんだのはそれだけだった。


「明日には出発できるか……」

「気がはようございますが、私はいつでも出発できます」

「そ、そうか」


 ジュードが積極的で、こんな人間だっただろうかと少し不思議に思う。セバスがいなくなってから屋敷の人事の方も管理せねばならず、仕事は増える一方だったと思うのだが。


「ディーン様。この屋敷は大きくはあっても代々華美にはならず、最小限の人員で動かしてまいりました。しかし、その分細かい所は都度都度下働きに任せることも多く、それが結局リア様を大切にできなかったこと、また誘拐を許した原因になったと言えなくもないのです」


 リアを大事にできなかったのは主に私の責任なのだが。


「だから一人いなくなっただけですぐに屋敷がうまく回らなくなる。セバスの一件以来、身元を確認しつつも若い執事見習いもメイドも少しずつ増やし、教育を始めております。私の不在はその若い者らにとってもいい経験となりましょう」


 今日のジュードは饒舌である。


 そして来なくてもいいのにやはりモールゼイは訪れた。


「何やら忙しい所に来てしまったようだが」


 バタバタする屋敷の空気を感じ取ったのか、多少遠慮した風であるハロルドは、若い後継を伴っていた。


「初めてではないとは思うが、改めて紹介を。息子のマーカスだ」

「マーカス・モールゼイです。結界の間では何度かお会いしたことがあります」


 そう言って軽く頭を下げたのは、今年二十歳になったのだったか、モールゼイの二代目だ。父より明るい冬雲の目をした、線の細い若者だった。少し長めの髪を、後ろで一つにくくっている。


「ディーン・オールバンスだ。こちらが息子のルーク」

「初めまして。学院に残っている魔力考察のレポートを読ませていただき、一度お会いできればと思っていました」

「あんなつたないものをか。私でよければいくらでも話をするが」


 ルークの純粋な先輩へのあこがれの気持ちを受けて、マーカスは固かった態度を和らげた。


 私も学院のころは片っ端から文献をあさったし、先輩と呼ばれる人たちのレポートもよく読んだ。結果として、何の役にも立たないということが分かっただけだったというのに。


 こうして自分から行動して人とつながっていくルークを時々知らない生き物のように思う。それが自分の息子だと思うと誇らしくてならない。


 そうしてルークと並んでルークを優しく見下ろしているマーカスを眺め、何か違和感をもった。ハロルドの息子。一族では抜きんでた魔力。しかし、四侯としての仕事をするにはいささか心もとない魔力量であるという情報。


「おかしいな」


 ふと漏れたつぶやきを、同じく無表情な顔をやや和らげて二人を見ていたハロルドが聞きとがめた。


「何がだ?」

「ハロルド、確か息子の魔力量が少ないと言っていたようだが」

「ああ。だからここに連れて来た」

「ルークに勝るとも劣らない、少なくとも四侯が持つ程度の魔力は十分にあると思うが」

「なんだと?」


 驚いたハロルドは、思わずマーカスに目をやった。


「な?」

「な、ではない。そもそも魔力量など見えぬだろう」

「は」


 見えぬわけがない。体にもう一つ体があるように重なっているあの魔力が。


「では、ハロルド、むしろなぜマーカスの魔力が足りないなどと思ったのだ」


 むしろそのほうが不思議だ。


「それはもちろん、結界に魔力を充填する時に、魔力切れ寸前だからだ」

「そんな理由か」


 私はうんざりした。それは魔力を増やす増やさないの問題ではなく、恐らく魔力コントロールをうまく教えられていないからではないのか。学院は何を教えているのか。


「お父様」

「なんだ、ルーク」

「学院がきちんと教えられないからこそ、毎週末、お父様が訓練してくださっていたのでしょう」


 そういえばそうだ。学院は四侯のためだけにあるのではなく、貴族全体のためにある。もちろん、中には平民もいるが。したがって魔力量の多い者の魔力の扱いについては今一つなのだった。


「ジュード、結界箱用の魔石をもて」

「はい」


 まずは大きい魔石を用意し、どれくらい魔力の扱いができているかどうかチェックすべきだろう。ルークが小さい魔石から訓練してきたことを、大きい魔石を使って確認していけばよいか。


 ジュードのもって来たほとんど空の魔石には、さすがに顔色も変えずに魔力を充填することができていた。しかし、私とルークは一瞬顔を見合わせ、かすかに首を横に振った。


 魔力の使い方がほとんどできていない。


「ルーク」

「そうですね。まず体内の魔力循環からやり直さないと、そもそも自分の体の調整ができていないようです」

「そうだな。長年自己流でやってきたもののゆがみを感じる。だから魔力充填の際、体内の魔力が無駄に空中に拡散している。つまり、魔力が漏れている」


 ルークと私のやや辛辣な表現に、思わず口元をゆがめたのはハロルドだった。マーカスはぽかんとしている。そのような指摘を受けるとは思わなかったのだろう。


「ルーク、いけるか」

「任せてください。普段からギルの訓練は私がしているではないですか。魔力を自覚しない人の訓練は慣れています」

「ちょっと待て」


 私はハロルドとマーカスに断って、ルークと共に一旦席を外した。


「ルーク、さっきの件だが」

「はい?」

「ハロルドは魔力が見えないと言った。お前も、その、魔力を自覚しない人がいるとかいないとか……」

「ああ。お父様、やっぱり気づいていなかったのですね」


 ルークは大人のように肩をすくめた。


「私は学院に行ってすぐにわかりました。世の中の人の多くが、魔力を目で見ることはできないようです」

「なんだと」


 私は心底衝撃を受けた。


「ではスタンがあれほど愚かしいのは」

「愚かしくなどありませんよ。お父様は友達にも容赦がありませんね」


 ルークはあきれたように私を見た。


「魔力を目で見ない分、体の感覚に頼らなければなりません。その感覚はあいまいで自覚するのはとても大変らしいのです。大人になってしまえばましてそうでしょう」

「ではギルも、スタンも」

「魔力は見えていません。ギルは私と共に虚族を体感したから覚えが早いだけです」


 珍しく驚いて何も言えないでいる私をまっすぐにルークは見た。


「そしてこのことは他には知られないほうがいい。これ以上オールバンスの利用価値を高める必要はありません」


 モールゼイの力を引き上げるはずが私の自覚を促す日となってしまった。


 もちろん、モールゼイ親子にはルークがしっかり訓練を施していたが。


 モールゼイ親子は何か手ごたえを感じたらしく、折を見てはまた訓練をしたいとのことで、頻繁に屋敷を訪れそうな気配だ。来なくてもいいのに。


 二人を送り出してから、私は監理局ではなく、王に直接使者を送った。娘の消息がつかめたかもしれないので、確認を兼ねて迎えの者を送るつもりだと。行く先が辺境のウェスターであるだけに、後でごちゃごちゃ言われたくない。


 もっとも、王にごちゃごちゃ言われたことなどはない。うるさいのは監理局の者だ。


 今回、四侯の直系の者が遠出するわけではないので、監理局に申請する必要はないのだ。私はそのことに小さな満足感を味わっていた。


 ところが、使者は、とんぼ返りで城から戻ってきた。逆に王宮からの使者が来るとだけ言付かって。


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― 新着の感想 ―
お父様面白いけど友人方は苦労しそうだなあ
[気になる点] 「マーカス・モールゼイです。結界の間では何度かお会いしたことがあります」 そう言って軽く頭を下げたのは、今年二十歳になったのだったか、モールゼイの二代目だ。 ↑ との一文がありました…
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