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転生幼女はあきらめない  作者: カヤ
辺境編

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連れていくか、いかないか

「そうだな。明日からどうしようか」


バートが迷いを見せた。アリスターがそわそわしている。


「りあ、おりこう。しじゅか。しゅわってる」

「確かに旅の間もお利口だったが」


バートが考える。


「俺、俺が引き取ったんだから、職場にも連れていく」

「しかしなあ。ブレンデルのとこは、俺もいるから安心は安心なんだが」


保育園のようなところはないのだろうか。


「こども、あちゅまる?」

「あちゅまる? ああ、集まるか。子どもが集まるのは午後になってからで、それまでは赤ちゃんは家にいるし、少し大きい子は家のお手伝い、そんでアリスターのように見習いで仕事をしている奴もいて、表には出てこないなあ」


バートはちょっと悩む様子を見せたが、


「さ、まず飯にしよう。旅の間は食べるもの限られてたからなあ」


と気持ちを切り替えたようだ。そしてミルとともに、包みを開いていく。


柔らかそうなパンは、ミルが包丁で薄く切っていく。まだ湯気を上げている肉は、大きな肉を薄くそぎ落としたものらしい。それからアリスターの手のひらより大きい茄子のような野菜に、ソースがかかっているもの。芋をつぶしてふんわりさせたもの。


芋をつぶしたやつは屋敷でも食べたことがある。しかし、肉はまだたくさん食べさせてもらえなかったし、野菜は柔らかくして形の分からないものしか出なかったから、とても嬉しい。


ミルがお皿を一枚とって、茄子を小さく切り、肉をさらに小さく切り分け、芋と薄いパンを一枚添えて私の前に置いた。ちなみに私は、一番大きなクライドの膝にのせられている。


「まずベッドより先に椅子だなあ」

「椅子は借りてこれないか」

「どっかにはありそうだな。よし、明日あたってみよう」


そんな話をしている横で、一番小さいフォークをもらい、まず肉に刺す。うまく刺さった。それを口に持っていく。あーん。まだ歯は前歯しかないけど、小さく切ったそれを一生懸命噛む。何のお肉かはわからないけれど、うまみがジュっと出てきておいしい。


「おいちいー」


皆の顔がほっと緩む。お芋は柔らかいからフォークで楽々。ナスもソースと合っていておいしい。気が付けばパンも全部なくなっていた。


「お代わりは?」

「いらにゃい。ありがと」


お腹がポンポンである。


「うーん、リアのこと考えたらうちでも少し料理をしたほうがいいなあ」

「今まで食堂で食べることが多かったからな」

「ちぇ、掃除しなきゃか」


料理人なら清潔は基本である。料理しなかったから汚かったのか。


「りあ、そうじ、てちゅだう」

「そうだな。仕方ない。あちこち掃除だな」


その後、私のお風呂はやっぱり桶だったが、どうやらお風呂と言うものはないようだ。その後、寝付くまでアリスターが見ていてくれたようだが、久しぶりのベッドにあっという間に寝てしまった私だった。


☆ ☆ ☆


「なあ、明日からリアのこと本当にどうするつもりだ」

「だから俺が」

「アリスターはちょっとだまってろ」


キャロが少し厳しい調子で俺に尋ねてきた。


「いや、俺とアリスターが手伝ってるブレンデルのとこに連れてくのが最適だと思う」

「じゃあ何を悩んでるんだ?」


腕を組んで座っていた俺は、力を抜いてテーブルに肘をついた。


「一つはリアを隠すか隠さないか。もう一つはブレンデルのとこは、細かいものが多くて赤んぼにはあぶねえんじゃねえかってこと」

「そんなことか」


キャロはあきれたように言った。


「隠しても隠しきれるもんじゃない。アリスターと同じだ。最初っからはっきりさせといたほうがいい」


他のみんなも頷いた。


「それに、大工仕事のほうがよっぽど危ない。魔石屋は少なくとも室内の仕事だろう」

「室内でも、料理人もあぶねえ。あと食堂にはいろんな奴らがくるしな」

「家で一人は論外」


決まったようなもんだろう。四人は俺を見た。


「わかってる。わかってるって。でもなあ」

「まだなんかあんのか」

「今日ブレンデルのとこに報告に行ってさ、ついでに今回取ってきた魔石も売ってきたんだよ」


それがどうしたという顔をみんなした。ハンターは魔物を狩る。魔石を売る。当たり前のことだ。


「あれだけ質のいい魔石と、魔石の量だよ。俺たちの二年分くらいの稼ぎになったわ」

「すげえな」

「ブレンデルはアリスターの結界箱のことを知ってる。けど、それだけじゃないってわかっていろいろ追及されてな。知っといた方がいいと思って、リアのことも話した」

「いいんじゃねえか」

「アリスターとリアのことを欲しがる奴が出てくると思うとうっとうしくて」

「領都の奴らか」

「ああ」


アリスターがうつむく。今は町長が止めてくれているが、結界に守られているトレントフォースに強い魔力もちがいるのはもったいないから、アリスターを領都に寄こせと言ってきやがったんだ。


「二人いるならどちらかを寄こせと言いかねない」

「あるいはどちらもか」

「俺は!」


アリスターが顔を上げた。


「俺と母さんが困っているとき、もし領都にいて、その時領都の人が助けていたなら俺だって恩を返したさ。けど、結局俺たちはトレントフォースを目指してトレントフォースで世話になった。領都に行って、魔石に魔力を入れるだけの仕事をするなんて嫌だよ。知り合いだっていないのに」


ミルがアリスターの肩をポンと叩いた。


「俺たちからそんなことはしねえよ。お前言ってたろ、キングダムでだって、基本的には18になるまで魔力を使って充填する仕事はしねえほうがいいって。10歳からは、ぎりぎり許されてて、無理は駄目なんだって」


ミルは意外とこういう肝心なことを覚えている。


「それなのにお前を欲しがるって言うこと自体が怖えよ、俺は。領都は何がしてえんだ」


ミルの言うことはもっともなんだ。だから町長も頷かねえ。


「だからさ、魔石屋は結構人が多いし、リアが魔石に魔力を充填できることがわかったら嫌だなと思ってさ」

「確かにな」

「リアには普通の赤ちゃんのように振る舞ってもらわないと」

「ぷっ」


俺の言葉にキャロが笑い出した。


「なんだよ」

「だってさ」


キャロはひとしきり笑ってからようやっとこう口にした。


「リアが普通の幼児じゃねえって、結局みんなわかってるんだなって」

「あ」


俺、なんて言った? 無意識だった。キャロはまだおかしそうにしている。


「普通の赤ちゃんのように、だけじゃなくてさ」

「なんだよ」

「そう振る舞うようにリアに言ったら、そうリアがちゃんと動いてくれるって、それどんな幼児だよって話。ミルだってできるかどうか」

「できるぜー」


ミルがにやりとして茶々を入れた。キャロはまじめな顔をした。


「旅の間一度もわがままを言わず、必要なことはきちんと口に出し、最初の時以外泣きもしねえ。そのくせ寝てるときは父ちゃんと兄ちゃんを呼ぶ。一生懸命我慢してる大人だろ、それ」

「そうだなあ」


ミルが両手を頭の後ろに当て、背をそらしている。おい、転ぶぞ。がたん。あーあ。


「痛ってー」


ほらな。


「けど、かわいいんだ」


アリスターがぽつりと言った。


「一生懸命でお利口だけど、何にでも驚いて、初めてだって顔をして、抱っこしろって言ったり、かと思えば歩きたいとか、わがままなところもちゃんとあるんだけど」

「自分は絶対無理はしない、俺たちにも無理はさせない」


アリスターの言葉をキャロが引き取った。


「無理したら後で困るのは自分たちだってちゃんと知ってるんだ」


変な赤んぼなんだ、リアは。


「どんな変な赤んぼでも、一緒にいたい。大切にしたいんだ」

「そうだなあ」


ミルが地面に転がったままアリスターにのんきに返事をしている。俺も椅子にそっくりかえった。


「わかってるよ。わかってる。正直に言おう。俺だってリアがかわいい」

「俺も」

「俺も」

「おーれーも」


最後はミルだ。まったく。


「リアのことは隠さない。だけど、魔石に魔力を充填できることは言わせない。それから、できるだけ守る。それでいいだろ」


みなしっかり頷いた。それでいい。リーリアは、明日からトレントフォースのリアになるんだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] お腹ポンポンは岐阜とかの方言だそうです。 標準語でいいやんとおもう
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